見出し画像

THE GAZETTEを読む(32)2018年12月号 世界はもっと斥候を必要としている(兵士はもう十分だ)

 本記事は、ラスムセン・コンサルティングが発行しているメールマガジンTHE GAZETTEのバックナンバーを、日本語訳をしながら、コメントを加えながら読んでいくシリーズの一つである。レゴ®︎シリアスプレイ®︎(LSP)のファシリテーター・トレーニング修了者向けに書いている。
 この記事の引用元原文はこちらのPDFから読むことができる。

 レゴ®️シリアスプレイ®️のメソッドは、意味、理解、そして最終的には私たちの社会的現実は、私たちが構築する言語と会話によって作られるという構築主義的原則に基づくものです。私たちが真実だと信じていることは、他者との会話によって確認され、発展していくのです。
 TEDx Talkの中で、Julia Galef(the Nonprofit Center for Applied Rationality(応用合理性の非営利センター)の共同設立者兼代表)は、2つの異なる考え方からなるアイデアを提示しています。それは、信者が自分の信念を何としてでも守ろうとする兵士の考え方と、信者が世界をできるだけ明確に客観的に見ようとする斥候の考え方のどちらかに、人は自然に引き寄せられるというものです。

THE GAZETTE 2018年12月号をDeepLで翻訳・筆者が修正

  前半にある「構築主義」は「社会構築主義」とも呼ばれる。「私たちが真実だと信じていることは、他者との会話によって確認され、発展していく」とあるように、私たちが社会的現実だと考えているもののほとんどは、自分で確かめたものではなく、他の人からの情報を信じていることによって成り立つ。また、自分の目で確かめたとしても、それが正しいという確信は他の人の合意がないとなかなか持てないものである。
 「構築主義」はレゴ®︎シリアスプレイ®︎の価値を確固なものとする考え方でもある。構築主義に立てば、人々が実現したいと考えていることや理想は、他の人に語られ、認められることを通じて現実になっていくということになるからである。社会や組織をより良い状態に持っていくには、誰かの思想やアイデアでは十分ではなく、人々の対話を通じた現実化が必要なのである。だからこそ、社会や組織を進展させる可能性のある話題こそ、計画や方針策定以上に、レゴ®︎シリアスプレイ®︎のようなメソッドを使って対話の場を作ることが非常に重要となる。
 この構築主義に関しては、世界的権威であるケネス・J・ガーゲン氏の次の著作などを通じて理解を深めておくのがよい。

 構築主義に立つと、次に問題になるのが対話の場の中でなされる会話の質となる。建設的に未来を作る対話もあれば、破壊的なだけで人を貶めるように働く対話もある。
 その問題を考えるのに参考になるのが、今回のJulia Galefの「兵士マインドセット」と「斥候マインドセット」の議論ということになる。

兵士マインドセット 対 斥候マインドセット


 兵士のマインドセットは、ほとんど無意識ですが、自分が正しいと信じることを情熱的に守ることができ、自分の価値観や信念を優先させることを促します。しかし、このマインドセットの持ち主は、矛盾する証拠を無視し、基本的に自分の聞きたいことだけを聞くようになります。一方、斥候マインドは、非常に意識的な状態で、この視点を維持するために個人が投資する必要があります。このマインドセットの主な利点は、自分の周りの世界をできるだけ正確かつ公平に調査し、本当にそこにあるものを見て、すべてを聞くことができるようになることです。
 社会では、兵士のマインドセットの作り方については多くの指示がありますが、斥候のマインドセットの作り方についてはほとんど奨励されていません。私たちがお互いに話す方法が私たちの社会的現実を構築するのですから、私たちの信念を軽く持ち、質問をし、新しい知識、意味、新しい見方や理解の方法を受け入れる余地を作ることは理にかなっています。人々に斥候マインドを奨励し、オープンで偏りのない方法で自分たちの現実を調査することを可能にすることは理にかなっているのです。

THE GAZETTE 2018年12月号をDeepLで翻訳・筆者が修正

 ここでのキーワードとなっている兵士マインドセットと斥候マインドセットについては、横のコラムに簡潔なまとめが載っている。日本語訳したものが以下である。軍帽が兵士マインドセットで、双眼鏡が斥候マインドセットのメタファーとなっている。

THE GAZETTE 2018年12月号の挿入図を筆者が翻訳

 兵士マインドセットは、結論ありきの思考であり、そこに向けるように全ての対話を収束させるように努力する。構築主義の立場からみると、もちろんその結論に賛同しない人々からの抵抗が予想される。その結論に向かわせることに失敗した場合には全てを失うことになるため、ますます強引に結論を押し付けようとして、より大きな反発を受けるという悪循環を繰り返すことになる。
 まず「斥候」とは、もともと戦地で状況把握をするために情報収集に出て、全体状況を報告する役割を指す。全体状況が明確になったのち、作戦が立てられ、兵士がそれに向かって動くというのが通常の手順である。もちろん戦地は刻々と状況が変化するため、指揮官の判断で事前の想定状況とのズレを解消するための情報を得ようと斥候が出されることもある。
 ここでの斥候マインドセットは、構築主義の文脈に置き換えられている。彼らが把握しようとする戦地は、社会そのものである。そして、他の人と協力して共通の理解にもとづいた文脈(合意)をつくるように努力する。他の人と共通理解を打ち立てられたとき、それが現実になるからである。そのために、公平さを大事にするし、これまでとは異なる理解を求められることになる新たな情報(他の人が言い出した新たな発話)も受け入れる勇気も持っていることが必要だ。より多くの人と大きな成果が得られる活動をしたい人々にとっては、斥候マインドセットこそ必要なマインドセットとなる。
 兵士のマインドセットと斥候マインドセットの対比とその意味については、Julia Galef自身によるTEDビデオでの解説がある。日本語字幕でも見ることができるのでぜひ見ておきたい。

斥候マインドセットで取り組む


 レゴ®シリアスプレイ®メソッドのコア・プロセスには、「斥候マインドセット」が組み込まれています。モデルを組み立てる段階では、参加者は自分が知っていること、知らないこと、そして想像できることに意味を見出します。共有の段階では、参加者はある問題について、お互いの話や考え方を聞かなければなりません。レゴ®︎シリアスプレイ®︎のファシリテーターがよく言うように、「あなたはそれを好きになる必要はなく、同意する必要もありませんが、他の誰かがそれをどう見ているかということを受け入れなければなりません」。
 レゴ®シリアスプレイ®メソッドを使うときは、人々に決められた立場や信念を持ち、現状を維持するように指示するのではなく、人々が社会の現実を再構築し始めることを可能にすることが理にかなっています。私たちの未来は、斥候が地平線を見渡して新しい道を進むことにかかっているのです。

THE GAZETTE 2018年12月号をDeepLで翻訳・筆者が修正

 レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでは、参加者全員が斥候マインド・セットをもちながら対話に臨めるようになっているし、ファリシテーターもそれを実現するように場をつくる。「問題提示」→「モデルの構築」→「物語の共有」→「内省」というコア・プロセスとエチケットに従うことがそれを保証する。全員が斥候マインドセットで話し合うということは「100-100」の対話の場を作るということでもある。
 このことは裏を返せば、人々に斥候マインドセットを教え、定着させるためにレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを通じた対話の場を体験させる、という考え方も成り立つということである。すなわち、一人一人が自分の見ている世界について話をして、他の人の意見も受け入れながら、より大きな理解の文脈を構築する、という精神的態度(マインド・セット)を学ぶということである。
 この斥候マインドセットの態度定着の効果については、レゴ®︎シリアスプレイ®︎のワークショップの感想を求めたとき、ワークショップで扱うテーマの内容よりも、その関わり方についてのコメントがしばしば現れることに現れている。例えば「人の話をじっくり聞くことで、逆に自分の理解を深めることにもつながった」「他の人と自分の考えの共通点や差を知ることでより広い理解が持てるようになった」などの感想である。この点について定着効果をより高めたければ、ワークショップの後に、この兵士マインドセットと斥候マインドセットの話をして、それぞれのマインドセットを持つことが、他の人との人間関係や普段の生活にどのような差をもたらすかについて議論させるのも良いだろう。

いいなと思ったら応援しよう!