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010/千客万来な年末に!(前)

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。

今年はスノボやりに行けそうだからそっちに寄るぞ、昨夜の電話で鬼丸の兄さんが言ってた。鬼丸は布団を干したり着替えを用意したりとすでにお迎え体制。それよりもやっぱり、鬼丸が嬉しそうに見える。いいなあ兄弟。俺は一人っ子だから羨ましい時があるんだ。

お兄さん何が好きなんだろうな、診療の合間に話してたら、鬼丸が言うにはどうやら豆腐、鶏肉、鰻、般若湯(わかりやすい)。とくに豆腐は手作りが好きで、見習い僧侶の徳河くんが相当頑張ってるらしい。それは大変だな作れるかな俺らに、そこなんだ鬼丸も少し難しい顔。

気分転換に昼は商店街まで飯食いに。喫茶メケメケ久しぶりだな。ブレンドでいいよね、そう鬼丸ブレンドな!仏頂面の岸志田七瀬マスター、今日も黒づくめにピアスピアスピアス、髪伸びたせいか以前に戻ってる感じな、に軽くスルーされつつ鬼丸と豆腐の相談。いつものように美味いコーヒーと、頼んでないメガ盛りサンドウィッチが来た。お豆腐なら豆腐屋の知り合いいるから聞いてみようか、話聞いてたんかでもありがたいマスターの言葉。

毎週木曜の早朝、商店街の八百屋の店先にやってくる風変わりな豆腐屋、岸志田マスターの友人(?)岸本七海。お豆腐美味いからいいかもね、連絡をとってくれるマスター。速攻やってきた岸本。大きな黒目がちの目、ラージホールピアスに黒づくめ、とこどこマスターと被ってるけど今時珍しい弁髪が違いを醸し出している。毎度ありがとうな、手にはおそらく豆乳。ウチの豆腐花は岸本んとこの豆乳で作るから美味しいのは保証する、珍しく多弁なマスター。ほんとにお勧めなんだな。で、お兄さん達が来る日に合わせて豆腐をいくつか届けてもらえることになった。でもちょっと待って院長、お兄さんお土産持ってくるの好きだよね?被る可能性ない?これまた珍しく的確なマスターの意見。すると岸本が笑いながら、そんなら豆乳の方を沢山届けようか鍋にもできるし。それいい考えだな、やだほんとマスターが人褒めるとかありえないし。千弦がママちゃんの口調になるくらいの驚愕。

なんだかんだで豆乳を届けてもらえる事に。決まって安心したら少しお腹空いたなあ、鬼丸のちっさい呟きに、マスターが秒で出してきたのはいつもの豆腐花。やっぱり美味いでしょ岸本んとこの豆乳。そうかマスターは美味い物に関しては更に強気なんだな、俺の考えを察したみたいに、マスターの三日月の目が笑う。あのさマスターって妖怪なの?アンテナついてんの?別にそんなのついてないよそれよりさ院長、俺もお兄さんに会ってみたいな。いいよ遊びに来てよ兄さんたち喜ぶから、鬼丸すごく嬉しそうだな。岸本くんにもお礼言ってメケメケを出た。

泊まってもらう準備して布団も用意、掃除は万端、食材も十分。あとはマスターが何か持ち込みそうな予感。丁度クリスマスあたりだから結城すぐるんも呼んで、あとは雅宗先輩にも声かけるかな。今年の年末は大宴会かな。思いがけず懐かしい面々が揃う嬉しいハプニング。さあ受けて立とうか鬼丸さん。

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佐久間家から少々離れた地方の街にある小さな寺。数匹の猫と一緒に暮らしているのは佐久間鬼丸の兄で寺の住職・佐久間達丸、僧侶見習いの徳川慶喜、そしてちょくちょく加わるのは達丸の親友で幼馴染の真々部千秋。

そういやママよ休みは押さえてあるのか、お寺の客間を借りてデザイン作業する俺に達ちゃんの言葉。大丈夫よ仕事納めは12月中旬なの!そりゃよかった、嬉しそうな顔でお寺の雑務に戻ってく達ちゃん。うん…実は全くそんな時期に終わらないかもていうか初校すら(略)それでも焦ってはないのよ、こういう時はいつも謎の力が発動するから。

何だ佐久間らは旅行行くんか、よく通る大きな声。ひょっこり縁側から顔を出したのは隣町の寺の真田和尚。手伝い来てやろうか、俺と同じくらい大柄なのにまん丸い可愛い顔。そら助かるわ忙しいもんで。さてこれで留守は万全。留守番はこっちで大丈夫だから徳河くんも一緒に行っておいで、真田和尚のご好意を遠慮なく受ける事にした。

僕スノボしたことなくて、そうかママは教え方が上手いからすぐ滑れるようになるぞ。達ちゃんは嬉しそうに徳河よっちゃんの分の荷物も詰め始めた。俺のデザインの仕事も今、まさに、なんとか…おっしゃあキリついたあー間に合ったよかったあ。お寺は真田和尚のとこのお坊さん達が留守番してくれる。こんな余裕のある年末ツアー初めてかもしれない。

俺ぁな今年一番美味かったもん持ってってやろう思うんだ。それはよっちゃんの手作りのお豆腐なんだって。僕の豆腐が一番美味しかったんですか和尚、よっちゃんはすごく嬉しそう。確かにあれは美味しかったわ、一口食べて思わず二度見するレベルよね意味わかんないけど。味も香りも飛び抜けてるの。いつものふるさと便も宅配使わずに持ってけるから便利よね。

近所のお豆腐屋さんに行ったよっちゃんがしゅんとして戻ってきた。大きな注文が入ったから豆乳をお分けできないってお豆腐屋さんが。早い話鬼丸のとこで調達して作ったりゃええんや、そう言って達ちゃんは鬼丸くんにメールを打ち始めた。それだと向こうで出来立てを振る舞えるってやつよねアッタマいい!そしたらいきなり達ちゃんの携帯に鬼丸くんから電話。何この流れ見てたの?

良かったわねお豆腐被らなくて。そうやな鬼丸の声も聞けたしな、達ちゃんはいつにも増して上機嫌。それが一番嬉しいかもね。出発も決まったし後は晴れるのを願って、俺の車でもって鬼丸くんちに寄ってからスノボと温泉行くツアー催行ね!




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佐久イヌ140の日常
245-261+265-271まとめ 加筆修正(前後編)
2024.3.19


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