『なぜ人と組織は変われないのか』をレゴシリアスプレイの文脈で読む(11) 第10章 克服ー新しい知性を手にいれる
ハーバード大学教育学大学院のロバート・キーガン教授とリサ・ラスコウ・レイヒー女史との共著による『なぜ人と組織は買われないのか』(英治出版 2013年)を読み、レゴシリアスプレイメソッドとの関係を考えていく。
第10章では、「免疫マップ」を作った後に、実際に自己に変化を起こしていく際のポイントについてまとめられている。
「免疫マップ」作成後のポイント
著者たちがまず、最初に指摘するのが変換に要する時間についてである。
集中して取り組んでもすぐには効果が見えてこない。週に30分程度、数ヶ月をかけて進めることを勧めている。
次に、一人で取り組むこともできるが、できれば同じ変革に取り組んでいるパートナーを見つけて共に支え合いながら行うことを勧めている。経験豊富なコーチでも良いとのことである。
第三に、自分に合った変革のための活動を選択することを勧めている。本書にはいろいろなケースややり方が紹介されているが、免疫システムは人によって異なるので、自分の免疫システムや現在の進行状態を考えながら選ぶことが重要で、全てを行う必要はないとのことである。
ここでいう変革のための活動であるが、代表的なものとして以下のようなものがある。
・「免疫マップ」をブラッシュアップする
・改善目標のための事前調査を行う
・「目標への道のり」を作成する
・自己観察を行う
・強力な固定観念の履歴書をつくる
・強力な固定観念の妥当性を検証する
・事前調査に協力してもらった人に事後調査に協力してもらう
・落とし穴(自分が免疫システムを発動させる条件)を発見する
・免疫システムが働いている状態からの脱出の手順を発見する
・他の問題の免疫システムの克服に乗り出す
以上の中でも、著者たちが、最も時間を要し、最も成果を左右するとしているのが「強力な固定観念の妥当性を検証する」ことである。
強力な固定観念の妥当性を検証する
著者たちは、自分が抱えている本当に「強力な固定観念」とは何なのか、検証するためには以下のステップを踏んでいく必要があるとしている。
1.実験の設計
・固定観念について複数の候補が上がっている場合には「どのくらい自分がその固定観念に強く支配され、その外に出ることに危険性を感じているかどうか」「検証可能であるかどうか」からえらぶといいという。
・検証可能性については、あらかじめ「固定観念に沿った自分や相手の反応を予想しておく」ことが一つのやり方である。
・事前に反応を決められない場合でも、偶然はじまった会話や相手とのやり取りの中で、意識的にそのやりとりを観察し記憶しておき、後に振り返るような方法でもいいという。
・一つの良い実験の基準として「SMART」というアルファベットで示される3つの基準からチェックする方法もある。
S: Safe 安全な範囲での実験行動である
M: Modest ささやかな実験行動である
A: Actionable 実行可能な行動である
R: Research あくまで実験だと割り切れること
T: Test データを集めることに役立つこと
2.実験の実行
・データを集めることを忘れないようにする
・実験に欠陥が見つかっても修正してまた試せばよい
3.実験結果の解釈
・本書に付随するチェックシートを使ってみる
・「強力な固定観念」は、目の奥にあるようなもので、簡単に把握はできない。輪郭をつかむまで、何度も検証と修正をし直す必要がある
無意識的に自由になることを目指す
こうした検証実験の打ち切りのタイミングは、「強力な固定観念」から「無意識的に自由」になったことがわかった時点であるという。
その一歩手前が「意識的に自由」の段階である。これは、「強力な固定観念」に意識を向け、検証実験もしながら、それに陥らないようにさまざまな対策を講じて避けている段階である。
その先の段階である「無意識的に自由」は、「強力な固定観念」のことを十分に理解しており、免疫システムが働かないための対策も完全にできている段階である。
本書には、その段階に至ったかどうかについてのチェックシートもついており、著者たちはその利用を推奨している。
この段階まで至ると、次の「改善目標」に手をつけることができるようになる。固定観念にはいろいろなものがあるため、それを一つずつ取り外していくようなイメージである。こうして、学びの旅は続いていくと言って良い。
レゴシリアスプレイメソッドとの関連
レゴシリアスプレイメソッドを使ったワークショップは、集中した時間で数多くするものではないスペシャルな活動であるとイメージされがちであるが、本当に高い効果を狙っていくならば、この「免疫マップ」のように短い時間でも、繰り返し、長期間にわたり取り組んでいくという方法も取ることができる。
具体的なワークの例としては、自分の改善目標とそれを妨げている要素についてモデルを作り、それを壊さずに机の上においておく。そして、1週間の終わりに眺めて、そのモデル通りに自分が行動できたかをモデルを見ながら振り返る。その1週間で得られた経験に応じ、必要ならばモデルを修正してみる。また、そのモデルから、次の週の自分の行動や注意の焦点について考えていくと言った次第である。
繰り返し、長期間にわたる取り組みも一人ではなかなか続かないことが多いこと、自分自身のことについては気づかないことも多いので、本書にもあるように、同じ取り組みをするパートナーを作って勧めていくということも、レゴシリアスプレイメソッドでも同様のポイントになりそうである。
また「落とし穴」や陥ったあとの「脱出手順」というメタファーは、別のテーマにおいても使えそうである。