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ボサノヴァの調べ、世界の遊び

詩人であるリルケの手紙に、次のように書かれた箇所がある。

それを読む者は、ただいよいよたのしく、いよいよ感謝の思いに駆られ、物を見る眼がなんらかの意味で一層よくなり、一層単純になり、人生に対する信念は一層深くなり、人生は一層きよらかに偉大になるばかりです。―――

リルケ『若き詩人への手紙 若き女性への手紙』新潮文庫 高安国世訳 2021. pp.23-24.

あくまで自分にとっての話だが、ボサノヴァのいくつかの曲は、まさしくこの説明にぴったりだ。

昨日、レンタル自転車で砧公園に行った。薄く白い空を、ねずみ色の雲がゆく。フリースの上に寝転がって、ヒマラヤ杉と、黄色くなったカエデを眺める。ひんやりとした風が、樹冠を西に揺らす。葉にかくされた部分から、からすが姿を現す。つがいだろうか、二羽は気ままに、あたりの林冠を行き来する。そのたびに、葉の房がベッドのスプリングのように、上下に動く。

僕はイヤフォンを取り出して、Luiz Bonfaの 「Laque」と、Daniel & Luiza Jobimの「Wave」を流す。音楽は景色と、風を感じる体と、それを見ている自分と溶けあっていく。美しい音楽は、世界の運行に手を浸して、そこから力を借り受けているように思う。だから、こんなにも相性よく混ざり合うことができる。

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