今回取り上げるのは「デザイン・ストーリーボード(Design StoryBoards)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。
リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はまず、こちらのNoteを読んでいただければと思います。
この「デザイン・ストーリーボード」というLSの解説には「基本」と「上級」のバージョンが用意されている。前回の記事(以下にリンク)では「基本」のバージョンを扱ったので今回は「上級」を取り上げたい。
この方法で何ができるか?
「基本バージョン」が1日のワークショップのデザインを想定していたのに対し、「上級バージョン」では取り組み期間が長く、繰り返しも想定したプログラムを考えるというものになっている。
なお文中に出てくる「スケールアップ」は、取り組みの規模を大きくするイメージで、「スケールアウト」は同じ取り組みをいくつも行うというイメージで捉えるとわかりやすいかと思われる。
5つの構造要素
上記を見る限り、「基本バージョン」に比べ「上級バージョン」が力を入れている点は大きく3つある。
ひとつ目は、テーマに関わる既存の製品やサービスを受けたユーザーの体験を調べることである。
これに関して「シンプル・エスノグラフィー」という方法が紹介されているが、これもLSのひとつである。またの機会に紹介したい。
ふたつ目には、リベレーティング・ストラクチャー以外の方法も必要に応じて取り込むことである。長い期間を想定しているため、状況に応じて従来型の進め方(インプット重視のプレゼンテーションなど)も使う場面が必要になるということであろう。デザインをする際には、そのような柔軟性も必要になりそうだ。
みっつ目には、必要なステップを複数の段階に細かく分けた上で、それらが効果的かどうか、テストをして検証するということである。長い期間であることを考えると、本格的に始まってから「うまくいかない」となるわけにはいかないということであろう。
なお、「4.グループ編成の方法」にでてくる「1-2-All」「1-All」はリベレーティング・ストラクチャー(LS)のひとつである「1-2-4-ALL」の改変バージョンである。1-2-4-ALLについては以下のNoteで紹介している。
また、「5.ステップと時間配分」にでてくる「9つのなぜ」もLSである。こちらについては以下の記事で紹介している。
これらの他にも、一通り主要なLSについて知っていないと、理想的なストーリーボードを組み上げるのは難しい点は「基本バージョン」と変わらない。
実施にあたっての追記事項
ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。
「基本バージョン」とほとんど変わらないが、より大きなインパクトを個人や組織に与えることが目的ということである。
上級バージョンにはたくさんの時間をかけなければならないが、「必要な時間をケチらない」ことは「基本バージョン」と変わらない。
また、当初の狙い通りに行かなくなる可能性も長丁場だと高まるので、事前に用意していた代案も念入りに用意しておくというのも重要だ。
イラストなどの視覚化の力を借りることで、ユーザー体験の理解やアイデアのテストなども、より効果的に行えるといえるだろう。
最後の「並べただけからストーリーボードへ」は、以下のページで紹介されている例のことだと思われる(直接的なリンクは元のページに掲載されていないが、サイト内検索で最も近かった)。
英語で書かれているが、翻訳機能のあるブラウザを使えば大意はつかめるだろう。LSを単に並べるのではなく、それぞれの目的と役割をしっかりと認識し、お互いの配置を工夫することで大きな成果をあげられるのである。
レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係
より大きなプログラムをデザインする時に、事前にその対象となる人の経験をしっかりと調査した上で行うことが大事であることは、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの世界でも全く同じであるといえる。
その一方で、プログラムを考えるための参考となる、あることに関する人々の経験や記憶を整理して形にして引き出すということそれ自体をレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドは得意としている。モデルを作ってもらった上で、そのモデルについて語ってもらうことで、言葉のみでインタビューするよりもより多くのことを引き出せる可能性があるのである。
そうして経験や記憶を引き出したのちに、改めて目的を定め、その達成のためのプログラムの中でも、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを使うことができる。レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドで引き出すのは、実際のところモデルを作った人の思いや考えなので、調査段階(考えていることを引き出す)にも解決段階(次に向けて内省し考えさせる)にも適用することができるのである。