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『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』鑑賞意欲を引き上げる「3の法則」

■『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』大ヒット公開中

遂に遂に、待ちわびていたスパイダーマンシリーズ最新作、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム(以下NWH)』が1/7(金)に公開されました。

この3連休でご覧になった方も多いのではないでしょうか?

先んじて公開されている海外では、世界興収は15億3,585万6,116ドル(約1,770億円)となり、歴代世界興収ランキングでは現時点で8位。同じくMCU(Marvel Cinematic Universe)の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』を追い抜く勢いとなっています。
※参考 https://www.cinematoday.jp/news/N0127994

日本でも公開初日の7日から10日までの4日間の累計で、動員111万6000人、興収16億9200万円の大ヒットスタートを切っており、この勢いはしばらく継続しそうです。
※参考 https://news.yahoo.co.jp/articles/bb89bed96c592e4ecf680d83f40c776cdae1d692

かくいう私も、スパイダーマンの過去作をすべて復習したうえ、公開初日に『NWH』を鑑賞してきました。スパイダーマン映画をリアルタイムで追ってきた私としては、本当に至福の時間で、鑑賞から一週間経た現在でも、まだ余韻が残っているくらいです。そして事前に復習をしてよかったと心の底から思いました。

そう「復習」と言いましたが、大ヒットをしている本作、実は観るためのハードルが結構高い映画とも言えるのです。

■『NWH』はどんな特性を持った映画なのか

本作は”すべての”スパイダーマン映画の集大成的な位置づけとなっており、過去作のヴィランが一挙に登場してピーター・パーカーと戦ったり、過去作を熱心に観ていればいるほど、にやりとさせられたり感動させられたりする要素も非常に多く散りばめられています。

映画『スパイダーマン』シリーズ一覧(公開順)

過去作は、サム・ライミ版で3作、マーク・ウェブ版で2作、ジョン・ワッツ版で2作、アニメ版で1作と、スパイダーマン映画だけで8作品あります。さらにジョン・ワッツ版はMCUと絡んでおり、今回の『NWH』にドクター・ストレンジが登場するのを考えると、『アベンジャーズ』をはじめとした、MCUもしっかりと観ていた方がベターでしょう。

(極端に言ってしまうとですが)、本作を最大限に楽しむためには、MUCも含めると、なんと30~40本もの映画を観ている必要があり、そういう意味では、本作『NWH』は、お世辞にも間口が広い映画であるとは言えません。

TVCMなど大規模プロモーションを打つことで、映画『NWH』の存在を多くのユーザーに認知させることはできますが、そうしたプロモーションだけでは、前述した作品の特性(予習が大変)も相まり、元々スパイダーマン、もしくはMCUの熱狂的ファンではない、スパイダーマンに対してフラットなユーザーの鑑賞意欲を醸成するまでは難しそうです。

このハードルを、どう乗り越え、鑑賞意欲を引き上げるのか、それが次節で説明するクチコミの力「3の法則」です。

■クチコミの力と「3の法則」

映画において、ユーザーの心理変容、行動変容を促す最も大きな力を持っているのは、「信用できる誰かのオススメ」(クチコミ)です。

クチコミが重要という考え方自体は、当然映画においては昔から言われていることなのですが、現代では発達したSNSにより、その傾向にさらに拍車がかかっていると言えます。

私の知人にこんな人がいました。

スパイダーマンシリーズは何となく全部追っていて、TVCMなどを通して『NWH』の存在は知っていた。けれど同じヴィランが登場することからも、CMを見れば見るほど過去作の焼き直しである印象を受けてしまう。そしてMCUを追えていないが、忙しいのでもちろん予習/復習をする時間はない。だから『NWH』を映画館で観なくてもいいと思っていた。

そんな中、映画公開後のこの連休中、SNSで何度も知り合いの『NWH』に関するクチコミに当たった。「早くも今年ベスト」「人生で最高の作品」など、そのクチコミの熱狂度合いが半端ではなく、満場一致で大絶賛だった。

それを観た知人は、「そういえばスパイダーマンシリーズは追っているな」、「ベネディクト・カンバーバッチが好きだしな」、「監督の過去作好面白いな」と、一気に「絶対に観たい」という気持ちになり、今週末劇場に観に行くことに決めたようです。

上記はあくまで私の知人の一例にしか過ぎませんが、能動的に映画の情報を追いかける人が少なくなった現代においては特に、映画の鑑賞意欲が、短期間で急激に上がることの方が多いというのは、間違いない傾向だと考えています。

こうした短期間で鑑賞意欲が引き上げる現象をあえて、「3の法則」として抽象化したいと思います。

私の知人のように、
3日間前後の短期間(1/8-1/10の連休期間)で
3回以上のクチコミに出会い、
3つ以上の刺さるポイント(過去作・役者・監督)
があること。

「3」に寄せるのは少し強引ではありますが、とにかく短期間のうちに、何度も何度もクチコミに出会い、その人にとって「観たい」という気持ちになるフックになる要素を複数持っていること。これが映画の鑑賞意欲を上げるための条件であると言うことはできそうです。

こうした「3の法則」を実現するためには、多くの鑑賞者に、様々な切り口からクチコミを投稿してもらい、その熱量を共有してもらう必要があります。

■ソニー・ピクチャーズの仕掛け

詳細は長くなるので割愛しますが、色々な事情が重なり、スパイダーマンの熱狂的ファンこそが、公開前にSNSを封印するという事態が起こりました。公開後こうした人たちがSNSに復帰して、沢山クチコミを生み出してもらうために、配給元のソニー・ピクチャーズも仕掛けを施す必要がありました。

その仕掛けの一つが、「ハッシュタグ絵文字」です。

Twitterで「#スパイダーマン」を付けると、スパイダーマンのエンブレムをモチーフにした可愛らしい絵文字が後ろに付いてきます。『NWH』鑑賞後、非常に熱狂した状態のユーザーは、同じ熱狂を共有する人たちに、「スパイダーマンの仲間」として認められたいはず。そうした心理を上手くつき、スパイダーマンに関するクチコミがなされやすい状況を作り出した仕掛けだったと思います。

続いては「#スパイダーマン愛してる」のキャンペーンです。

「#を付けて投稿するとプレゼントが当たる」という、特に目新しくはないキャンペーンですが、この#のテキストが秀逸だと思います。「愛している」といった強い熱狂を示す言葉が既に含まれているので、「#スパイダーマン愛してる」が付いていれば、投稿の内容がどうであれ、それだけで鑑賞者の強い熱量が伝わるでしょう。

ましてや、このクチコミに出会う側のユーザーは、特にキャンペーン目的でこの#が付けられているとは全くわかりません。そのため、「こうした#が自発的に付けられている=それだけ凄い映画なんだ」、と思ってもらいやすい可能性もあります。

このように多くのユーザーに、短期間で何度もクチコミに出会わせるために、公式側がクチこまれやすい環境をお膳立てしてあげることも有効でしょう。

「スパイダーマン」Twitterクチコミ量推移(Boom Research)

ソーシャルリスニングツールでクチコミの量を見てみても、上記の通り、公開日の1/7(金)には、1日におよそ7万件ものクチコミが創出されています(しかもRTを除いたオーガニック投稿の件数です)。

こうして多くの投稿がなされれば、自然と前述した「3の法則」の条件を満たし、鑑賞意欲を一気に盛り上げることができる可能性が高くなります。

『NWH』について非常に多くのクチコミがなされ、事実大ヒットしている状況をみると、元々作品の持っていたパワーを、公式の後押しよりブーストするような、そうした掛け合わせが非常に上手くハマっていたと言えるかもしれません。

■鑑賞意欲を一気に引き上げる「3の法則」

以上、『NWH』が高いハードルを乗り越えて、多くのユーザーの鑑賞意欲を引き上げている状況を分析しました。

「あの人のオススメなら、頑張って復習して観てみようかな」、「あの人がこんなにも絶賛するなら、予習できてないけどそのまま観に行っても問題ないだろう」、そういった心理変容を促すことができるのは、クチコミの力に他なりません。

こうしたクチコミを使って、一気に鑑賞意欲をブーストさせるのが、短期間に多くのクチコミに出会わせ、3つの刺さるポイントを作る「3の法則」でした。

ソニー・ピクチャーズが仕掛けていたように、この「3の法則」を実現できるよう、公式側でクチコミがなされやすい状況を作ってあげるのも非常に有効だと思います。

もちろんスパイダーマンだけでなく、他のどんな作品にも転用できるフレームかと思いますので、ぜひ何かの参考にしていただければ幸いです。

最後まで読んでいただきありがとうございました!
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