今回取り上げるのは「即興劇プロトタイピング(Improv Prototyping)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。
リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はまず、こちらのNoteを読んでいただければと思います。
この方法で何ができるか?
このLSでしようとしているのは「即興劇」を作ることである。その「即興劇」づくりが、形式知、暗黙知に続く3つ目の知である「潜在知(latent knowledge)」も巻き込む行為であるという位置付けとして説明されている。
「形式知」「暗黙知」はもともと哲学者であるマイケル・ポランニーが唱えたコンセプトである。
それを企業経営に活かそうと提案したのが野中郁次郎教授と竹内弘高教授である。次の本は日本発の理論として世界的にも有名になった。
「潜在知」というコンセプトは上記の書籍には出てこず、学術的にも(少なくとも私が見れる範囲では)広まっていない。
ただ「潜在知」が示そうとしている、人々のやり取りの中で新たな知識が創られるという側面はあるので、このLSの範囲でのオリジナルコンセプトとして理解しておいた方が良さそうだ。
5つの構造要素
上記の説明のうち、途中で出てくる「1-2-4-ALL」はLSのひとつである。それについては以下の記事を確認してほしい。なお1-2-4-ALLを使うところは5分とあるが、このLSの標準実施時間は12分である。
実施にあたっての追記事項
ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。
「新しい考え方を行動に移す」は問題解決にとって非常に重要である。実際には解決策がわかったとしてもそれまでの習慣的行動から脱せられず結局解決しないという事例は後を絶たない。
そういう意味で、ワークの中で少しでも「身体に染み込ませておく」という狙いは注目に値する。
第2項目に出てくる「発見と行動のための対話」はLSの一つで以下の記事で紹介している。解決策の骨格を考えることが難しそうな参加者が多ければ、このLSを組み合わせるのは良い方法となるだろう。
この「発見と行動のための対話」と並んで挙げられている「シンプル・エスノグラフィー」もLSの一つである。これについては、機会を改めて取り上げたい。
「シナリオの複雑さに応じて、ステージマネージャー、クリエイティブディレクター、ファシリテーターという3つの役割を設定することを検討する」とあるが、それら3つの役割についての細かい説明は、リベレーティング・ストラクチャーのページ上には残念ながら記載されていない。
シナリオが複雑になっていくと、即興劇に慣れていない参加者にとってはハードルが非常に上がると思われる。経験豊かな演出家が付くのであれば、参加者を引っ張っていけるかもしれないが、未経験者が多いの中で役割を追加してもあまり効果はないと考えられる。
参加者が初めての場合には、複雑なシナリオをあまり扱わないことが最も大事なことでありそうだ。
ここで出る「歓声メーター(applause-o-meter)」は、古くからある歓声の音を計測する機械である。
iPhone向けのアプリも存在している。
第2項目に出てくる「シフト&シェア」はLSの一つであり、以下の記事で紹介している。ゼロから解決策を考えるのは大変だという場合には、基本となるアイデアを共有するために使うと良いということだろう。
「デザイン・ストーリーボード」と「UXフィッシュボウル」もLSであるが別の機会に紹介したい。
このLSが活きる問題としては、作るのが「劇」であるだけに、人間同士のやり取りが中心となっている場の問題が良さそうだ。上記にもあるように、対人営業、上司部下のやりとり、医療介護、教育現場などが想定される。
レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係
レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドで解決策を表現するというのはあるが、その作品の説明のなかで「ストーリー」は語られることはあるのものの、「即興劇」を展開するという形ににはなかなかならない。
そう考えると、この「即興劇プロトタイピング」は、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドではなかなか引き出されない側面や知恵を引き出せる可能性をもっているといえる。
例えば、対人間の問題(作っていく劇の背景や人物設定のもとになる)については、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッド使ってモデルにしてもらい、共通の認識を持ってから、「即興劇プロトタイピング」へとつなぐなどの組み合わせ方が考えられる。
他にも、何らかの課題解決のために、モノやサービスのシステムなどを通じた解決についてはレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドで考え、その後、対人間のやりとりを通じた解決については「即興劇プロトタイピング」で考えるなどという組み合わせも考えられる。
このような組み合わせを考えることはレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの有効性の範囲について理解を深めることにもつながる。さまざまな手法を知ることで、相対的にレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの価値や魅力がわかってくるのである。