ニューヨークでパスポート(と現金10万円)を無くして現地で再発行した話
私は海外旅行に行くといつも、もうこのネタさえあれば、今後「なんか面白い話して」と雑なフリをされても困らないだろうな、という伝説を作って帰ってくる。コロナ禍真っ只中2022年の2月から3月、ニューヨークに行くことになった時もそうだった。
NYにハワイ経由で入るフライトがあったんですよ
2月中旬と3月頭、2週間ほど間を開けて、ニューヨークで2回、アポの予定があった。本来であれば一度日本に帰国してもよい間隔だったのだが、当時はまだコロナ真っ只中で、帰国したら隔離生活を余儀なくされる時期だったので、帰国せずにニューヨークに1ヶ月ほど滞在することにした。
たまたま転職タイミングが重なった海外旅行好きの友人がいて、せっかくなら同じタイミングで渡米して、同じホテルに1ヶ月泊まろうということになった。友達と言っても元ルームメイトで、2年一緒に住んだことがあり、1ヶ月同じ部屋でもさほど心配はしていなかった。(旅中、女同士1ヶ月絶対揉めると思っていた相手の彼氏から、逆に心配の連絡が来たくらいに平和に過ごした。)
友人は普段から海外旅行が好きで、諸々の準備に慣れていた。有給の都合で、私より1週間早く渡米。その際、格安航空券比較サイト「スカイチケット」で、ニューヨーク行きを調べたことがある人なら一度は目にしたことがあるかもしれない「成田発・ハワイ経由・トランジット8時間・ニューヨーク行き」というモノ好きな便を選んでいた。ダニエル・K・イノウエ空港まではJALで飛んでハワイで入国審査、8時間ハワイで過ごした後、ハワイアンエアラインでJFK空港に入る。手荷物はハワイで一度受け取って、自分で預け直さないといけない。このクレイジーな便がその時、1番安かったのだ。
(往復13.6万、今じゃ考えられないね)
海外渡航経験がそこまで豊富ではない私は、特段疑問に思わずに、友人が購入した1週間後の同じフライトを選択していたのだが、私のフライトが1週間前に差し迫ったタイミングで先にニューヨークについた友人から、ものすごく疲れた声で「絶対ドルで現金持っておいで……」と電話がかかってきた。
このコロナ禍で女性1人の入国、しかもハワイ経由のニューヨーク行き。トランジットは8時間。入国審査で「違法な出稼ぎにきたのでは?」とめちゃくちゃ怪しまれたらしい。
ついでに、友人はスーツケースの中の韓国ラーメンが米国の牛肉持ち込みNGに引っかかり、審査の厳しさに拍車がかかったとのこと。入国審査官にかなり厳しく詰められ、30分程度押し問答となり、とても大変な思いをしたらしい。最後には「現金をいくら持っているのか」と聞かれ、クレジットカードしか使わない予定だった友人が500ドルを見せると「たったそれっぽっちでニューヨークに行くつもりか」と鼻で笑われたらしい。
私はそもそも、押し問答ができるほど英語が得意ではない。入国させてもらえなかったらどうしよう。どんどん大きくなる不安。強制送還されたらアポはおろか、フライトやホテルの予約など、そんなに安くない金額が一気に飛ぶ。
その日から、何をしていても、頭の片隅で入国審査のことが頭をぐるぐるするようになった。ちょっと英語を勉強してみたり、とにかくスーツケースの中から、怪しいものは全部出した。(その結果、滞在中ニューヨークで食べられるものがない洗礼を受けた話はまたどこかで。)
ついに出国当日。夜10時発なのに、怖くて怖くて5時間前の17時には成田についた。コロナ禍真っ只中の成田空港は、お店はどこも臨時休業で、ひっそりとしている。もはや廃墟のようだった。
とりあえず、ドル(現金)武装して、強くならねば。成田空港で、本当だったら5万円くらいをドルにしようと思っていたのだけれど、友達の話を思い出して、とりあえず10万円を800ドルに変えた。これが後々悲劇につながるともこの時は思わずに。
思ったよりも早い段階から、私の知らないところで戦いの火蓋は切られていた。搭乗口前に座っているとスタッフに名前を呼ばれ「ハワイ経由で、ニューヨークに行かれるんですか?」と聞かれた。「はい」と答えると「そうですか…!」と去っていくスタッフ。なんだったんだ……と思っていると、その後搭乗口でQRコードを読み取ると変なブザーが鳴って、私1人だけ横道に連れて行かれた。「すみません、ランダムのチェックなんです〜」と言われて、手や腕、身体に謎の白い紙をスリスリとなすりつけられた。これはもう、雰囲気でわかる。私、JALに目をつけられている……!もちろん何もやってないのでなんの反応も出ず「ご協力ありがとうございました〜」なんて言われて搭乗したけど、一連の普通じゃない対応に、私の心は、もうすでにここに在らずだった。
ハワイ行きのJAL便は、乗客10人程。おそらく乗客よりもCAさんの方が多かったと思う。CAさんを減らさないところがJALらしいのかもしれない。そして、そんなCAさん達が、まさかの全員挨拶きてくださり「ハワイ経由でニューヨークに行かれるということで…」と声をかけられ、もう内部で完全に要注意人物として情報共有されてるであろうことを改めて悟った。
もう私の中で爆発寸前の「ハワイで日本に帰されたらどうしよう」という不安。JALのCAさん達がすごくニコニコ話してくれるので「私……行けるんですかねニューヨーク……」と聞いてみたら、今度は笑顔ではぐらかされた。そりゃそうだ。JALのCAさん達の仕事は、出国手続きをクリアした怪しさ満点の私を、何も悪事を働かせることなくダニエル・K・イノウエに送り届けることで、それより先は業務範囲ではないのである。機内食のパンは喉を通らなくて、鞄に入れた。
そうこうしてるうちにハワイに到着。笑顔で送り出される私。さあ、煮るなり焼くなり好きにしろ。
入国審査-Wagyu-
ハワイの入国管理は、ブースとかなくて、ガタイのいい警察みたいな人が3人並んでhahahaと談笑していて、そこに近づくとフランクにパスポートを求められる。普通の人はhahahaのテンションのまま通過できるのだけれど、やっぱり私は違った。
どこからきたとか、どこに行くとか、何日滞在するとか聞かれて「滞在期間1ヶ月」と答えたら「whats!?」と顔色が変わる。どうやら滞在期間が問題のようだ。また一から仕事を聞かれ、色々しているので素直に迷ってしまい、最近和牛の専門店のお手伝いをしていることもあり「umm…Wagyu!」と答えたら、wow 俺も和牛大好きなんだよ〜、と言いながら他の人とは違うルートに連れて行かれた。なんでだよ。
これが噂の別室への道…と思いながら着いていくと、特に部屋には連れて行かれず、大きな機械の前に止められて、手荷物を審査官がピックアップしてきてくれた。よくそれ私の荷物だとわかったね、どうするんだろうと思ったら、その荷物を目の前の機械にかけられる。X線の機械だったようだ。
荷物をX線にかけてる間に、私の横に犬がやってきてクンクンする。犬のリードの先にいたおばちゃんに「なんか食いもん持ってんのか」と聞かれて、鞄を開けると機内食で食べきれなかったパンが入っていた。これ持って降りたらダメだったらしい。次からは気をつけて、と言われてるうちに私の荷物がX線のマシーンから出てきて、その荷物を渡されて、一般のルートに戻るようジェスチャーされた。
犬と審査官から同時にネイティブじゃない言語でコミュニケーションを取られてよく状況が飲み込めなかったけれど、一息置いて関門をクリアしたのだと気づく。タブーを踏み抜きまくって、最後は犬にも目をつけられたけど、解放されたようだ。やった。私アメリカ入国できる。みるみる笑顔になる私。何も怪しいものが出てこなかったのがつまらなかったのか「早く行け」みたいな顔でシッシッと手を振る入国審査官を煽るみたいな形で、私は大きくバイバイしながら招かれざる渡航者の道を後にしたのだった。
ハワイで8時間ほど滞在時間があった。友人はバスに乗ってショッピングモールにでも行ってみたら、というけれど、心身共に疲労困憊の私にそんなことはできなかった。コミュ障に拍車をかけて、注文が対面のお店にも入れない。ずっとこの写真のところでぼーっとしていた。
結局めちゃくちゃ無駄にハワイで8時間を過ごしたのち、ハワイからニューヨークへの飛行機に搭乗。日本よりも少し早くコロナのことなんて忘れたみたいになってたアメリカの国内線は、もうしっかり満席だった。日本を発つ時、謎の薬物検査っぽい何かを受けさせられた私は、ここでもパスポート見せろとか言われるかもしれないと、すぐに見せられるよう手にチケット・パスポート・そして現金800ドルを入れたクリアファイルを握りしめていたけれど、チェックされることはなかった。あまりに人が多くスーツケースに戻すタイミングがなくて、そのまま前ポケットへ。そしてこれが、タイトルへの伏線である。
bless you.(意味深)
満席の飛行機に乗り込み、次は11時間フライト。太陽と追いかけっこみたいな移動。疲れ果てた私は、もうこのフライトのことをほとんど覚えていない。途中くしゃみをしたら、横のお姉さんに“bless you.”と言われて、リアルブレッシューだ!と感動したことだけは覚えいている。
飛行機が着陸体勢に入り、雲を抜けると、2月中旬のニューヨークは雪景色だった。ハワイからの視覚での寒暖差に、これで同じ国なのかと驚く。そして、もう入国審査はハワイで済ませているという安心感が、急に私を開放的にさせた。
とにかく早くこの飛行機から抜け出したい。
飛行機を降りてから、手荷物を受け取るまで15分もなかった気がする。国内線なので関税とか入国診査とかが一切なかった。カタコトの英語で、タクシー乗り場はどこかを聞くと、全然わからない英語で返されたけど、場所だけはわかった。
とりあえず黄色いタクシーに乗れと言われて、黄色いタクシーを探した。向こうも乗客を探していたのだろう。5分くらいで見つかった。(でも、今度からは絶対アプリで配車した方がいいと強く伝えたい。)
友人が泊まる、エンパイヤステートビル前のホテルに近づくと、運転手に「クレジットカードの端末が壊れていて使えないから現金で払ってくれ」と言われた。まあぼったくられたんだろう。まじか〜、と思いながら、まあでも現金あるし、とカバンを漁って、一番大変なことに気がついた。
現金とパスポートを入れたクリアファイルがない。
飛行機の前ポケットに置き忘れてきたのだ。
パニック。大パニック。なぜかパニックが運転手に伝播して、2人で大パニック。いや運転手、あなた絶対、悪いことしてる自覚あるから緊張して取り乱してるでしょあなた!とりあえず友人に電話。現金持ってそこまで行くから、タクシーの運転手に落ち着けと電話で話して宥めてくれた。
Not Found.
とりあえず友人にお金を借りて支払いを済ませ、友人と宿泊するホテルに移動。もしかしたら、このタイミングで空港戻ってたら取り返せてたのかも。気づけば時間は14時をすぎていて、とりあえずハワイアンエアラインの窓口に連絡を入れたけど、どうやっても最後は自動音声にたどり着くので、その日は諦めて、翌日JFK空港に行くことにした。
宿泊していたホテルからJFK空港までは、乗り換え1回で40分程かかった。翌日到着してみてわかったことは、ハワイアンエアラインはJetBlueの搭乗口を借りていて、担当の係員もJetBlueの窓口に昼までしかいないとのことだった。忘れ物もその担当がいないと見つけすらしない……とりあえず、忘れ物が届いてるかどうかの確認をするのですら簡単ではなかった。
JFKに向かう乗り換えの駅で、何度も乗り換えの駅でホームレスにたかられる私。いやいや私も不法滞在なりかけてるんよ。助けてくれ。
結局JFK空港には合計3回行ったと思う。言葉の壁もコミュニケーションの壁も乗り越える力を持ち合わせていない私は、翌日、資料を作ってJFKに参戦。Fedexでのコピー機の使い方もこの一連の作業でマスターした。何度も何度も挑戦した結果、私はハワイアンエアラインのスタッフに、アメリカンコメディに出てくるみたいな大袈裟なため息と残念だ、という表情で渾身の資料に「Not Found.」と書かれた。
パスポートはなんだかんだ悪用しづらいと思うからいいんだけど、私の800ドルを奪った人は、私がドルに換金していたことに感謝して欲しい。2022年の春夏、日本円のままだったらあの後一気に円安で価値下がってたわよ。
とんだ誕生日プレゼント
さあ、見つからないからといって落ち込んではいられない、私は今身分証明書がない、不法滞在状態だ。となったら次やることはパスポートの再発行だ。まずは紛失届をゲットしないといけないとのことで、ホテル近くの警察を訪ねたら「空港で落としたんだったらそれはJFKの警察に行け」と言われた。JFK近くの警察に行く前に、もう、一旦日本語が通じる人と話がしたくて、不安定な電波を使ってニューヨークの日本大使館に電話した。すると「警察は大使館からの手紙がないと対応してくれないから、まず一度大使館に来てください」と言われた。電話してよかった。
在ニューヨーク日本大使館はグランドセントラル駅。ここは3回くらい行った。
1回目は、ポリスレポート(紛失届)を警察に作ってもらうための、領事館レターを受け取りに。
大使館からの手紙を持ってこの前と同じ警察に行くと、外でタバコを吸ってた警官が「お、ラブレターか!?」なんて言いながら奥に案内してくれた。別室に連れて行かれて、追い返された前回とは違い、資料の作成が始まった。届出日が身分証明書の誕生日と一緒で、窓口の警官に“wow HappyBirthday.”と祝われた。
こうしてパスポート再発行のための、紛失届がやっと手に入った。とんでもない誕生日プレゼントだ。
皆が写真を撮るあの場所で、誕生日に、NY州警察発行の紛失届とツーショット。我ながら、めちゃくちゃいい写真だと思う。
以下3枚は3枚は、もしかしたらNYでパスポート無くした人がこのnoteにたどり着くかもしれないので、メモ程度に残しておく。
私が現地で再発行対応できたのは、時間があったのと、たまたま必要資料が日本に揃っていて、それをNYで受け取れる状態だったからだ。普通は、紛失状態のまま、国指定の便で帰国することになると思う。
再取得
帰国を1週間後に控えた3月9日、なんとか新しいパスポートをゲットした。
発行:在ニューヨーク日本大使館と記載のある、めちゃくちゃかっこいいパスポートが出来上がった。えっへん。
おまけ
帰国前に、友人がナイアガラの滝を見に行きたいと言うので、バスツアーで真冬のナイアガラに行ってきた。
しかしながらオフシーズンすぎて、夜はカジノしか開いていなかったので行って、近くの中国人のお兄さんにやり方を聞きながらボタンぽちぽちしてたら、5$が142$に化けて、パスポート再発行代が賄えてしまった。リターンが早すぎる。
でも、換金したお金にはカジノらしくいっぱいメモが書いてある治安悪めのお金で、両替するときにちょっと大変でした。笑
海外に行くと、無事に帰ってこれるだけで幸せなことだなあ、と毎回思うのですが、そんな記録をこれからもしたためてゆけたら…と思っております。でもできれば平穏がいいんだけどなあ。笑