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『トップガン マーヴェリック』に学ぶ”高濃度なクチコミ”の重要性

こんにちは。モダンエイジの映画大好きマーケター栗原です。

5月末に公開された『トップガン:マーヴェリック』。勢いが本当に凄まじいですね。公開4週目には、国内興収59億円を達成し、あの『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』を超えて、“2022年公開の洋画No.1”に躍り出ました。

つい最近の昨年2021年は洋画がヒットに恵まれず、「洋画不振」が叫ばれていた中でしたので、『トップガン マーヴェリック』のこれほどまでの快進撃は個人的にも衝撃でした。

■『トップガン マーヴェリック』が乗り越えるべき壁

そんな大ヒットを現在進行形で飛ばしている本作ですが、”約40年ぶりの続編”であるということは、非常に大きな壁となったはずです。

本作はリブートでも、リメイクでもなく、「続編」です。そのため『マーヴェリック』を最大限楽しむためには、前作『トップガン』の予習・復習をすることがベターです。

若年層は”タイパ”(タイムパフォーマンス)志向がある、なんてことが話題になっていましたが、映画に限らず、ドラマやアニメだって面白い最新作が目白押しの中で、40年前の前作『トップガン』を観てもらうことのハードルは決して低くないと思います。

また前作の存在の大きさも、逆説的ですがハードルになりうる要素です。前作『トップガン』は公開当時、映画の垣根を超え、音楽・ファッション・乗り物と、様々な領域に「カルチャー」を生み出すほど、社会現象化した作品です

80年代のリアルタイム世代にとっては、『トップガン』はまさに時代を象徴する作品なので、熱狂的なファンもいまだに多くいらっしゃいます。そのため本作、『マーヴェリック』に対する期待値は高く、鑑賞後の温度感はどうしても高くなってしまうでしょう。

映画が面白く、続編として素晴らしいものであればレビューは超高評価になるでしょうし、逆にクオリティが低かったり、前作の要素をないがしろにしていた場合、ファンは失望し、超低評価に傾くでしょう。

それでも上記のような”続編の呪い”を乗り越え、『トップガン マーヴェリック』が世界的な大ヒットを遂げているのには、いくつか要因があると考えています。

■作品自体の圧倒的クオリティ

映画のヒットを左右する一番のファクターは、当然ながら「作品の力」です。どんなに秀逸なマーケティングを仕掛けたとしても、仕掛ける作品そのものの力が弱ければ、それは多くの人に受け入れられることはありません。

その点、本作は本当に素晴らしい作品でした。

まず血沸き肉躍る戦闘機アクション。キャストが実際に5か月間にわたり訓練をして、(一部)自ら操縦して撮影したアクションは、臨場感抜群で迫力満点。まさに大スクリーンで、音響の良い映画館で観るべき作品です。

こうしたアクションを体感するため、IMAXや4DX、さらには正面と左右両面に映像を投影するScreen Xと呼ばれる上映形式まで、付加価値のあるフォーマットの回転率も非常に高かったとのことです。

また前作のレガシーを引き継いだ、熱すぎる展開も最高でした。伝説のトッププレイヤーが、年を経て指導の現場に戻ってくる、という設定が熱いですよね。ロッキーシリーズの『クリード』や、最近でも『未来への10カウント』などの作品が、まさにこの設定で人気を博しました。

いきなり”デンジャーゾーン”で始まる冒頭からぶち上りますし、グースやアイスマンなど、前作のキャラクターも話の中心軸として登場し、熱い展開を盛り上げてくれます。

とにかく前作への愛情と敬意を感じる、それでいて新しいチャレンジも意欲的にに盛り込まれた「名作」でした。

そんな素晴らしい本作も前述のとおり、”40年ぶりの続編”である以上、鑑賞を阻む壁があることは間違いありません。ここからは『トップガン マーヴェリック』がなぜ興収60億に迫るヒットにまでなっているのかを、クチコミを切口に検討します。

■”高濃度なクチコミ”は映画の鑑賞意欲を最大化する

映画に限らず、エンターテインメントのマーケティングならではで起こりうる事象が、客観的評価よりも、1人の熱量の方が有効に機能する場合が往々にしてあることです。

この例を弊社モダンエイジの代表の記事を抜粋して紹介します。

例えば、掃除機で考えてみましょう。僕が掃除機の購入を検討中とします。僕の20年来の友人がAという掃除機を猛烈にお薦めしてくれているのですが、「価格.com」で見てみると、「買う価値無し」「お金の無駄」など、全くいい評価がありません。さて、僕はこの掃除機を購入するでしょうか。恐らく購入しません。なぜなら、どんなに関係の深い友人でも、彼は掃除機の専門家ではないからです。そして、掃除機は機能や価格で相対的に評価できます。つまり評価に占める主観の割合が客観の割合より高くなるタイプの商品といえます
一方、マンガや映画、音楽、ドラマ、舞台など(つまり、エンタテインメントと呼ばれる分野)では、客観的評価よりも、そのコンテンツに対して熱量を持ったユーザーの主観的な評価が、ゆっくり大きな影響力を持ちます。主観的で強烈な熱量があるユーザーの口コミの有無が、コンテンツのヒットを左右するのです。
http://takanoshuhei.com/2016/05/kingdom/

Yahoo!映画やFIlmarksなど、ある程度母数のある客観的評価も、当然ながら映画の鑑賞を検討するうえで重要になるでしょう。

でもそれ以上に、リアルの友人や趣味で繋がったフォロワーの、「とにかく面白くて3回も劇場に言ってしまった」、「劇場で感動しすぎて声が出るくらい泣いてしまった」、「この作品に出会えて本当に良かった」など、非常に熱量が高く、”高濃度なクチコミ”を見てしまったら、思わず劇場に駆けつけたくなること間違いありません。

私も実は映画館で2回観てきたのですが、こういう”高濃度なクチコミ”を見ると、また観に行きたくなってしまいます(笑)。こうしたクチコミには、前作『トップガン』を観たことがない人でも、「そこまでオススメするなら予習して観てみようかな」と思わせる迫力がありますし、前作の信者だって「ここまで素晴らしい続編なら安心して観に行けるな」と思わされる説得力があります。

本作のように、その作品の価値を高く評価する人のクチコミが広がり、主観的な熱量が伝染して新たな観客を巻き込んでいくことで、たとえ”40年ぶりの続編”だとしても、鑑賞の壁を乗り越え、大ヒットを起こすことができると思います。

■”高濃度なクチコミ”を生み出す方程式

じゃあ映画の内容が素晴らしかったからヒットしたんじゃないか、と言われたらおしまいなのですが(笑)、マーケティングで援護射撃をすることもできます。

リアルであれ、ソーシャルメディア上であれ、その作品の”高濃度なクチコミ”を生み出しやすい人、というのは間違いなく存在します。簡単な例で行くと、本作の場合、青春時代にリアルタイムで『トップガン』を観てきた人や、トム・クルーズに思い入れがある人の方が、フラットな人よりも”高濃度なクチコミ”をしてくれそうです。

以下弊社社長池田が提唱している話題の影響範囲を表した図なのですが、話題化は、「自分ゴト化」から発生した熱量が広がり、ソーシャルメディアで繋がった人々の間で「仲間ゴト化」され、さらにマスメディアの力を借りて、世の中の誰に話しても知っている「世の中のゴト化」に到達させることで起こります。

話題が広がっていくためには、まずはその入口として、誰かに「自分ゴト化」してもらわなければいけません。それも熱量の高い”高濃度なクチコミ”を生み出すほど「自分ゴト化」してもらう。そうでなければ「仲間ゴト化」までは広がりません。

この深い「自分ゴト化」は、例えば単に「トム・クルーズのファン」くらいの、表層的なターゲティングでは広く浅くなりすぎてしまい、難しいと思います。トム・クルーズの出ている作品なら何でも好きなのか、トム・クルーズの人柄が好きなのか、トム・クルーズのアクションが好きなのか、トム・クルーズの外見が好きなのか。

そうしたセグメントに対するコミュニケーションは、同じ「トム・クルーズのファン」の中でも変わってきますので、ターゲットを分解して、その人に最も親和性の高いコンテンツを提供することで「自分ゴト化」を促し、熱量高くクチこんでもらうことが大切です。(トライブマーケティング)

”高濃度なクチコミ”を生み出すためには、もちろん素晴らしい作品であることは前提ではあるのですが、クチコミをしてくれやすいファンを設計し、そのファンがどのようにそのコンテンツについて語るのか、語るべき要素を置いておくことも重要だと思います。

本作の場合、作品力があまりにも強く、自発的にクチコミが沢山生まれたので、特に”高濃度なクチコミ”を生み出すような仕掛けはみられなかったものの、マーケティングの力でもっとクチコミをアシストすることも可能だったのではないかなと思っています。

今回は『トップガン マーヴェリック』をテーマに、”高濃度なクチコミ”の影響力について考えてみました。本作に限らず、映画のヒットには作品力も当然大事ですが、それに付随して”高濃度なクチコミ”が重要で、そうした主観的熱量に基づくクチコミをどう生み出していくのかを設計するマーケティング視点も大切になってくると思います。

2023年公開予定の『ミッション・インポッシブル:デッドレコニング』が楽しみでなりません。

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