映画「Love Letter」
岩井俊二監督の劇場用長編映画監督第1作。中山美穂主演。1995年公開、だったらしい。
30年も前の作品なのか。すげぇ。
なんせ、全然知らなかった。
私は「岩井俊二」を毛嫌いしていたのかもしれない。いや、毛嫌いと言うよりは、「食わず嫌い」かしら。
私の周りの友人からは、肯定的な感想をあまり聞いたことが無かったと思うし、中山美穂主演ってゆうもんだから「アイドル映画」って印象しか持って無かった。
けどさ、ちょっと前に実生活で岩井俊二監督との、とあるご縁があり。その頃「ラストレター」が丁度公開されるって時期だったってのもあり。それならばと、当時「ラストレター」を劇場に足を運んで観てみたのよね。
そしたら、ピュアな感じというか透明感とかいうか静けさというか。その世界観になんだかすごくハマってしまって。これまでの偏見が全部ぶっ飛んでしまうくらい、じんわりとキテしまった。
以来、今まで観ていなかった岩井俊二監督作品を改めてたくさん拝見したわけなんですよ。
これまた、どれもこれも良くて…。
けど、有名な「Love Letter」はなかなか観る機会がなくて。最近、やっとNetflixで配信が始まったので、待ってました!に近い気分で観てみたわけです。いや、「待ってました!!」って、声に出てたと思う。
拝見した結果、
…すっっごく良かった…
なんて、なんて、いい映画なんだ…
私は、この映画を観てなかった今までの人生を後悔したわよ…
いや、大袈裟なことは分かっている。けど、それくらい個人的にめちゃくちゃ良かった。好きな映画にゴボウ抜きでランクインした。
まず冒頭の、美しき中山美穂が雪の上に寝そべっている所から良い。喪服と黒い髪の上に、ハラハラと白い雪が降り注ぐ詩的な様よ。
立ち上がった後、冷えた細い指先が赤くなっている辺りが、なんだか妙に生命の魅力を感じる。
この後、中山美穂が腕にほっそいペンでメモ書きするシーンがあるんだけど、その腕のアップがまた良い。
血管が見えそうなくらいな白く細い腕。そこにマジックみたいな下品な太いペン先やなしに、シャーペンくらい細い繊細なペン先で、黒く細い文字を書き込むのだ。
色気すら感じるシーンなんだよね。狙ってやっているとしたら(たぶん、やってる)岩井俊二監督は相当な変態だ。
物語はなかなか複雑な設定で、ショートカットの中山美穂が一人二役やっているんですけど。
儚げな「渡辺博子」と、ちょっとイタズラっ子っぽい「藤井樹」を微妙に演じ分けていて、すごくいい。見た目とかで分かり易く演じ分けてない感じがすごくいい。よりリアルさを感じるのよね。
「博子」の声の出し方は繊細で、男に詰め寄られたら断れないのに対して、「樹」は全力で扉を閉めたりハッキリ物申したり。見た目は一緒なのに中身のタイプが全然違う。
おそらくだけど、岩井俊二監督の中に明確なキャラクター設定ができていて、それによってこの演じ分けができたんじゃなかろうかと思う。
現場では、かなり細かい演技指導があったんじゃないかなぁと。まぁ、知らんけど。
何より、「藤井樹」の中学生時代を演じた「酒井美紀」が、もぉすこぶる良くてさ。もぉべらぼうじゃよ。すんごく可愛い。
あたしゃ、「白線流し」の彼女しか知らなかったんだけど、ちょっと清純派過ぎる雰囲気があんまり好きでは無かったよね、やはり当時は。私自身が若かったし。
それがさぁ、今観るとさぁ…自転車置き場でもう一人の「藤井樹」を待ってるときの仕草とかさぁ…お父さんを亡くしたお葬式の後、凍った斜面を滑り降りていく、静かなのに無邪気な感じとかさぁ…
ほんと、言葉ではいい表せられないくらいめちゃくちゃ良かった…。美しかった。「磨き過ぎてない原石」ってやつだった。
降り注ぐ雪の中、鼻先とかが赤らんでいる様子が、悲しみの涙を流すよりずっと切なさを感じた。
私たちは生きているんだなぁって思った。
彼女のこの時期の、一瞬で過ぎ去ってしまう魅力ってやつを引き出せたのってすごい。
映像は色褪せない。作品として彼女の姿を残してくれた岩井監督に、心からありがとうと伝えたい。
さて、この作品の中にずっとあるテーマはおそらく「初恋」で。
「初恋」ってのはこうやって繊細に大切に扱わなきゃいかん物なんだよなぁと感じた。
勿論、共感とかのレベルじゃないよ。
こんないい初恋を、でも、人が亡くなっているわけだし、ある意味残酷な初恋を、現実世界で体験できる人なんてほぼいないだろう。
だって、これは幻想的な嘘の世界だ。
自分は体験していない世界、それどころか、どうあっても体験することはできない世界。
観終わったあと、少し寂しくなり、虚しくなった。
そう、それは「初恋」には必ずといって着いてくる「失恋」に似た感情だったんだよね。とにかく、切ないのだ。
「失恋」ほどいい恋愛はないと思う。
ほんと、いい映画でした。