『U理論[第2版]』をレゴシリアスプレイメソッドの文脈で読む(2)第2版まえがき
これは、オットー・シャーマー著の『U理論[第2版]』を読み、レゴシリアスプレイメソッドの文脈で解釈していくNoteである。今回は、「第2版まえがき」の部分をとりあげたい。
第2版のまえがきには「10年ののち、立ち現れる地球」というサブタイトルがついている。これは第1版から10年経って、U理論とそれをめぐる環境がどう変わったかについて取りまとめたものである。
その変化は5つあると著者は指摘している。
(1)マインドフルネスの台頭
著者は、マインドフルネスのもつ「自分の意識に意識を向けること」という性質に注目する。そして、認知科学、健康、教育、リーダーシップという領域でマインドフルネスがより中心となってきていることを指摘する。
世界には情報が溢れかえり、SNSなどで刺激的な情報が行き交っている。その中でますます世界に文化的ADHD(注意欠陥多動性障害)が広がっている。このことに対して、正しい道を自ら進む力を得るためにもマインドフルネスは重要である。
(2)破壊的混乱の高まり
気候変動、テロリズム、地域紛争、難民、政治思想の両極化など多くの破壊的混乱が世の中に溢れている。新たなテクノロジーも、次々に伝統あるものやこれまでの考え方を駆逐している。
こうした「外側の問題は内側の問題を映し出す鏡である」と著者は指摘する。内側の問題を見るためには一つ目の変化にも出てきたマインドフルネスが必要となっているのである。
(3)不在化の台頭
不在化は自分を他者と切り離し(否定する、感知しない)、自分自身からも切り離す状態である。不在化は、破壊的混乱に対する人間の反応の一つとして現れる。この不在化とは逆に位置するのが、自分と他者とを結びつけて世の中の事象を理解する態度である。
(4)組織の転換
この変化は、人々の社会認識に関するものである。著者は本書の要約ともいえる「社会進化のマトリックス」をここで示す。
このような表を完成させるかのように縦列の1.0から4.0に向かって、多くの著作物や実践者の意識が深まってきているということである。
(5)地球規模の社会的な場を起動させる
これはオットー・シャーマーが主催するUラボの講座への参加者と運動の高まりである。10年間で75人から7万5000人になったという。Uラボは単なるオンライン講座ではなく、オフラインでの実践活動や世界の変動とともに進化する学習環境であるという。この動きの中心にあるのがU理論という考え方である。その中で見えてきたのは、可能性に溢れた領域であり、前書きの副題にもなっている「立ち現れる地球」なのである。
そして、この本全体に流れている3つのメタ・ナラティブが紹介されている。メタ・ナラティブとは、この本の理解を助ける役割を果たすオットー・シャーマー氏の個人的な体験にも深く根ざしている話である。
ひとつめは、畑での散歩であり、ふたつめは、物質と精神の再統合を唱える老師の話であり、みっつめは、火事の話である。これらはこの先の本の中で効果的な場所であらためて語られることになる。
最後にオットー・シャーマー氏自ら関わる世界各国でのプロジェクトについての紹介がなされる。スコットランドでのコミュニティ能力の向上、ブラジルでの食糧と消費の問題、金融領域での責任ある銀行の役割を探る取り組み、中国でのセクター横断型イノベーションの旅、アメリカのブロンクスの都市再生、ブータンでのウェルビーイング・ラボ、アメリカMITでの多様性グループ作り、ナミビアの医療システム改革などが取り上げられている。
これらに関わっているオットー・シャーマー氏の意識には「立ち現れる地球」が感じられているということである。
レゴシリアスプレイメソッドとの関わり
レゴシリアスプレイメソッドは、皆が良いアイデアを持っているが人々と切り離されている(「ロンリー・ガイがいる」というフレーズを使う)状態を解消し、人々の考えをレゴブロックで可視化して、前のめりな姿勢で関わらせ、共創の力を作り出すことを狙いとするメソッドである。
この点において、「(3)不在化の台頭」は看過できない変化である。また、お互いの考えを受け入れ、そこから共創するという点においては「(4)組織の転換」で示される社会進化のマトリックスにおいて意識の構造の1.0~4.0へと深めていくことがレゴシリアスプレイメソッドでも起こっていると言うことができる。
ただ、実際のワークショップにおいて生み出される場は、メソッドの使い方によっては3.0の場となるときもあれば、4.0を作り出せる時もあるだろう(ファシリテーターがメソッドを適切に使えなかったり、ファシリテーションの気を抜けば、一部の参加者は2.0になってしまうかもしれない)。「4.0のエコシステム意識」に向けて確実に参加者の意識をもっていくために必要なことは、今後の章の中から明らかにしていく価値が大いにある。
そして、レゴシリアスプレイメソッドもそのファシリテーターコミュニティは数万人になっているものの、本書で紹介されているようなUラボを中心とした世界各国での大きな変革プロジェクトのような大きな波は、まだまだ生まれてくるには至っていない(社会問題をもっと扱っていこうという動きはある)。そのような動きが生まれる可能性についても、今後の読書の中で考えていきたい。
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