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金持ちになったある夫妻の話

 ここで、私の友人マービンと妻のベリルがどうやって大金持ちになったのかを話しておこう。

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 2人の仕事ははじめ、自動車エンジンの修理であった。
 マービンは、従業員2名で自動車エンジンの修理を行い、ベリルは、育児に専念していた。

 でも、1つ困った事態が持ち上がった。マービンの手にしみ込んだ油がなかなかとれないのだ。そこで、2人は油をきれいに落とし、しかも手を荒らさない物質の開発にとりかかった(問題を解決しようとした)のである。

 こうして新しい洗剤とスキン・クリームの開発が開始され、ついに完成したのである。効果はてきめんに表れた。汚れはきれいにとれ、手もしっとりとなめらかになったのである。同じ悩みを持つ友人にも試供品を使ってもらい、効果があることがわかった。この製品に2人は有頂天になった。

 マービンとベリルは、商品を〝フライト〟と名づけ、南アフリカ(友人の住んでいるのはここである)での販売を開始したのである。新しい販売ルートの開拓という問題はあったが、フライトは、売れに売れた。2人は若い女性を雇い、南アフリカ各地のガソリンスタンドや自動社修理工場に訪問販売を行ってもらった。

 女性販売員は、油まみれで働いている人がいるところを見つけては、商品を実際に使って宣伝し、注文をとった。彼女たちは手数料に満足し、消費者は新製品に満足した。

 そして、大量生産に踏み切ったマービンとベリルのもとには、莫大な利益がころがり込んできたのである。大成功だった。

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 この成功に目をつけた大手洗剤メーカーは、約8億5000万円で二人の会社を買収した。大金を手にしたマービンとベリルは、5人の子どもの養育に専念することになった。しかし、この洗剤メーカーは、あまりに規則にばかりこだわり、女性販売員の個人的希望を受けつけず、訪問販売が非常に技術のいるものであるということに理解を示そうとしなかった。

 2、3年すると会社の管理者たちは、自分たちには手に負えないといって、マービンとベリルに経営権を差し戻したのである。マービンとベリルは8億5000万円を手に入れ、しかも会社を取り戻すことができたというわけだ。

 マービンとベリル、そして彼らの5人の子どもたちは、私の知り合いのうちでも有数の優れた人たちである。金持ちになり、さらに才能は開花していくだろう。

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 W・D・ランドールは、高級ハンドメイドナイフ造りの名人で、予約リストは4年先まで満杯になっている。ランドールは、73歳の上品な紳士で、手製のナイフを興味で造り始めたのは1937年のことであった。これがハンドメイドナイフ商標の嚆矢となったのである。

 彼のナイフは最高級品の折り紙がつけられ、米国航空宇宙局(NASA)もマーキュリー計画に参加する宇宙飛行士の救命袋必需品に認定している。スミソニアン博物館などでも、この素晴らしい品を目にすることができる。

 ランドールのナイフには、2万円から10万円以上のさまざまな値段がついている。買えない値段ではないが、手に入れるとなると難しい。なぜなら、一番安いナイフでも12時間もの時間をかけて製作しているからである。

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 先ほど話した色あせたジーンズをはいた青年は、小型トラックに戻る間、自分の人生を変えていこうなどと考えているだろうか。おそらく、考えていないだろう。それで本人が幸せなら何も言うことはない。

 しかし、足元には無数のダイヤモンドやエメラルドが埋まっているのだ。いや、足元というより頭の中というべきだろう。人は皆、同じ機能を持った優れた脳があるのだ。

 それらは、その気になれば、今以上に開発することができる。

 その結果はとても素晴らしいものとなるだろう。であるならば、開発しないで放っておく手はない。ジーンズをはいた青年がそのことに気づいてくれたら、と思うと私はいたたまれないほど残念な気持ちに襲われる。


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