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22話: 吃音の脳研究を始める人が知っていると良い情報

こんにちは!ニッチな吃音を専門とする医師の菊池です。

私は医学部を卒業したのは2005年。その当時は、日本で吃音者の脳研究を行おうという発想は一般的ではありませんでした。研修医を2年間終わり、2007年に九州大学の耳鼻咽喉科学に入局し、今後、吃音に関わる研究をしようと漠然と考えていました。

私の人生を変えるきっかけが、長澤 泰子先生を中心に、バリー・ギターの「吃音の基礎と臨床―統合的アプローチ」の翻訳本が2007年の10月に出版されました。

このギターの翻訳本を読んで、海外の吃音研究の状況を知ることができ、吃音者の脳研究が少し行われていることを知ることができました。そのため、2008年に、吃音者の脳研究をしようと思い、臨床神経生理学の大学院博士課程に進学しました。そこで、私は脳磁図という計測器を用いて、吃音者の聴覚研究を行い、NeuroImageという雑誌に掲載され、博士号を取得できました。

なぜ、他の脳研究と比較し、吃音者の脳研究が少ない理由に、2つあると思います。1つ目は言語を用いた発話は人間特有であり、動物実験を行いづらいこと。2つ目は、発話という複雑で時間的に短い行動をとらえることが難しいことにあります。健常者での発話行動の全体像はまだ解明されていません。

脳が働くときに、神経細胞から電気信号が発生します。その電気信号の電位を検出するのは脳波、電気信号から脳磁場が発生するものを検出するのは脳磁図という機器です。

脳の神経細胞の活動に4~5秒遅れて脳血流変化が生じます脳血流変化を検出するものが、機能的MRIまたはNIRS、PETです。

検出するものが異なるために、時間の精度(時間分解能)位置の精度(空間分解能)が異なり、下記にそれぞれの機器を紹介します。

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飛松 省三, 脳磁図をもちいた神経ネットワーク障害の解明, 臨床神経学, 2014, 54 巻, 12 号, p. 960-962より引用一部改変

それならば、時間と位置の精度が最も良い脳磁図で研究すればいいのではないかと考えるとは思います。ところが、脳磁図の欠点が4つあり、

1つ目は脳から検出できる磁場がとても小さいために、同じことを100回程度繰り返して積み重ねないと解析できるデータにならないこと。吃音のある人は、1回どもった所の脳変化を確認したいと思いますが、それの解析は難しいです2つ目は、とても小さい磁場を検出する機器のため、アーチファクトというノイズが検出されやすく、求める脳変化を見つけづらいこと。口を大きく開けるだけで、アーチファクトが発生します。3つ目は、脳磁図は大脳皮質の脳活動は検出できますが、吃音に大きく関与する大脳基底核の活動は検出するのは非常に難しいこと。4つ目は、脳磁図は数億円という高額で、年間維持費も相当かかるため、使用料が高額なこと。脳磁図を世界で一番保有しているのは、実は医療大国の日本です。

世界の吃音の研究で一番多いのは機能的MRIの研究です。メリットは、医療用のMRIがあれば計測可能なこと。大脳皮質だけではなく、大脳基底核の活動も検出可能。脳波・誘発電位や脳磁図とは異なり、100回も繰り返す必要がないこと。デメリットというか限界としては、脳血流変化を測る機器のため、数秒前の発話の脳機能の状態が本当に正確に捉えられているのか?という疑問があります。

どちらにせよ、新しい研究は過去の研究の積み重ねのため、これまでの研究をしっかり把握することが必要です。1995年から2016年の吃音者の脳研究をまとめたものは、下記のEtchellの論文を参考にすると良いとは思います。

Etchell AC, Civier O, Ballard KJ, Sowman PF. A systematic literature review of neuroimaging research on developmental stuttering between 1995 and 2016. J Fluency Disord. 2018 Mar;55:6-45. doi: 10.1016/j.jfludis.2017.03.007. Epub 2017 Mar 12. PMID: 28778745.

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菊池良和/吃音のある医師
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