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ありそうでなかった食卓の道具、日本の伝統文化から生まれたsuzuriのハナシ。

vol.10|「suzuri」シリーズ誕生秘話

日本のトラディショナルな部分に触れる中で、書道の所作の美しさや道具である硯の奥深さを再発見したところから、インスピレーションを受け<suzuri>シリーズは誕生しました。硯をモチーフにしたシリーズは、ひとつのプレートになだらかな高低差をつけることで生まれた2つのスペースによって、料理とソースや薬味を分けて盛り付けることができ、“何を盛り付けようか?”と、付け合わせを考えるのが愉しくなるうつわです。
美しい白さが特徴の天草陶石をベースにした波佐見焼は、透け感のある釉薬の色彩と「溜め掛け」による釉溜まりの表情が際立ち、和洋折衷、1枚2役で現代の食卓に寄り添います。

KIKIME初の波佐見焼

― 等身大の暮らしに寄り添う産地の魅力

これまでKIKIMEのシリーズの多くは美濃焼を主流としていました。ひとえに美濃焼といっても、多様な種類や技術が存在し、1つの様式に留まらないことも理由のひとつ。陶磁器と異素材を掛け合わせたamimehanauke、土の風合いを活かしたkasaneをつくるために、最適な産地として岐阜県土岐市の美濃焼を選んできたのです。

今回の<suzuri>シリーズの産地、長崎県の波佐見焼もまた、400年以上の歴史があります。今でこそ広く知られる波佐見焼ですが、長崎県の中央北部に位置する波佐見町は、有田焼が生産される佐賀県有田町と隣り合う県境の町。長らく「有田焼」として売られてきたことから、近年まで「波佐見焼」の名前が表に出ることが少なかった焼き物です。波佐見焼の特徴は、白磁の美しさと呉須(藍色)で絵付けされた繊細な染付の技術。時代に合わせて改良を続けながら、日常づかいの器として進化を遂げ、近年ではよりモダンなデザインの形状が多くみられるようになりました。

KIKIMEが目指す等身大の暮らしに寄り添うモノづくりと親和性を感じた産地であることに加え、suzuriの複雑な形状と釉薬の風合いを実現するために最適な陶土であったことが、今回「波佐見焼」を選んだ理由です。また、ベースの原料である天草陶石は、元々の配合バランスが良く、添加物の必要がないため、❶丈夫であること ❷柔らかな粘土で成形しやすい ❸天然の美しい白さ、という三拍子が揃っていることも決め手の1つでした。

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長崎県波佐見町の風景

釉薬の表情を生み出す技術

― 美しい白さの天草陶石に映える釉薬

自然豊かな、熊本県の天草地方で採掘される粘土の鉱石「天草陶石」を原料とした波佐見焼。鉄分の含有量によって分類される陶石ですが、天草陶石はその美しい白さが特徴です。波佐見焼に見られる透明釉と呼ばれる透け感のある釉薬の色味が映えるのは、この天然無垢な白磁をベースにしているため。suzuriシリーズでは硯の海(墨を溜める部分)に墨が溜まっているような表現をするために、あえて釉薬が溜まるよう「溜め掛け」という手法を用いています。
しかし、「溜め掛け」をした部分は釉薬が分厚くなるので、焼いた際に亀裂が入ったり、思うように釉溜まりの濃淡がでなかったりと課題がたくさんありましたが、釉薬の濃度や掛け方に至るまで、試行錯誤を重ねました。また、縁とプレート面が接している部分や高台にも、釉薬が溜まるよう“釉薬ポケット”なるものをつけたり、アールの形状を変更するなど、細かな調整を重ねました。釉薬の濃淡をつけることで、シンプルですっきりとしたフォルムの中にも、エッジの効いた表情を演出しています。

食卓の硯を目指す中でのトライ&エラー

<suzuri>シリーズ

― フラットにすることの難しさ

suzuriのサイズは2種類。生春巻きやチヂミなどを並べるのにちょうど良いサイズ感のプレートオーバルと、焼き魚やお刺身などを盛り付けやすいプレートロングです。本来の硯は石を切り出してつくられているので、その裏面は空間がなくずっしりとしていますが、日常的に食卓に並べるうつわではそうはいきません。使い勝手を考えたデザインにするために、平らなプレート面を底上げすることで硯の形状を表現できないかと考えました。

プレート面にゆるやかな傾斜をつけ、硯でいう墨を磨る“丘”と墨汁を溜める“海”を表現。そしてプレートの天面とうつわの接地面に高低差を持たせ、裏面に空間をつくることで軽量化が実現できたのですが、この構造では焼成時に平らなプレート面がその重みで下に沈んでしまったり、歪むという課題が想定されました。通常の平皿は、平らな面とうつわの接地面の高低差が少なく、裏面を高台と呼ばれる脚で支えることによって、焼成時の変形を回避できます。しかし、suzuriの構造は平皿とは異なるため、今回は大きなサイズのうつわの焼き方に着目しました。大きく重量のあるうつわは、プレート面の裏側に“支え”となる「トチ」を置いて焼き上げることで、プレート面が沈んだり歪んでしまうことを防ぐことができます。

― 前向きにチャレンジ、共に開発するという姿勢

こうして大きなうつわの焼き方をヒントにしつつも、プレートロングはオーバルに比べ奥行きがないため、「トチ」を置くことでプレート面にうねりが発生するのではと考え、支え無しでトライしたところ、長手方向に波打ってしまいあえなく失敗。「トチ」を置いて焼いたオーバルもかなり調整が必要な状態で、まさに一筋縄ではいかない状況でした。

そこで次に考えたのが釉薬の掛け方。通常、裏面の「トチ」があたる部分だけ釉薬がかからないようにするのですが、裏面全体に釉薬をかけず、天草陶石の生地そのままにすることで、表面がうねるという課題をクリアすることができました。これも通常のセオリーではあまり考えつかないことですが、窯元の“一緒に開発をする”という協業のスタンスとチャレンジ精神により、目指していたフラットなフォルムが完成したのです。

このようにsuzuriは、「トチ」を置いて焼く方法と裏面に釉薬を掛けないという選択によって課題を解決することができましたが、うつわ1つ1つに対して手作業で「トチ」を配置してから、並べて焼き上げるため、従来よりも生産工程が多くなり、とても手間隙がかかります。そんな生産対応をしていただける窯元の存在は大変貴重であり、有難いことです。それも今回の協業先である窯元・永泉窯さんの前向きで、親身に開発を進める姿勢あってのこと。KIKIMEの目指すモノづくりのカタチを改めて感じた瞬間でした。

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窯入れする前のうつわたち

日本の伝統文化にちなんだ道具“硯”が、現代の食卓の道具へとアップデートされたKIKIMEのsuzuriシリーズ。所作の美しさと毎日の食卓での使い勝手の良さが融合したモダンなデザインは、想像力を掻き立てます。いつもは料理に合わせてうつわを選ぶことが多いですが、“何を盛り付けようかな?”とうつわからインスピレーションを広げてみるのも愉しいかもしれません。

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