【読書感想文】 同じように人がただそこに生きていたお話 : 「熱源」
初めての読書感想文です。
毎月読んだ本の中から特にお気に入りの1冊の感想を、ちゃんとまとめていきたいと思います。
※基本的にネタバレはしないよう心がけますが、ネタバレ込みの際はちゃんと予告します。
3月に読んだ本
・熱源 :川越 宗一
・悲嘆の門(上) :宮部みゆき
・きみにしか聞こえない :乙一
・さみしさの周波数 :乙一
・幸せはあなたの心が決める :渡辺 和子
・往復書簡 :又吉直樹, 武田砂鉄
お気に入りの1冊
6冊読みましたが、特にお気に入りだったのは「熱源」でした。
旦那氏が保有していた乙一さんのライトノベルを借りて読んだり、比較的小説を多く読んだ月でした。悲嘆の門(上)は中、下へと続く長編ものでしたが、これは4月(4/19現在)で読了済みです。
往復書簡も面白かったです。なんでもない日常ふと思ったことをメモしたくなる一冊です。また、この2人がいい。
熱源
あらすじ
樺太(サハリン)で生まれたアイヌ、ヤヨマネクフ。開拓使たちに故郷を奪われ、集団移住を強いられたのち、天然痘やコレラの流行で妻や多くの友人たちを亡くした彼は、やがて山辺安之助と名前を変え、ふたたび樺太に戻ることを志す。
一方、ブロニスワフ・ピウスツキは、リトアニアに生まれた。ロシアの強烈な同化政策により母語であるポーランド語を話すことも許されなかった彼は、皇帝の暗殺計画に巻き込まれ、苦役囚として樺太に送られる。
日本人にされそうになったアイヌと、ロシア人にされそうになったポーランド人。
文明を押し付けられ、それによってアイデンティティを揺るがされた経験を持つ二人が、樺太で出会い、自らが守り継ぎたいものの正体に辿り着く。
樺太の厳しい風土やアイヌの風俗が鮮やかに描き出され、
国家や民族、思想を超え、人と人が共に生きる姿が示される。
金田一京助がその半生を「あいぬ物語」としてまとめた山辺安之助の生涯を軸に描かれた、読者の心に「熱」を残さずにはおかない書き下ろし歴史大作。
Amazon引用
感想
とにかく、壮大な故に熱かったです。
なにせ、何人もの波乱万丈な人生を読んだわけで、読み終わった後には達成感と共に「終わってしまった…」という喪失感、寂しさもありました。
ノンフィクションの為か主人公への感情移入は強く、頷ける場面が多かったです。かっこいい。よかった。
以下、特にかっこいいと思ったシーン。
「文明ってな、なんだい」
ヤヨマネクフが前から抱いていた問いだった。開けた文明人たれとは、学校で散々に言われるが、それがどんなものかさっぱり想像がつかない。
「たぶんだが」チコビローの顔はやはり苦い。
「馬鹿で弱い奴は死んじまうっていう、思い込みだろうな」
ー「熱源」 P51
ヤヨマネクフが尊敬する、村長のチコビローの言葉です。東京に行き、「文明に追い立てられる和人」を見てきたチコビローの感想が上記の文です。
個人的に、アイヌの方に関わらず「昔の方が良かった」、「文明についていけない」という大人があまり好きではありません。
恐竜や古代の生物は環境に適応しすぎたことで絶滅したと言われています。
時代に順応していくことがなぜできないのか。年をとっても年々アップデートし続けるAdobeの新機能をどんどん触っていく大人の方が絶対強いはず。
そんな私にとって少しぐさっとくる言葉でした。思い込み…それもあるのかもしれない…。
「生かされているわけでも、生きる意志に欠けているわけでもありません。彼らが直面している困難は、文明を名乗る彼らに不利なルールと流刑植民という政策、そして行政の怠惰です。全て、彼らが希望したことでも、生得の特性によって生じたものでもない。」
「我々が掲げる文明など、所詮その程度なのです。暗闇を照らす光を装って隣人たちの営みを灼いている。我々が達した発展段階とは、そんな自らの行いに対する想像力も働かないくらいのものでしかない。
ー「熱源」 P161
”彼ら”とはサハリンで生きる人々のことです。
「サハリンの人たちは、近代の文明や知識を”どの程度理解できるのか”。」
自然のようにサハリンの人々を下に見ている文明人に対し、ピウスツキは、彼らも我々と同じ人間であり、同じように生きていた。ただ、不利なルールと流刑植民という政策、そして行政の怠惰による困難に直面していただけ。ということを訴え続けます。
彼らはサハリンという地で生きていた、人だ。と。
摂理と戦う。人の世界の摂理なら、人が変えられる。
ー「熱源」 P376
別に全ての伝統を守り、継いでいくのが正義ではない。変えていくものは変えていく。摂理でも。全ては人が作ったものだから、人が変えられるものだ。
この作品にはいろんな人が出てきます。登場人物の名をググると必ず写真やその人の人生をまとめた本、ページがでてくるのでそれもとても楽しかったです。「あ、本当に生きていた人なんだ」という感動というか、感激が楽しかったです。そういった見方をしていたからか、ただでさえ厚い本がとても厚く、重く感じました。
歴史が私はあまり好きではありませんでした。というのも、書いた人によって解釈が変わり、不確かなものが多いからです。なので樺太のことも日露戦争のことも恥ずかしながらあまりよく知りませんでした。でもこの本を読んで歴史をもっと知ってみたい、と思いました。中学生の時に嫌悪感を抱いた「歴史」を、12年かけてようやっと受け入れられるようになってきました。
なにか良い歴史本ないかなぁ。
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