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母蛙

蛙は言う。

SNSの台頭でずっと心にしまっていた言葉が可視化された、と。

蛙は言う。

これで私たちの想いが世界中に広められる、と。

蛙は言う。

何が正しい世の中で何を自分たちがすれば良いのかなんてわからない、と。

蛙は言う。

それでも自分のやるべきことを僕はやります、と。


私は蛙に向かって言う。


それでみんなで集まって合唱をしているんだね。密になって。


蛙は言う。

そうだよ。キミもやるかい?


私は蛙に言う。

ごめんよ。キミたちの誰が美声で、何に違いがあるのかわからないんだ。眠れないから見にきただけだよ。


蛙は言う。

わざわざそんなこと言うなんて暇だね?こっちは想いを世界中に届けなきゃいけないんだ。


私は言う。

ああ暇さ。キミたちの声がうるさくて眠れない。


蛙は言う。

残念だけど、キミには消えてもらうよ。ブロックだ。


たったこれだけのことで、私は世界から消える。


今日も蛙は大声で歌う。本番に向けて。

本番が終わると、今度は次の本番に向けて歌う。


蛙の合唱に、終わりなんてこない。

彼らの世界が、終わらない限りは。

加藤は激怒した。

必ず、かの邪智暴虐の松岡を除かなければならぬと決意した。

加藤には私の仕事がわからぬ。

加藤は本社請求部門の二年目女性社員である。

笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。

けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。


『私の仕事は松岡さんの仕事のチェック要員じゃないんです。確認事項が必要ないくらいの仕事をしてください』

「いやいや加藤さん。そちらの質問は僕は全部100%回答してますよ。小出しで次から次へと確認事項出してくるのはそちらの部署さんですよ」

『だからその後から確認事項が出ないように、ゼロにするのが営業さんの仕事でしょ?』

「あのね、そんなことができる神様みたいな奴はいないし、そもそも今回はイレギュラー事案が必ず出るって先月お伝えしたじゃないですか」

『1か月あってなんの対策も出してないってことですか?』

「いいえ。対策の上でこれです。それがイレギュラーってもんですから」

『私、松岡さん専属じゃないんですよ。他にも仕事がたまってるんです。しっかりしてください』

「そうですね。じゃあメールでいれてください。口頭のやりとりやめましょう」

『気軽にメールいれてっていうのやめてください。私、昨日だって松岡さんに送るメールのせいで2時間残業になったんですから』

「そうですか。ごめんなさい。別に気軽にってことはなく、そちらさんがエビデンス必要になるんじゃないかと」

『それを判断するのはこっちです。松岡さんが指示しないでください』

「そうですね。ごめんなさい」

『ちゃんとわかってます?メモとってました?』

「とってないです。ごめんなさい」

『お願いですからちゃんと仕事してください』

「はい。ごめんなさい」

なぜこのような事態になってしまったのだろうか。


昨年、加藤は我が部署のベテラン社員にむかい、『こちらに確認事項をあげさせるようなことをしないでください』とこの度のような高圧的な物言いをかました。

それに対しベテラン社員は「そんなこと言われる筋合いはありません。勘違いしないでください。あなたはただの勘違い女です」とあまりにも痛烈なしっぺ返しをメールで、しかも我が部署の全員をCCにいれて送り返した。


当然この件は大盛り上がりとなり、普段から加藤を含めた請求部門の高圧さに苛立っていた我が部署の営業はお祭り騒ぎとなり、他は他でコンプライアンス部門やらハラスメント部門やらも総出で巻き込まれ大騒動になった。


私に言わせれば、そう返信されて然るべき女だった。


だが何もそんな、社歴の浅い人間を数の暴力で圧倒するようなマネをするのは些かやりすぎではないか。

そう思い、加藤に「色々ありますが私はやれることはやりますので気兼ねなくなんでも言ってくださいね。加藤さんのやりやすいようにやればいいですからね」と歩み寄り、甘い甘い手を差し伸べてしまったのは、他でもない私自身だった。


かっこつけちゃった…若いお姉ちゃんに良いところみせようとして…


これが失敗だった。

そこから数ヶ月、加藤の中でおそらく私はイッてしまっても良い人間と認定し、以来私への口撃は熾烈を極めることとなった。

「加藤さん、僕と加藤さんは敵ではない。仲間です。仲間である以上は双方リスペクトが必要だと思います。正直その部分で僕はいま疑いを持っているというか…」

『私が悪いって言いたいんですか?』

「いやまあ…そういうことじゃなくて…気持ち良く仕事しませんかお互いに」

『それは松岡さん次第でしょ』

「…そうですね。ごめんなさい」


なんでこんなことに…

一度距離感を誤ってしまうともう直すのは難しい。

私はこれからもこの加藤の奴隷として生きていくのが決定してしまった。なんてことだろうか。


私はわずか数カ月ほどあなた方とお付き合いしてまいりましたが、一つ言っておかなければならない事があったのです。

私はお前らのことが嫌いだと。

演劇で世界を救う??

与えられた燃料にこぞって群がるその様はまるでハイエナのよう・・・いや、ハイエナ以下です。


ここで私から質問です。

いまここで私が有名芸能人の薬物犯罪を暴いたらお前らは何をする?

騒いで、適当に登場人物が性行為をする脚本を書き、緊張と緩和だと叫んで低俗な下ネタを連呼し、

身内から「衝撃的だ」と言われ承認欲求を満たす。


「それから、どうする」


ただ自然鎮火を迎えるだけ。

何しろお前らの特技は、金を稼ぐために問題提起をするだけだから。


鎮火後叫び疲れて、身内からの賞賛や中身のない寸評やチンコ出しても感動して泣き出しそうなバカそうなおねえちゃんの涙が懐かしい過去となり


「それから、どうする」


また自分の手に負えそうな程よい問題が発生するのを待つのか。

儲かるよ?と言われるまでじっと待つ日々を送るのか。


お前らは世界を救いたいのではなく、単に普段の褒められるべきではない行為を、自分の中で別の大義事案で誤魔化したいだけ…

身なりだけは立派だが

餌欲しさに群がる無知どもだ。


狩れよ。

自分で狩れば、骨も肉も血も無駄なく本物の味が味わえる。

自分が何で命を燃やすか考えろ。

与えられるものだけに群がるから、踊らされる。


自分で探せ。

自分の不満は自分で探せ。

世界を救いたいなら、自分で探せ。

そうすれば三栄町なんかいらない。

いつも任せてばかりだから気付かない。

本当は強者だということに。

戦わなければ最弱であり、

戦えば無敵であるということに気付け。

君達に勝てる権力なんか存在しない。

君達は無敵のバッファローの群れだ。


世界を救いたいのなら、救えるじゃないか。

よく考えろ、幸せじゃないか君達は。

他の国とは違い、この国では

戦っても、銃殺されることはないのだから。

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