今回取り上げるのは「ユーザー体験
フィッシュボウル(User Experience Fishbowl)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。
なお、「User Experience」という用語は製品開発の現場などでよく使われるようになり「UX」の略称が当てられることもある。今回のLSでは製品開発に限らず使うことが想定されているため「ユーザー体験」という訳語を当てた。
リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はまず、こちらのNoteを読んでいただければと思います。
この方法で何ができるか?
「教える側が一方的に何かを教える」という学びのスタイルではなく、「学ぶ側がフロントランナーの語りを観察し、質問して学びとる」という学びのスタイルをとることによって、教える側にも気づきがもたらされるという考え方の上に成り立っているリベレーティング・ストラクチャーである。
5つの構造要素
このLSの実施においては「2.空間の作り方と必要な道具」に特徴がある。以下に簡単ではあるが基本的な配置の例を示しておく。
なお、「4.グループ編成の方法」の説明で出てくる「1-2-4-All」と「5.ステップと時間配分」に出てくる「3つのW」については以下の記事で取り上げている。どちらも、このLSをしっかりと機能させるための重要なLSなので、ぜひ内容を押さえておきたい。
実施にあたっての追記事項
ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。
イノベーターやアーリーアダプターは「イノベーター理論」で出てくる用語で、新しい物事に飛びつく順番の文脈で語られることが多い。
飛びつく順番としてはイノベーターが第一集団で、アーリーアダプターが第二集団である。全人口における比率も仮説があってイノベーターが2.5%、アーリーアダプターが13.5%である。合わせて16%なので、会場の6人〜7人に1人の「先行者」としてフィッシュボウルに入る感じになる(そうなると先ほどの例だとフィッシュボウルは2人〜3人が適正サイズとなる)。
いずれにせよ、まずは中央のフィッシュボウルに入って話をする人の人選がワークの成果を左右するポイントになりそうだ。
より詳しく知りたい人は以下の記事を参考にしてほしい。
フィッシュボウルの中に入ることは、他の人からの注目を集めることにもなるので、構えてしまって言うべきことをあまり選びすぎると逆効果になる。
砕けた雰囲気で生き生きとしたストーリーを語ってもらえるようにするための工夫が必要である。また、外で見ている人も「何を彼らから聞いた方がいいのか」を常に考えながら参加させることが重要である。
3項目目の「即興劇プロトタイピング」、「25/10クラウドソーシング」、「シフト&シェア」はそれぞれLSであり、以下のNoteで紹介している。
いずれのLSも問題解決のアイデアを生み出すためのものである。つまり「ユーザー体験フィッシュボウル」であるテーマに対する基本的な情報や先行事例について整理し、深く理解した上で、これらのLSを使ってより具体的な問題解決のアイデアにつなげていくという流れを作ることになるだろう。
「エコサイクル・プランニング」と「シンプル・エスノグラフィー」も同じくLSであるが別の機会に改めて紹介したい。
最初の項目の「陸軍における事後評価の変革」の事例において、より強調されていたのはこのLSで「複雑な環境下での行動と学習」ができたということである。
事態が単純で簡明であれば、プレゼンテーションでも事足りる可能性があるが、より事態が入り組んでいる場合には1人の話だけで全体像は見えてこないため、複数の人たちの話を「聞いている側からの質問」で結びつけながら全体的な理解を構築していくということの利点が浮かび上がる。
レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係
より複雑な環境下では、人々の間に有益な情報が分散して存在するようになる。
このLSでは、特に先行的に経験している人々に有益な情報があると考えており、それを「フィッシュボウル」で出してもらう。
それに対してレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでは参加者全員に等しく貴重な経験が眠っているという前提のもとで、それぞれの経験をモデルにしてもらい共有し合う。
多くの参加者がテーマについて十分な経験や情報がないと分かっている場合には、レゴ®︎シリアスプレイ®︎ではなく、「ユーザー体験フィッシュボウル」を選択することを考える方が良いだろう。
また、このLSは、体験の濃度に応じてグループを分けることで効果の生み出す方法を示しているとも言える。
この観点から、次のようにレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドのでのワークを変えることも有力な選択肢として考えることができるだろう。
①「経験が豊富な参加者」のグループと「経験が少ない参加者」のグループに分ける。
②全員にあるテーマについての体験についてモデルを作ってもらう。
※「経験が少ない参加者」のグループには「そのテーマについて悩んでいること」を作ってもらってもいいかもしれない。
③「経験が少ない参加者」のグループで簡単にモデルについて相互シェアをしてもらう(自分がわかっている範囲で整理してみることには相応の価値がある)。経験が豊富な参加者は、いずれかの経験が少ない参加者のグループに入って話を聞く(それによって豊かな経験者は自分の経験の価値がわかる)。
④「経験が豊富な参加者」グループのモデルのストーリーを全員で聞く。「経験が少ない参加者」はモデルについての質問をする。
※「経験が豊富な参加者」のモデル相互のコネクションやランドスケープをしているところを見てもらうというオプションもありそうだ。
なお、この共有を踏まえて「これから何をするか」については、全員のコミットメントの確保するために経験の豊富さに関わらず、全員で等しく取り組むようにした方が良いだろう。