ハン・ガン(訳:斎藤真理子)『すべての、白いものたちの』
今日のおすすめは、ハン・ガン(訳:斎藤真理子)『すべての、白いものたちの』です。
韓国の光州生まれの作家で、ブッカー国際賞、ノーベル文学賞を受賞しています。
散文詩と写真が混ざり合う絶妙な構成は、なんともいえない静けさを纏い、その写真の中の彼女の所作は、見えないものとの交わりを表しているようで、テーマである「白」の持つ世界を、より厳かにしています。
『すべての、白いものたちの』には、たくさんの白いもののお話が出てきます。65もの物語の中の白いものは、形を留めておけない、消えていくものが多く、無常な感覚がつきまとうのですが、一つの物語を読み終えると、そのお話が心の中に染みこんで、わたしの思い出として居るような気がしてきます。
こちらは、塩について…
「ある日彼女は、一つかみの粗塩をよくよく眺めてみた。白っぽい影を宿したでこぼこの塩の粒子はひんやりと美しい。何かを腐らせずに守る力、消毒し、癒やす力がこの物質に宿っていることが、実感できた。」p81
こちらは、息について…
「寒さが兆しはじめたある朝、唇から漏れ出る息が初めて白く凝ったら、それは私たちが生きているという証。私たちの体が温かいという証。冷気が肺腑の闇の中に吸い込まれ、体温でぬくめられ、白い息となって吐き出される。私たちの生命が確かな形をとって、ほの白く虚空に広がっていくという奇跡。」p87
彼女が得た感覚はわたしにも出来得る体験であり、わたしにも彼女のその非凡な感性を感じ得ることができます。
是非ともこの感覚を味わっていただきたいです。
実は…昨年KIMAMA BOOKSオリジナルの文庫『庭の中』を作るとき、店主クドウと意思疎通をするために、お互いにこちらの本を何度も読んで参考にし、やり取りしました。
韓国文学の出版をされているクオンさんの目録の表紙を撮影した時、寄稿もさせていただいたのですが、そこにもこちらの本の文章を(無理くり)引用しました。
とても思い入れのある憧れの大好きな本に、まさかのノーベル文学賞の帯が付く日が来るなんて!本当にハン・ガンさん、おめでとうございます!嬉しすぎます!
いつか、KIMAMA BOOKSにゆかりのある方が受賞する日がきますように…。
いわい
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