今回取り上げるのは「私があなたに望むこと(What I Need From You:WINFY)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。
リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はまず、こちらのNoteを読んでいただければと思います。
この方法で何ができるか? 異なる部門や分野で働く人々が、成功するために必要なものを互いに尋ねる方法を迅速に改善することができます。共通の目標を達成するためにグループのメンバーが何を必要としているかを解明することで、誤解を修復したり、長い間に培われた偏見を解消したりすることができます。参加者が核心的なニーズを他者に伝え、そのやりとりに関わる各人がそれに応える機会を与えられるので、明確性、誠実性、透明性が高まり、部門を超えた結束と協調が促進されます。ハンプティ・ダンプティを元に戻せるのです!
”LS Menu 24. What I Need From You(WINFY)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。 組織が効率性を高めようとするときに分業制をしくということはアダム・スミスの国富論のときから指摘されてきたことである。同時に分業制によってお互い仕事への関心や理解度が落ちていく。分業制のもとでは予期せぬ事態が起こったときに、お互いに協力しての対処が難しくなるということも、多くの人によって繰り返し指摘されてきたことである。 また、「ハンプティ・ダンプティ」は、予期せぬトラブルで壊れたら元には戻せない危うい仕組みや状態を暗示するメタファーである。
このような分業の弱点を克服するものとして、このLSは位置付けられてもいる。
5つの構造要素 1.始め方 ・参加者に、特定の目標を達成するために必要なものを、他の人(多くの場合、異なる職能または分野の人)に求めるように促す。 ・他者からのリクエストに明確に応えるよう呼びかける。2.空間の作り方と必要な道具 ・3~7人の参加者の職能別の集まりを収容できる広い部屋。 ・3~7人のグループが部屋の真ん中で輪になって座るための椅子。 ・参加者がニーズや反応を記録するための紙。3.参加の仕方 ・誰もが自分の職能別の集まりに含まれる。 ・誰もが平等に貢献できる機会を持つ。4.グループ編成の方法 ・3~7つの職能別の集まり(各々の集まりにおける参加人数は制限なし)。 ・それぞれの職能別の集まりを代表する3~7名の代弁者からなるグループ。5.ステップと時間配分 ・以下のステップを説明することで、プロセスを説明する。取り組んでいる目標や課題を繰り返し説明し、文脈が全員にとって同じであることを確認する。イエスかノーかの明確な返答を得るためには、要求は明確かつ具体的でなければならないことを強調する。「イエス」、「ノー」、「やってみる」、「何とも」以外の答えは許されないことを明確にする。職能別の集まりを部屋のあちこちに配置する。3分 ・職能別の集まりは、「1-2-4-All」(または1-2-All)を使って、部屋にいる他の職能から一番必要なものをリストアップする。ニーズは、以下のような形で、注意深くニュアンスを込めて伝えることができる要求として表現されるようにする。「私があなたから必要なのは○○です」。職能別の集まりではリストを上位2つのニーズに減らし、それを期待される形で書き留め、集まりを代表する代弁者を選ぶ。5~15分。 ・すべての代弁者が部屋の中央の円形に集まります。 ・代弁者は、一人ずつ、円周上の他の代弁者のそれぞれに対して、自分の2つのニーズを述べる。この段階で、代弁者は要望をメモするが、誰も回答や返答をしない。15分 ・各代弁者は、個人で(または自分の職能別のあつまり内の他の人と相談しながら)、各要求に対する4つの回答のうちの1つを書き出す:「イエス」、「ノー」、「やってみる」、「何とも」(「何とも」とは、要求が曖昧で特定の答えを出すことができないという意味)。5~10分 ・グループ内の1人の代弁者に対して、サークル内の他のすべての代弁者が、自分が行ったリクエストを繰り返すとともに、自分の回答(「イエス」、「ノー」、「やってみる」、「何とも」)を共有します。議論はしない。そして詳しく説明しないこと! 10分。 ・「3つのW」でまとめをする。 15分
”LS Menu 24. What I Need From You(WINFY)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。 「4.グループ編成の方法 」のイメージが文字だけだとわかりづらいと思われるので、以下のように図にしてみた。実際の空間では、中央の代弁者の集まりは、椅子を動かして中央に集まるようになると考えられる。
グループ編成(4つの職能)の例 また、職能別の集まりの中で使われる「1-2-4-All」はLSの一つであり、その進め方については以下の記事にまとめてある。
特に進行後半の「代弁者の集まり」では「議論はしない。そして詳しく説明しないこと! 」が強調されている。全体の進行役は代弁者だけで決めないように注意し続ける必要がある。あくまで主体を「職能別の集まり」のところに置くことがこのLSのポイントとなりそうだ。
進行の最後の「3つのW」もLSのひとつである。その進め方についても以下の記事でまとめてある。
実施にあたっての追記事項 ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。
なぜ その目的なのか? ・機能的または個人的なニーズを明確に表現する方法を学ぶ。 ・機能や個人が必要とするものを求める練習をする。 ・要求に対して明確な答えを出す方法を学ぶ。 ・機能別クラスター内のコミュニケーションの再確立および改善を行う。 ・機能サイロを越えて前進する。 ・壊れてしまった接続を修復する。 ・すべての問題を同時にテーブルの上に出して、みんなに見てもらう。 ・先入観や噂を排除し、フラストレーションを軽減する。 ・グループメンバーが誠実に説明責任を果たせるよう、信頼関係を構築する。
”LS Menu 24. What I Need From You(WINFY)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。 前述の「この方法で何ができるか?」 では、分業による弊害の克服ということを目的としていると説明したが、より具体的には、その第一歩である「自分が他の部門に何を求めているかを分かりやすいようにしっかりと言語化する」ことを重要視している。お互いの要求を通す前に、まず要求を明確にするコミュニケーションを確立する ということだ。
コツとワナ ・どのような回答でもよいということは、要求が漠然としていて具体的な答えが出せないということであることを参加者に伝える。 ・「即答禁止」のルールを厳守すること。 ・回答は「イエス」、「ノー」、「やってみる」、「何とも」のみというルールを徹底する(それ以上の説明は禁止)。 ・成功するために本当に必要なものを求めることを全員に奨励する。 ・楽しみながら、安全性を損なわないぐらいの芝居がかかった言動を奨励する。 ・7つ以上の役割/職能を含めない(水が濁りすぎる) ・報告会では、人は不平不満を言うのが得意で、必要なものを求めるのが苦手であることを引き出してみてください。「私があなたに望むこと(WINFY)」は、不満から有効な要求への移行を支援します。 ・質問応答カードを使って、グループの要望の表現方法を研ぎ澄ます。
”LS Menu 24. What I Need From You(WINFY)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。 回答において「詳しい説明を禁止する」ことがここでも強調されている。返答における詳しい説明よりも要求における明確さを大事にする ことがポイントである。 これについて、これ以上の詳しい解説はこのWebページには無いが、返答における詳しい説明をいくら磨いても、「できない理由」をより多く引き出してしまうだけに終わるリスクが高い からではないかと考えられる。
繰り返し方とバリエーション ・未解決な部分や不明な点が多い場合は、第2ラウンドを検討する。具体的で明確な要求をすることは、重要なスキルです。 ・最後の報告会で、参加者に「頼まれなかったこと」を明確にする機会を与える:グループの目的を達成するのに役立つのに、頼まれなかったことがあるでしょう。 ・職能別の集まりの代わりに、相互依存関係にある個人のグループやチームで「私があなたに望むこと(WINFY)」のやり方を同じように使用する。 ・回答選択肢の 「やってみます」を 「何ですって?」に置き換える。 「やってみます」という回答は、より深い理解や直接的な行動の必要性を曖昧にしてしまうかもしれません。 ・「援助のヒューリスティクス」、「統合〜自律」、「真価を見出すインタビュー」、「エコサイクル・プランニング」とひもづける。
”LS Menu 24. What I Need From You(WINFY)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。 2番目の「最後の報告会で、参加者に「頼まれなかったこと」を明確にする機会を与える」という方法は、全体的な観点で自分たちの活動を見直すために良い機会となるだろう。それは「頼むことを考える」ことの大切さを改めて知る良い機会になるともいえる。
「援助のヒューリスティックス」はLSのひとつで、自分が置かれている課題状況を掘り起こしていくコミュニケーションに主眼が置かれた取り組みである。その後に、この「私があなたに望むもの」を組み合わせれば、解決のために何をどう頼むかについてのスキルが補填されるであろう。「援助のヒューリスティクス」の進め方については以下の記事にまとめてある。
「真価を見出すインタビュー」は、埋もれているサクセスストーリーを掘り起こすことを主眼としたLSである。その教訓を次につなげるために、この「私があなたに望むこと(WINFY)」は使えるだろう。「真価を見出すインタビュー」の進め方については以下の記事にまとめてある。
「統合〜自律」、「エコサイクル・プランニング」もLSであるが、これについてはまたの機会に紹介することにしたい。
事例 ・グローバルな技術グループ(複数の国にメンバーがいる)で、変化の激しい市場で意思決定を行う必要がある場合(第3部「現場の声」の「コミットメント、オーナーシップ、フォロースルーを得る」参照)。 ・組織の次のレベルのリーダーに一貫した指示を与えることに苦慮している3人のトップエグゼクティブのために。 ・多職種連携が必要な患者中心ケアの取り組みを開始する病院経営者・管理職の方へ。 ・一対一の関係をより力が生まれるものにするために。
”LS Menu 24. What I Need From You(WINFY)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。 最初の項目の第3部の記事のタイトルは現在、「コミットメント、オーナーシップ、フォロースルーを得る(“Getting Commitment, Ownership, and Follow-Through” )」というタイトルではなく「Straight Up Business: You Are the Setter, Not the Spiker (Neil McCarthy)」 となっている。 会社組織などでは分業による相互連携の低下はどこでも見られるので、多くのビジネス・シーンでの活用が可能であるといえるだろう。
レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係 「自分が相手に望んでいることを十分に明確に表現できていない」ことが、語彙やコミュニケーション量の不足であるならば、この「私があなたに望むこと」というリベレーティング・ストラクチャーでも十分であろう。 しかし、そもそも自分が何に不満をもっていて、それを解消するために何が必要かということ自体が曖昧である場合には、それを引き出し明確化するための別の手段が必要である。そのようなケースにおいてレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを使うことが役立つと言える。
また「私が〇〇に望むこと」は、身近で普段からつながりがある人に対して、面と向かって言葉を向けにくい(だからこそこのLSではあるが)。さらに普段から少し距離があったり相互不信が強ければ、思考もそういった感情に大きな影響を受ける。 その点についても、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを作って、ブロックで作ったモデルを媒介にして表現することは、少し時間はとられるが、お互いを受け入れる雰囲気をつくり、相手に伝えるためのより確実なアプローチとなりうる。 もう一つ、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを使う利点があるとすれば、「望むこと」モデルはそれ要望が存在することを否定できないので、回答としての「ノー」は突きつけにくい。存在を認める以上、その先にある「その要望をどう扱えばいいのか」へと思考が転換していく。その機を捉え、もう少し時間を用意して、今度はそれらの要望について「わたしにできること」についてモデルを作ることで、要望と行動の望ましい関係を探っていくことができるだろう。