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涙を落として、火を消した

Netflixでaikoの2023年茅ヶ崎ライブが配信されていたため、何となく視聴することにした。

aikoに関して言えば私はボーイフレンド、カブトムシ、花火、milk、キラキラの5曲しか知らないのだが、視聴してわかったのは全部最初から最後までめちゃくちゃ恋愛ソングだらけだなということだ。


"夏の星座にぶら下がって、上から花火を見下ろして、涙を落として火を消した"


名曲花火のこの歌詞を知ったのは社会人1年目くらいで、その詩的で感情を揺さぶるような言葉に魅了され、この歌が好きだった。

けれどもいまにして聴いてみる、いや、歌詞をよく読んでみると、この名曲ですら私には「???なんかよくわかんないこと言ってるな…」くらいにしか思えなかった。


もともとの偏差値に加え、恋愛偏差値も低い。



なぜ花火を好きになったかというと、社会人1年目のときに先輩の今村さんにせっかくの日曜に仕事を手伝ってほしいと呼び出され、行ってみると仕事は嘘でずっと彼の恋愛相談に付き合わされたことがあったからだ。

朝からドトールでガールズバー嬢へのガッチガチの恋バナを聴き、そのまま飲みに行き、夕方17時をすぎると彼は「頭痛いから先帰るわ」と金を支払わずに去っていった。


帰り道に家から1時間以上かかる見たことも聞いたこともない埼玉県内の私鉄駅前で少しばかり溜息をついていると、近くから聞こえてきたのがaikoの花火だった。

どうやら高校生と思しき女の子四人組が、ストリートライブをやっていたようで、その力強く透き通った声に詩的な歌詞。そして私の心情がとてもマッチしたのを覚えている。


花火の後に彼女たちが歌ったのは、君の知らない物語だった。


この曲もまた、素晴らしいものだった。


"君の隣が良い。現実は残酷だ"


彼女達の音楽が胸を突き抜ける。


今現在、あの四人組は何をやっているのだろうか。


たとえば結婚して家庭を持っていても

まだ四人揃えば花火を歌っていてほしい。







『この1か月で6回も合コンをした』
とシロは言う。

これは明らかに私を嫉妬させるためのシロの駆け引きであり、彼女は非常にこういったラブゲームを好む。

正直こちらは少し美人な47歳の女性が誰と恋愛しようが合コンしようが何も構うことはないのだが、こういうときは適正なリアクションを取らないといけない。

「そんなに合コンするのやめてくださいよ。嫉妬するじゃないですか」

『仕方ないじゃん。友達の付き合いなんだよ』

「同年代のお友達ですか?」

『ううん。ちょっと上53歳』

やれやれ。この歳になってまでいつまでも初対面の異性に媚びたりしないといけないのか。

「じゃあ僕と合コンしてくださいよー」

『うーん。知り合いで金持ちいる?』

「年収1千万円前後くらいならいると思います」

『それじゃあダメなんだよね。少なくとも4,000万~5,000万くらいないと』


「失礼ですけど今の日本でそこまで稼げる人ってあんまりいないですよ。我々一般人と合コンする人間の多くは年収1000万円オーバーで十分な金持ちです。それ以上はみんな芸能人と合コンしますよ」

『でもその友達がね、もう老後考えないといけないから自分のためにマンション借りてくれる人を探しているの。マンション借りてくれるなら最低でも3000万以上はいるでしょ?』


まったく。愚かにも程がある。

この日本に、なんのとりえもなく毎週合コンをする初老のおばさんにマンションを全額負担して借りてあげる男性がいるわけねえだろ・・・

まったく。

「10万円前後のワンルームアパートとかなら借りてくれる人もいるんじゃないですか?」

『そんな部屋には住まないよ』

まったく・・・どんな勘違いをしているんだお前は。いやお前たちは。

「良い相手がみつかるといいですね」と私はこの話を切ることにした。

だが彼女は『その合コンで知り合った人とこの間デートしてイチャイチャしちゃった』と言う。

まだ続くのかこのラブゲームは。

「僕に申し訳ないと思うなら、その彼にしたことと同じことをしてください」


そう言うと彼女は『いいよ』と言い、じゃあ行こうと私の手を引いた。


そして我々は、秋葉原のアダルトショップへ行った。







いつからこの国はここまで多国籍国家になったのだろうか。

平日の昼の秋葉原のディープゾーンは海外からの観光客で溢れ、アダルトショップ内はワイワイガヤガヤととにかく騒々しかった。

興奮した息遣いすらも聞き取れてしまうような押し黙った空間の中で、可能なかぎりのイチャイチャを楽しむのが私は好きだったのに。

「結局こういう店で下品に騒ぐような外国人に助けてもらわないと経済のまわらない国になってしまったってことだよね」

アダルトグッズを眺める彼女の背に私は小さくそう伝えたが、どうやらそれは聞こえることはなかった。


しばらくして『試着してみようかな』と彼女は言い、いくつか下着を持ってカーテン1枚で仕切られた試着室に入っていった。

すぐにいったいどこに隠れていたのかというくらい、禿げた小さい初老の男性達が数人集まってきて、試着室を取り囲む。

外国人に隠れ、利権だけを追い求める初老のリトルジャパニーズ。まるでこの社会の縮図のような光景だ。


彼女はがっちりとおっぱいの露出した下着を着用し、カーテンを開けた。

店員さんが交通整理をし、リトルジャパニーズを排除してから1枚チェキを撮った。

その後その下着と一緒に、彼女は『プレゼント』と真っ白なブーメランパンツを私に買った。

「すぐに着用したいけど、一回洗濯しないと雑菌とかが、ね?」

とその場での着用を断り、彼女と別れた後、結局その下着は駅のダストボックスに袋ごと捨てた。


『おっぱい吸ってもよかったのに、あの場で』

吸うわけねえだろ。
エロに常識乗っ取られたら尊厳死ぬぞ。

頼むから花火や君の知らない物語みたいな恋愛を、
いや、頼むから普通の恋愛を俺にさせてくれ。







そろったつま先くずれた砂山
かじったリンゴの跡に
残るものは思い出のかけら
少しつめたい風が足もとを通る頃は
笑い声たくさんあげたい

三角の耳した羽ある天使は恋のため息聞いて
目を丸くしたあたしを指さし

「一度や二度は転んでみれば」

夏の星座にぶらさがって上から花火を見下ろして

たしかに好きなんです もどれないんです

夏の星座にぶらさがって上から花火を見下ろして


最後の残り火に手をふった

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