今回取り上げるのは「賢い群衆(Wise Cloud)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。
リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はまず、こちらのNoteを読んでいただければと思います。
この方法で何ができるか?
お互いに相談し、相談される中で解決策を見つけ、それと同時に助け合う関係性をワークの中で育んでいくという内容は、「トロイカ・コンサルティング」というLSにも含まれている。以下の記事で紹介しているので比較しながら見ていくとより理解が深まるだろう。
5つの構造要素
この「賢い群衆」では1グループは4〜5人である。上述した「トロイカ・コンサルティング」では2人なので、それよりわずかに人数が増えたLSである。進め方は「トロイカ・コンサルティング」とほぼ変わらない(ように私には思われる)。
ちなみに、この「賢い群衆」の「5つの構造要素」について、後の追記事項の中の「繰り返し方とバリエーション」の中に大人数バージョンが紹介されている。対比しやすくなるように、先に紹介しておきたい。
人数が多い場合には、プライマリー・コンサルティングチームとサテライト・コンサルティング・チームに分け、クライアントとプライマリー・コンサルティングチームのやり取りを見ながら、それ以外の人々が批評するようにして「知恵」を集めるという方式が紹介されている。
なお、最後の「ここまでのプロセスと「それが意味するものは何か」と「今からどうするか」を話し合う」段においては、「3つのW」というLSを当てはめることができる。そのLSについては以下の記事で扱っている。
実施にあたっての追記事項
ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。
外部に頼らず自分たちで解決する可能性を大事にするというのは、このLSに限らず、多くのLSに共通する考え方である。それは自分たちの考える能力を高めると共に、自らが関わることへのコミットメントも高める効果がある。
参加者の多様性があった方が考えることを刺激するということもあり、参加者の構成のところからこの「賢い群衆」の成果は左右される。
二番目の項目に出てくる「援助のヒューリスティックス」はLSのひとつである。機会を改めて紹介したい。
また、コンサルタントの役割を担う時の重要なポイントは、よい質問ができるということである。それをうまく担うコツの一つとして「問い」がある。ここでも、この「賢い群衆」で役立つと考えられる問いが以下のように紹介されている。
上記に見られるのは、主にこれまでの取り組み(分析〜解決策)を把握することと、そのプロセスにおいて見落とされてきたかもしれない情報をうまく掘り起こすための質問である。こうした質問は、他のワークショップやコーチング等でも役に立つと思われる。
第一の項目に挙げられている、Q-stormingについては、本記事の「この方法で何ができるか」のところで紹介した「トロイカ・コンサルティング」に関する記事の中でも言及したが、アイデア出しでよく使われるブレイン・ストーミングの質問に絞った手法ということまではわかっているものの、手法の体系化まで十分になされていないようである。
その直後に出てくる「Clearness Committee」はキリスト教のプロテスタントの一派であるクエーカー教の教徒たちの間で確立された手法である。検索してみると英語ではあるが紹介PDFが見つかった(下線部にリンクが貼ってある)。これによれば、教徒同士が相手の悩みを祈りながら傾聴して解決するための取り組みであり、ここでも書かれている通り「賢い群衆」によく似ている。
最後の項目にある「トロイカ・コンサルティング」については、すでに冒頭の「この方法で何ができるか」で記事を紹介している。
また、「9つのなぜ」、「真価を見出すインタビュー」については以下の記事で扱っている。
なお、「援助のヒューリスティックス」、「HSR(Heard, Seen, Respected)」、「私の要望(What I Need From You)」の3つのLSについては改めて紹介したい。
個人的な問題から、社会的で複雑な問題まで広範な問題を扱うことができるということが改めてわかる事例のリストである。
進捗状況の発表やレビューに合わせて行うと、推進力が出るというのはなるほどと感じさせられる部分である。
レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係
「トロイカ・コンサルティング」の紹介記事でも述べたが、このLSでも「背中を向ける」ということが手法として示されている。それだけ、何かを相談したり考えたりするときには、お互いの視線が強く作用するということであろう。レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの、モデルを媒介にして対話をするようにやんわりと示すことで、この視線によるプレッシャーを自然に軽減することができることの利点を改めて感じさせる。
このLSに関する説明の中で特徴的なのが、大規模なグループでの進行バージョンの紹介である。
そこでは、あえてプライマリーなグループとサテライトなグループに分け、プライマリーに指名されたグループが出した案をサテライトの役割にあるグループが聞いて、批判的にそこに意見を加えるという手法が紹介されていた。
レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでは、全員ができるだけ等しく関わり考えていることをしっかりと出すという「100-100の原則」が重要視される。そのため、プライマリーやサテライトというグループを分ける考え方とは相反する部分があるように感じられる。
しかし、ワークショップの流れをよく見ていくと、プライマリー・グループはアドバイスや提案をするものの、このプライマリーの最大の役割はサテライト・グループのためにクライアントから「考えるための良質な情報」を導き出すことにある。それはサテライト・グループにとっても全体にとってもより良い結果をもたらす「インプット」になる。
改めて言えば、参加者の「考えの表明」の段階で「100-100の原則」が大事となる。その前の「より良いインプット」をどう参加者に与えるかという観点からみれば、このようなプライマリー・グループを置くという考え方を、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドのワークショップにも組み入れることを検討することは悪くない。
むしろ、ワークショップのデザイナーとしては参加者の経験やそれを補うインプット不足で、ワークで作られるモデルが物足りないものに留まることのリスクがあるかどうかを考えることを忘れないようにしておきたい。