サーチファンド#02:サーチファンドのはじまりと成功事例
サーチファンドのはじまり
最初のサーチファンドが生まれたのは1984年。
スタンフォード ビジネススクールのH. Irving Grousbeck教授は、若き経営者候補が中小企業を買収するための新しいM&Aファンドのコンセプトを具体化する。
投資家から大きな買収資金を獲得する前に、先に買収先企業を探してくるというコンセプトは「サーチファンド」と呼ばれ、1984年の誕生以降1-2件/年のペースで新しいサーチファンドが組成されていった。
大成功事例、Asurionの誕生
サーチファンドの組成が活発になり始めるのは1995年あたり。
サーチファンドの成功例として有名な二人のアントレプレナーによるAsurionも、この年代に設立されている。
当時スタンフォードMBA生だったKevin Taweelと R. James Ellisは、起業を志すもののどんな事業を起こすべきか悩んでいた。この時、ビジネススクールのメンターであったH. Irving Grousbeckに相談したことがきっかけで、KevinとJamesはサーチファンドを設立し、後に大成功を収めるAsurionが設立されることとなる。
KevinとJamesのサーチファンドAsurionの買収先となったのはRoad Rescueという企業である。
いわゆるロードサービス(自動車が壊れた時のけん引・サポート)事業を営んでいたこの企業の当時の売上は$6million(約6億円)、従業員数45人。
この決して目立たないローカル中小企業は、サーチファンドAsurionによる買収後、飛躍的な発展を遂げる。
KevinとJamesは、当社のロードサービスが携帯電話販売店を通じて販売されていたことに着目する(まだ携帯電話のサイズが大きく、主に自動車に置かれていたため、このような販売チャネルとなっていたようだ)。KevinとJamesは、ロードサービスだけでなく携帯電話向けの保険の販売にも乗り出し、そこからAsurionの保険会社としての飛躍が始まる。M&Aやグローバル進出も行うなど積極的な成長を実現し、この企業はサーチファンドによる投資後約15年で$2.5billion(約2,500億円)、従業員10,000人以上の企業へ、つまり数百倍の企業に変貌を遂げる。
まだまだある、「普通の中小企業」が大成功した事例
Asurionの他にも、大成功を収めた事例は多い。
ハワイで従業員管理のアウトソース受託を行っていたProservice Hawaiiは、2005年にDustin SellersとBen Godseyによるサーチファンドにより買収された。DustinとBenは、単なる人材派遣であったサービスを付加価値の高いプロフェッショナルサービスへと進化させ、Proservice Hawaiiは数々のAwardを受賞するハワイNo.1事業者へと成長した。
また、LoudCloudの初期メンバーの一人であったMike Smerkloのリーダーシップにより2003年に上場した、ServiceSource社(収益管理ソリューション事業)も、サーチファンドの事例として取り上げられることも少なくない。
0→1タイプではない、10→100タイプの人にとってのアントレプレナーシップの形
これらの例のように、サーチファンドの投資対象は、時代の先端を行くテクノロジーベンチャーでも、バイオ企業でもない。いわゆる「普通の中小企業」に可能性を発見し、大きな成長を実現するのがサーチファンドの投資テーマである。
一般的に、ロードサービスのような地味な事業を行っている中小企業にはなかなかMBA卒のような経営のエリートは集まらない。中小企業にマネージャーとして雇われても、やれることも報酬もたかが知れているからだ。
これが、雇われるのではなくオーナー経営者になれるとなったとたんに、仕事の面白さも経済的アップサイドも一気に魅力的になる(当然リスクも責任も大きくなるが)。
これまで見向きもされなかった地味な事業が、優秀で野心のあるビジネスマンをひきつける対象となったことは、サーチファンドという仕組みが生み出した大きな意義の一つであると思う。
月並みだが、0→1を創るのが得意な人と、10→100を実現できる人は違う。
アントレプレナーシップというと、(特に日本では)0→1の起業くらいしか選択肢がないが、10→100タイプの人がアントレプレナーシップを発揮できる仕組みとして、サーチファンドには大きな可能性があると感じている。
(※Asurionに関する記述を一部修正しました)
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サーチファンドに関する他のnoteはこちら
01:個人が中小企業をM&Aする新しいアントレプレナーシップのかたち
03:データでみるサーチファンドの広がり、実績、リターン
04:サーチファンドに必要なバックグラウンド、スキル
05:私の経験(1/4) -きっかけ、投資家まわり
06:私の経験(2/4) -投資先企業探し
07:私の経験(3/4) -ファンド設立・運用の実務と意味
08:私の経験(4/4) -ヨギーとの出会い、投資実行、経営
09:日本でのサーチファンド浸透のために
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