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リベレーティング・ストラクチャーとレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッド(21)聞いてもらう、分かってもらう、尊重してもらう(HSR)

 今回取り上げるのは「聞いてもらう、分かってもらう、尊重してもらう(Heard, Seen, Respected: HSR)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。

 リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はまず、こちらのNoteを読んでいただければと思います。

この方法で何ができるか?

 参加者の「他者の立場に立つ」共感能力を養うことができます。多くの状況は、すぐに答えや明確な解決策があるわけではありません。こうした状況を認識し、共感をもって対応することで、「文化的風土」を改善し、グループのメンバー間の信頼を築くことができます。HSRは、個人が過剰な約束や過剰なコントロールをしないような方法で対応することを学ぶのに役立ちます。HSRは、グループのメンバーが望ましくないパターンに気づき、より生産的な相互作用に移行するために協力するのを助けます。参加者は、より多くの思いやりの実践と、それが生み出す利益を体験します。

”LS Menu 19. Heard, Seen, Respected (HSR)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 「傾聴」の重要性に気付かせるシンプルな狙いのLSとなっている。人間関係において聞くという行為の占める比率と影響力は高い。その部分を良くすることでさまざまな場面での改善が期待できる。

5つの構造要素

1.始め方
・参加者に、自分の話を聞いてもらえなかった、分かってもらえなかった、尊重されなかったと感じたときのことを、パートナーに話してもらう。
・聞き手には「他に何がありましたか」や「次に何が起こりましたか」といった質問以外の中断を避けるよう求める。

2.空間の作り方と必要な道具
・膝と膝の間が数センチある向かい合った椅子。
・テーブルはなし。

3.参加の仕方
・語り手と聞き手、それぞれの役割に参加する時間を順番に均等にする。

4.グループ編成の方法
・ペアでそれぞれが物語を語る。
・その後、4人組で起こったことを振り返る。

5.ステップと時間配分
・HSRの目的を紹介する:何かを解決しようとしたり、判断したりすることなく、聴くことを練習する。3分
・一人ずつ、7分間で「話を聞いてもらえなかった」「分かってもらえなかった」「尊重されなかった」というエピソードを話してもらう。15分
・パートナーは、聴くことと話すことの経験について互いに分かち合う。「自分の話をするのはどんな感じだったか」「あなたの話を聞くのはどんな感じだったか?」5分
・4人組になり、「1-2-4-All」を使って、参加者が振り返りを共有する。「話の中にはどんなパターンがありますか?」「そのパターンにどのような重要性を持たせますか?」5分
・グループ全体として、参加者は「パターンによって明らかになった課題に対処するために、HSRをどのように使うことができるか」という問いについて考える。他にどのようなリベレーティング・ストラクチャーが使えるか?5分

”LS Menu 19. Heard, Seen, Respected (HSR)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 「聞く」ということを、それを十分にしてもらえなかった体験を物語ることを通じて理解を深めるという比較的簡明な構成になっている。

 「5.ステップと時間配分」に出てくる「1-2-4-All」は、頻出するLSの一つである。詳しいやり方は以下のNoteで紹介している。

 また、上記の文中では紹介されていないが振り返りのまとめ方にはLSの一つである「3つのW」を使うこともできる。このLSによって、このHSRでの体験の意味づけと次へのアクションをより手堅く行うことができるようになる。「3つのW」については以下のNoteで紹介している。

実施にあたっての追記事項

 ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。

なぜ その目的なのか?
・人の話を聞いてもらえない、人に見られていない、あるいは人に尊敬されないという経験が、人々にとっていかに一般的であるかを明らかにする。
・他の人が自分の話を聞いてもらっていない、分かってもらえていない、尊重してもらっていないと感じるような行動をとることが、いかによくあることかを明らかにする。
・グループメンバー間の傾聴、同調、共感を向上させる。
・聞くだけで、どれだけ多くのことが達成できるかに気づく。
・混乱した状況や新しい状況に直面したとき、よりお互いを頼りにすることができるようになる。
・人間関係がこじれたときに、カタルシスと癒しを与えることができる。
・管理職が、問題を解決しようとするよりも、聞く方が効果的であることを見分けることができるようになる。

”LS Menu 19. Heard, Seen, Respected (HSR)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 ここにあるように、聞いてもらえないということに始まる苦しみや問題は非常に一般的である。多くの人にとって聞くことが直接成果に結び付いているように感じられないことや、すぐには悪い影響が出ないために対応を怠ってしまうことが原因の一つであろう。

 この原因は、別の角度から見れば人間における「システム思考の欠如」にもつながる。この先については、その問題に立った組織づくりを論じた『学習する組織』という書籍を扱ったマガジンを作っているので興味のある方はそちらを辿っていただきたい。

 なお、6項目目にある「カタルシス」は心に溜まったネガティブな感情やモヤモヤを会話などで外に出すことによって、心理的にすっきりした状態になることである。 

コツとワナ
・「相手の方が先に準備できているかもしれません。最初に思い浮かんだ話が一番良いことが多いのです。」と言う。
・「思いついた中で一番辛い話は選びたくないかもしれませんね」と言って、心理的な安全さを確保する。
・「語り部のプライバシーを大切に守ってください。他の人と共有できる部分があれば、それを聞いてみてください」と言って、心理的な安全さを確保する。
・「あなたが聞き役になったとき、(何が正しいか間違っているかについて)判断を下すときに、あるいはどうしたら助けになるか思いついたときには、それはそのままにしておいてください」と提案する。

”LS Menu 19. Heard, Seen, Respected (HSR)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 聞いてもらえなかった体験は辛い感情と結びついて、それゆえ心理的抵抗感が強く、それをほぐすことが実施のポイントの一つであることが上記からわかる。

繰り返し方とバリエーション
・もし勇気をもてるなら、「尊敬される」という言葉を「愛される」(すなわち、個人的な利益を得る動機なしに他者の最高の善を求めるという「アガペー」としての愛)に置き換えてみてください。
・HSRを、人間関係を修復するのに役立つ他のリベレーティング・ストラクチャーと結びつけてください。「トロイカ・コンサルティング」「援助のヒューリスティックス」「関係を生み出すSTAR」「真価を見出すインタビュー」「会話カフェ」

”LS Menu 19. Heard, Seen, Respected (HSR)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 このHSRというLSは単独ですることもできるが、他のLSのワークで時間的に余裕があるときに「聞く」ことを強化するワークとして入れ込むということもできるということである。

 「トロイカ・コンサルティング」「援助のヒューリスティックス」「真価を見出すインタビュー」「会話カフェ」などのLSについては以下のNoteで紹介している。

「関係を生み出すSTAR」も同じくLSであるが別の機会に改めて紹介したい。

事例
・定期的なミーティングで、お互いの話を聞き、同調することの質を高めるために。
・合併後の統合、市場の混乱、社会的混乱など、将来について答えが見つからず、共感的な傾聴が必要とされる過渡期の場合に。
・個人またはグループが損失を被り、悲しみや絶望を共有する場が必要なときに。
・組織内の上下の1対1の報告関係を改善したいときに。

”LS Menu 19. Heard, Seen, Respected (HSR)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 傾聴の態度は良好な人間関係の基本であるがゆえに、あらゆる場所や機会にそのような態度が十分に見られるかを注意しておく必要がある。必要に応じていつでも行えるように構えておくぐらいでちょうど良いのかもしれない。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係

 レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでは、ブロックで作るモデル自体が、自然と人の注意をひきつけ好奇心を喚起させるので、「傾聴」ということについては、ファシリテーターとして注意しておかねばならない要素の一つではあるが、そこまで心配しておく必要はない。

 しかし、そうであるがゆえに自然と「傾聴」が確保できていることの有り難さを忘れてしまいがちである。

 それを参加者の方に感じてもらうために、締めくくりで「今回のワークを通じて「聞く」ということについて普段の会議とどのような違いがありましたか?」などと聞いて印象に残させるのもいいだろう。
 また、「お互いに『聞く』ことができていない職場で何が起こるか、あなたの考えをモデルにしてください」という問いのもとに、ワークの一つにしてしまう方法もあるだろう。

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