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『ドライブ・マイ・カー』のおける映画の”空気づくり”

こんにちは。モダンエイジで映画マーケを研究している栗原健也です。

年始早々に、日本の一映画ファンとしては非常に嬉しいニュースが飛び込んできました。

それが9日に発表された、濱口竜介監督の映画『ドライブ・マイ・カー』のゴールデングローブ賞、非英語映画賞(旧・外国語映画賞)の受賞です。邦画としては、なんと市川崑監督の『鍵』以来、62年ぶりの快挙とのこと!

また前日8日に発表された全米批評家協会賞でも、作品賞、監督賞、脚本賞、そして西島秀俊さんが主演男優賞と、主要4部門を受賞しています。

どちらの賞も3月に開催される米アカデミー賞の前哨戦ともいわれており、『ドライブ・マイ・カー』のアカデミー賞ノミネートおよび、受賞も期待されています(補足ですがカンヌ国際映画祭でも、邦画初の脚本賞を受賞しています)。

去年8月に公開された『ドライブ・マイ・カー』は、こうした著名な映画賞での受賞を経て、下記の記事でも紹介されているように、さらに注目を集めています。

一般的にアカデミー賞やカンヌのように、”お堅い”賞を受賞する映画は、例えば前回記事にした「スパイダーマン」シリーズのように、キャッチ―で観客を呼び込みやすい映画ではないことが多いです。

参考までに『ドライブ・マイ・カー』のあらすじは下記の通りです。

脚本家である妻の音(霧島れいか)と幸せな日々を過ごしていた舞台俳優兼演出家の家福悠介(西島秀俊)だが、妻はある秘密を残したまま突然この世から消える。2年後、悠介はある演劇祭で演出を担当することになり、愛車のサーブで広島に向かう。口数の少ない専属ドライバーの渡利みさき(三浦透子)と時間を共有するうちに悠介は、それまで目を向けようとしなかったあることに気づかされる。

シネマトゥデイ

私も映画館で『ドライブ・マイ・カー』を拝見しました。まぎれもなく”良い”映画だとは思うのですが、人間ドラマがメインで、淡々としていて、一言でその映画の魅力を説明するのが非常に難しい、、。

ましてや主演の西島さんや、岡田将生さんは国民的俳優かとは思いますが、映画ファン以外で、濱口監督や、共演の三浦透子さんを知っていた方はどれほどいるのでしょうか?そう多くはないでしょう。そして本作はおよそ3時間も上映時間があるのです。(誤解なきように補足すると、私はこの映画が大好きです。作品を否定しているわけでは全くなく、あくまでそういう種類の映画だと述べています)

『ドライブ・マイ・カー』のような作品が、賞レースによって注目され、ヒットするような状況を、”空気づくり”を切り口に分析していきたいと思います。

■賞の受賞がもたらす”空気”

こうした(語弊を恐れずに言うと)一見メジャーではない映画が、世の中の多くの人の鑑賞意欲を高められているのは、「この作品を観ないといけないのだ」という、”空気(ムード)"ができているからとも言えます。

そうした"空気づくり"の方法として、真っ先に想起されやすいのは広告ですが、インターネットの普及により、一般の人が情報を能動的に得ることができるようになった現代において、企業のメッセージ発信である広告は、映画に限らず、”空気づくり”の醸成には効きづらくなっています。

それよりかは、この”空気(ムード)”は、色々な立場の人が、同時多発的にそのコンテンツについて言及し出すことによって生み出されます。つまりはPRです。

TVのニュースだったり、ラジオだったり、雑誌だったり、Yahoo!ニュースだったり、新聞だったり、はたまた友人のSNS上のクチコミだったりで、色々な場所で取り上げられているのを目にすれば、映画にさほど関心がない人でも、「何だか凄い映画らしい、観たほうがいいのかな」と思ってもらいやすいですよね。

ただ立場の異なる人々やメディアは、それぞれターゲットとしている層など、利害関係がありますから、同時多発的に1つの論調で語ってもらうのは、非常にハードルが高いことです。

そこで全員が語りたくなるような、全員にとって”良い”と思える何かを設定することがポイントになるのですが、解釈や評価が分かれる映画作品にとっては特に、その設定こそが非常に難しくなります。このタイミングで多くの作品は”空気づくり”に躓き、広告の力を頼ろうとします。

ただゴールデングローブ賞やカンヌなど、「権威ある映画賞における受賞」、といった出来事は、誰にとっても”良い”と思えるテーマですよね。これを勝ち得ることができた作品は非常に強い。

「映画賞の受賞」という共通の”良い”論調の元、様々な立場の人が同時多発的に語り、世の中の”空気づくり”が行われること。これが『ドライブ・マイ・カー』をはじめ、賞を受賞した映画が映画ファンのみならず多くの人から注目され、ヒットしていく要因だと思います。

■その”空気”を増幅させる

前述のように映画において、誰もが観ないと、といった”空気づくり”を行うのは非常に難しい。だからこそ『ドライブ・マイ・カー』が作品のパワーによって賞を引き寄せ、”空気”を生み出すことができているのは、本当に貴重な財産だと思います。

そうした”空気”を一度作り上げることができたなら、あとは増幅してあげることです。

私は今こそ、『ドライブ・マイ・カー』は賞を受賞したことをアピールし、大々的に広告を打つべきなのでは、と考えています。

”PR First,Advertising second"といった言葉がありますが、PRが作り出した”空気”によって、「観るべき」といったベースが出来上がっているユーザーに対して、広告によってリマインドしてあげる。映画に対して熱心な観客でなければ、日々の生活の中で映画のプライオリティは下がっていってしまいますから、広告によってさらに作品の情報に出会う機会を作り、クロージングをしてあげる

せっかく類稀な”空気”が出来上がっている映画なので、ちゃんと増幅してあげることによって、さらに映画のヒットを継続させ、多くの人に素晴らしい作品を観てもらえるきっかけを作ることができるのではと思います。

■"空気"が底上げする鑑賞意欲

以上『ドライブ・マイ・カー』を入口に、映画における”空気づくり”、そしてその”空気”を増幅させる重要性について分析してきました

本作はどうやらアカデミー賞ノミネートの最終候補にも残っているようですので、たとえ受賞せずとも、ノミネートされただけでも、また数々の場所で取り上げられ、”空気”を作り出していくことでしょう。

そうした”空気”によって、注目度や興収にどのような変化が生じるのか、これからも注目していきたいと思います。

また、こうした様々な立場の人の共通テーマとなりやすい、「権威ある賞における受賞」などが存在しない作品が(ほとんどがそういった作品ですよね)、取り上げてもらうためのテーマをどう設定するかについては、また別で時間を割いて書いていければと思います。

完全に余談であり、私情にはなりますが、心の底から楽しめるエンタメ作品も個人的には大好きなのですが、『ドライブ・マイ・カー』のような、心にぐさりと突き刺さる作品こそ、誰かの人生にポジティブな影響を与えうると信じています。だからもっともっと多くの人に届いてほしい。

僕のオールタイムベストは、『マッドマックス 怒りのデスロード』と『バグダッド・カフェ』なんです。凄く極端な気もしますがw

ただ後者のような映画は、冒頭述べたように、観ていない人には、なかなか語りづらいんですよね(一言で説明できないところが素晴らしい点でもあるのですが)。こうしたパワーのある作品がもっと観られるための”空気づくり”について、本当にこれからも研究していきたいテーマだなあと思っています。ぜひ映画LOVERの方、お付き合いください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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