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『なぜ人と組織は変われないのか』をレゴシリアスプレイの文脈で読む(13) 終章 成長を促すリーダーシップ

 ハーバード大学教育学大学院のロバート・キーガン教授とリサ・ラスコウ・レイヒー女史との共著による『なぜ人と組織は買われないのか』(英治出版 2013年)を読み、レゴシリアスプレイメソッドとの関係を考えていく。

 今回は本書の最終章となる。
 本章では、著書全体を通じて示されてきた考え方が、「成功を促すリーダーが持つべき考え方」という観点から示されている。
 その観点は7つである。

(1)大人になっても成長できると言う前提に立つ

 ここでの「成長」は、子ども時代に主に行われている、知識量を増やすことは異なるものである。
 大人の「成長」とは、自分のモノの考え方を変えるという意味での成長である。もちろん、大人になっていても、知識量を増やすという従来型の学びは必要なときもしばしばある。

(2)適切な学習方法を採用する

 自分のモノの考え方を変えると言う意味での成長を促すには、知識量を増やすための方法とは異なる学習方法が必要である。
 著者たちは知識量を増やすための教室での学習を「コース主導型」、職場グループ単位での学習を「結果主導型」と呼んでいる。
 「コース主導型」では教室で講師から学んだことを実践で活かすことが期待されるが、結果としてほとんど学習が転移しない
 「結果主導型」では職場の活動の中で学習を進めさせる。組織や個人の職場での状態に合わせて目標を設定し試練に挑ませる。現実と目標との関係、参加者同士の関係が強く意識されるため学習の転移問題はそもそも起こらない。参加者にとって、お互いの成長が自分のためになることがはっきりしているため、他者の成功や成長を支援し、賞賛するなかで学習が進んでいくことになる。

(3)誰もが内に秘めている成長への欲求をはぐくむ

 ここでのキーワードは「はぐぐむ」である。著者たちによれば、ほとんどの組織がメンバーの能力開発を、ときおり実行すればよい課題、ぐらいにしか考えていないという。年に数回しか行わない(場合によっては数年に1回)しか行わないことを「はぐくむ」とは言わない。
 「はぐくむ」は、メンバーに必要な支援をあたえ、成長をもたらす「よい問題」に取り組ませることである。その「よい問題」はメンバーが抱える自分のここを変えたいという気持ちから生まれるものである。

(4)本当の変革には時間がかかることを覚悟する

 本書でも繰り返し述べられているのは、人が変わるには時間がかかるということである。そして人間の発達という考え方を身につけていくと、その人は忍耐強くなるという。もちろん、ビジネスの世界ではスピードや効率性が叫ばれ、それに乗じて「1日で変わる」ことを要求してくる人も出てくる。何が現実的で、何が非現実的な望みなのかについて、理解していることが重要なのである。

(5)感情が重要な役割を担っていることを認識する

 人間の感情が職場に大きな影響を及ぼすことは誰もが知っているが、それをどのように扱ったら良いのかについて知っている人はほとんどいない。
 扱い方がわからないという理由でそれを無視してしまうといつまでも重要な問題は解決に向かわない。

(6)考え方と行動のどちらも変えるべきだと理解する

 著者たちによれば、自己の内省を深めて行動の変化を期待する方法は洞察志向アプローチと呼ばれ、行動を変化させることで内面を変化させることにつなげる方法は行動変容志向アプローチと呼ばれている。本書では、どちらかが正しいという立場ではなく、その両方が必要であるという立場をとる。この2つを同時並行的に行うことが自己変革への近道となる。

(7)メンバーにとって安全な場を用意する

 自己を発達させる中では、失敗は避けられない。失敗は誰にとっても怖いことである。そこで注目しておくべきなのは、失敗ではなく、そこに向けて行動した勇気である
 その勇気が継続して発揮されるように支援する必要があり、そのためには心理的な安全性が必要である。その安全性を作り出せているかどうかは常にチェックされなければならない。

 リーダーがこれらの考え方をもったで、組織のメンバーの発達を支援することができている組織が学習する組織である。学習する組織づくりのために、「変革をはばむ免疫機能の克服」は最善の道となる。

レゴシリアスプレイメソッドとの関連

 ここで示されている7つの考え方に重ねて、レゴシリアスプレイメソッドがどうであるか、考えてみたい。

(1)大人になっても成長できると言う前提に立つ
 レゴシリアスプレイメソッドでは、大人の成長という点については特に考えられていない。ただし、ワークを通じて自分の中に眠っていた知識を引き出した結果として、「自分のモノの考え方」に気づき、変化のきっかけとなる可能性はある
 大人の成長を導くものになるかどうかは、メソッドを利用したプログラムのデザイナーとファシリテーター次第であるということである。

(2)適切な学習方法を採用する

 レゴシリアスプレイメソッドが実際に行われるのは、「コース主導型」の枠組みの中が多いだろう。その場合には、ここで指摘されていた学習転移の問題は多かれ少なかれ向かい合わなければならないだろう
 ただし、メソッドの中で作られるモデルは、その人の日頃の考えや現実を反映するため、単なる知識伝達型の講座よりも学習転移を起こしやすいと推論できる。
 大人の成長を狙いとすること、それに合わせてプログラムがデザインできるか次第ではあるが、その場合の学習方法としてのポテンシャルは十分にあると感じる。

(3)誰もが内に秘めている成長への欲求をはぐくむ

 レゴシリアスプレイメソッドは、人々の内面の欲求を見える化することに大きな強みを持つ。そのことは、人々が自分にとっての「よい問題」を認識するために大いに役立つだろう。

(4)本当の変革には時間がかかることを覚悟する

 レゴシリアスプレイメソッドは、(特に初めて触れる)多くの人にとって新鮮で驚きに満ちた体験を提供するようである。そのため、その場の雰囲気や人々の表情からその場で効果が出たと感じやすいだろう。
 しかし、レゴシリアスプレイメソッドに限らないことであるが、多くの場合、時間が経てば薄れていく。これについては、戦略的かつ定期的に多くの実施機会(別の機会はレゴシリアスプレイでなくても良いかもしれない)を作っていくことが必要であろう。

(5)感情が重要な役割を担っていることを認識する

 レゴシリアスプレイメソッドを通じて作られる作品やストーリーには、自然と感情の表現が盛り込まれるようになっている。

(6)考え方と行動のどちらも変えるべきだと理解する

 明らかにレゴシリアスプレイメソッドは、洞察志向アプローチ側に属する。本書で指摘されているように、行動変容志向アプローチと同時並行的に行うようにすることでより効果を高めることができるかもしれない。

(7)メンバーにとって安全な場を用意する

 レゴシリアスプレイでの真剣なプレイを引き出すためには、参加者のエネルギーを解放させる必要があり、そのための一つがワークに安全な気持ちで参加させることである。日常から作品などを作って自分の考えや気持ちを表現することを多くの人はしていないし、レゴブロックも日常的に触っているわけではない。そのため、誰でも作れるし、誰でもそれを使って話すことができる、お互いにその話を受け止め合う場にするということは、何よりもファシリテーションにとって重要なポイントとなっている。

 こうして各項目を見てみると、大人の学びや成長の方法の一つとして、レゴシリアスプレイメソッドを使うことは十分な可能性を秘めている(少なくとも決定的に向いていない特徴は存在しなさそうである)。

 一方で、大人の学びや成長の方法としてレゴシリアスプレイメソッドを展開していくためには、何よりも2つの条件が重要になりそうだ。

 一つは複数回に渡って行う長期間のプログラムにしていくことである。ここで言う長期間は、3ヶ月から半年ぐらいの長さである。
 もう一つは、レゴシリアスプレイメソッドのワークで自分の欲求や行動の目標、阻害要因を掘り起こすことで終わらず、その後に行動変容志向アプローチと同時並行的に行うようにすることである。

 本書から得られた知見をもとに、レゴシリアスプレイメソッドを取り込んだ、大人の学びを誘発するプログラムについて今後は実際に開発していきたい。

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