こうすれば

議論に勝つのは愚かである

 この章の冒頭では、シカゴ郊外のイリノイ州エバンストンに住む若い男性に登場してもらいます。名前は、ジョン・ジョンストンさん。

 ジョンストンさんは、「オフィスで働く同僚たちとうまくやって行くことができなければ、クビになるかも知れない」という内容の手紙を私に送ってきました。
 まだ20歳の若さですが、自分の生き方を変えなければ、友を得ることも、お金を得ることも覚つかず、会社もクビになり、再就職の見込みもないような状態になりかねないというのです。

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 ジョンストンさんの仕事は広告業です。広告のデザインやレイアウトの制作アシスタントをしています。

 ジョンストンさんは、仕事中によく口論したりします。しないように努力はしているようですが、「自分が正しくて、相手が間違っているとわかっている場合、何か言わなきゃならんでしょう」と私に言うのです。

 そこで私は、「自分が正しいって、どうしてわかるんですか」と聞くと、自信を持ってこう答えるのです。

「ああ、それはわかります。本もたくさん読んでるし。家には『リンカーン・ライブラリー』っていう本があって、職場で何か口論になると、本を持ってきて私のほうが正しいということを示してやるんです」

「実際に本を仕事場に持ち込んだのか」と私が聞いたら、「もちろん」とのこと。しかし、そのようなことをしたら、人に好かれなくなることは決まりきっています。

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 その点は彼も、心の片隅では危惧しているようでしたが、どうしても、間違ってるってことが見え見えな議論を人がしているのを聞いていると、もう興奮してきて、汗が首の後ろのところにブワッと吹き出してくるそうです。つまるところ彼は、自分を『あらゆる人の間違いを正すための単独委員会』をもって任じている、というわけです。

 実は、正直に言いまして、彼を見ていると20年前の私自身が思い出されるんですよ。「ミズーリ生まれの人間は人の話を聞くだけじゃ納得いかない」っていう言い方がありますが、そのミズーリの生まれで、20歳までその地にいましたので、世間知らずのところがありました。もう、顔に殺気が現れるくらいまで議論したものです。

 私も、まさにジョンストンさんが行っていたようなことを、やっていたんです。私も本を持ちだして、「相手が完全に間違っている、自分が完全に正しい」ということを証明してみせたのです。

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 でも、その結果どうなったか。確かに議論には勝ちましたが、友人はいなくなりました。ベンジャミン・フランクリンも若い頃は、ジョンストンさんにそっくりだったのです。議論し、口論し、自分の意見に同意しない者には、ことごとく反駁したんです。

 ところがそんなある日、年老いたクエーカー教徒が彼を脇に呼んで、次のようなことを言ったんです。

「いいかね、ベン、君はなかなか頭がいい。でも君は、いかにも知ったかぶりをしているような印象を人に与えているが、それには気がついているかな。
 君と意見が合わなければ完全に間違いだということになれば、誰も君に話しかけることなどできなくなるじゃないか。君は、そのやり方を変えなければ、友人にも恵まれず、人生うまく行かないことが多くなるぞ」

 これがベンジャミン・フランクリンの教訓となったのです。彼は人と口論することを、すぐにやめたんですね。

 実際、彼は、非常な機略と外交的手腕を身につけて、後には初代郵政長官となり、独立宣言の起草では、トーマス・ジェファースンを補佐しました。そして彼はその自伝の中で、自分の人生の成功のほとんどは、あのクエーカー教徒の老人が教えてくれた教訓によるものである、と述べているのです。

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 そこで私は、ジョンストンさんや彼と同じような行動パターンを持つ人々には、口するのをやめるようにと、特に強くアドバイスしたいですね。誰でも、自分が間違っているなんて言われたくないでしょう。ベンジャミン・フランクリンがこう言っていますよ。

「相手を敵に回して口論し、反駁すれば、時には勝利を得ることもあるだろう。だがそれは、空しい勝利だ。相手の好意を失ってしまうからである」

 いいですか、誰でも、自分が間違っているなんて言われるのは嫌なものだということを、決して忘れないように。

 ジョンストンさんは頭もいいし、積極的で覇気もある。でも彼の最大の敵は、彼自身なのです。何でも知ってるような素振りを見せようとしてはいけません。今度就職したら、仕事をして、自分の仕事をちゃんとやり遂げて、人にちょっかいを出さないことです。

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 彼の口論好きと喧嘩癖ですが、これは彼以外にそれを直してくれる人は誰もいないのです。つまり、自己をコントロールする以外にはないということです。今度また誰かが間違ったことを言ったなら、口を閉じて、一言も発しないようにしなければなりません。

 いいですか、一言も言ってはいけないのです! それでも怒りがおさまらなかったら、家に帰るまで辛抱して、相手に手紙を書くことです。もう紙もメラメラと燃え上がるような、激烈な手紙を書くんです。そしてそれを投函するまで、3日間待つんです。3日待てば、おそらくその手紙は出さずに済むでしょう。

 時間がたつにつれて、ジョンストンさんは、口論をすれば、それなりの対価を支払わなければならないということに気がつくからです。


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