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ただ複雑にそして不便になるだけの世界【エッセイ】一三〇〇字

セルフ式ガソリンスタンドで給油をしながらいつも思う。給油に至るまでの工程が多過ぎる。

待機中のタッチパネルをタップする。すると10近くのアイコンが現れる。支払い方法やアプリの使用や各種ポイントカードの使用などを選択しなければならない。その10ほどのアイコンを瞬時に認識し選択しなければならない。

いつもクレジットカードを使うのでカードを選択する。「カードをお通しください」と女声に似せた電子音が流れる。カードを通すと端末がセンターに問い合わせを行う。約5秒の沈黙。素数の暗号情報がケーブルや電波に乗って大量にやり取りされる様を想像する。そりゃ時間がかかるだろう。

次にアプリを選ぶ。「QRコードを読ませてください」と鳴る。スマホを取り出しアプリを起動しQRコードを表示し「ピ」と鳴るまで赤い光のボックスに読み取らせる。こちらは一瞬だ。

次にポイントカード。「ポイントカードを選択してください」大抵、Tカード、dカード、楽天カードなどそのガソリンスタンド提携先のポイントカードのアイコンが現れる。まずTカード、選択肢になければdカードを選択し、バーコードを読み取らせる。

お次はクーポン。もうこのころには完全にうんざりしている。車に燃料を補給するだけなのに煩わし過ぎる手順を一体何工程踏ませるのだろうか。この端末はもしかして、こうやって利用者をイラつかせてガソリンを入れる作業はこうも複雑でめんどくさいのでクレジットカードもポイントカードもクーポンも使わせないように仕向け、はじめから現金支払いでパッと払う方法に誘導しているのでは?と疑いたくなる。

20年ほど前から仕事にPCが普及し始めた。それまでPCなしで行っていた業務は格段に効率が上がったはずだ。その最たるものは電子メールだろう。今まで他組織に対して連絡する手段は対面か電話かFAXか郵便しかなかったのが記録も残りいつ送ったかも確実にわかりしかも無料だ(インフラ維持の費用は考えない)。これほど便利なものはない。

しかし、メールが一般化するとメールの作法なるものが誕生した。なぜ、別にお世話になっている気持ちもないのに「いつもお世話になっております」と冒頭で書かなければならないのだろう。文章入力ソフトの予測変換で「I」を打つだけで「いつもお世話になっております。」と出るとしてもだ。誰もテメーなんかにお世話になってねーよと余計なことを考えるっていう私と同じ気持ちのサラリーマンの方々は多いはずだ。

テクノロジーが発展し、人は少ししか働かなくてよくなり、生活は楽に余裕になるはずなのに、仕事はどんどん複雑になりどんどん時間が奪われていく。たとえば、前職の上司は業務日報を二時間かけて書いていた。アホだ。しかも誰も読まない。簡単なフォームなのに私でも30分かかっていた。

ミヒャエル・エンデの「モモ」のように「時間どろぼう」はこの世を支配しているしこれからもその勢力を増大していくことだろう。

我々はどうすればいいのか?「モモ」が現れるのを待ち望む、あるいは自分が「モモ」みたいになるしかない。

とかなんとか言っちゃって、「モモ」は未読。妻があらすじ教えてくれたからなかなか読む気になれない。今度読んでみよう。積読にはある。

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