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リベレーティング・ストラクチャーとレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッド(15)賢い群衆

 今回取り上げるのは「賢い群衆(Wise Cloud)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。

 リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はまず、こちらのNoteを読んでいただければと思います。

この方法で何ができるか?

 「賢い群衆」は、少人数でも大人数でも、瞬時に助け合いを実現することができます。4、5人の小さなグループでも、同時に多くの小さなグループでも、大きな集まりでは100人以上のグループでも、「賢い群衆」コンサルティングを設定することができます。クライアントと呼ばれる個人は、他のグループのメンバー全員から短時間に助けを求めることができます。個々の相談は、グループ全員の専門知識と創意工夫を同時に活用します。個人はより明確になり、自己修正と自己理解の能力を高めることができます。「賢い群衆」は、人に助けを求める力を養います。探究心やコンサルティング能力が深まります。サポートし合える関係が急速に構築されます。「賢い群衆」のセッションでは、個別相談が連続して行われるため、参加者はクライアントとしてだけでなく、コンサルタントとしても何度も恩恵を受けることができ、学習が蓄積されます。「賢い群衆」のコンサルテーションは、透明性を簡単に実現することができます。集団で、専門家を凌駕することができるのです。

”LS Menu 13. Wise Cloud”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 お互いに相談し、相談される中で解決策を見つけ、それと同時に助け合う関係性をワークの中で育んでいくという内容は、「トロイカ・コンサルティング」というLSにも含まれている。以下の記事で紹介しているので比較しながら見ていくとより理解が深まるだろう。

5つの構造要素

1.始め方
・各参加者に、自分の番が来たら「クライアント」になってもらい、自分の課題を簡単に説明し、他の人に助けを求めてもらうことを説明する。
・参加者が「クライアント」以外の立場になった場合には、「クライアント」が自分の課題を明確にし、アドバイスや提案をするのを助ける「コンサルタント」のグループとして行動するよう頼む。

2.空間の作り方と必要な道具
・小さなテーブルの周りに4〜5脚の椅子を並べたグループ、またはテーブルのない円形グループ。
・参加者がメモを取るための紙。

3.参加の仕方
・全員が参加する。
・誰もが、助けを求めたり、助けを得るための時間を等しく持つことができる。
・誰もが等しく助けを提供する機会がある。

4.グループ編成の方法
・4~5人のグループ。
・機能、レベル、分野を超えた混合グループが理想的です。
・相談者(クライアント)は、相談内容が明確になった後、コンサルタントに背を向ける。

5.ステップと時間配分
・相談者(クライアント)には、1人15分の時間が与えられます。その内訳は次のとおりです。
 ー クライアントが課題と要望を提示する。2分
 ー コンサルタントは、クライアントに明確な質問をする。3分
 ー クライアントはコンサルタントに背を向け、メモを取る準備をする。
 ー クライアントが背を向けている間に、コンサルタントがチームとして質問し、アドバイスや提言を行う。8分
 ー クライアントがコンサルタントにフィードバックをする。2分

”LS Menu 13. Wise Cloud”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 この「賢い群衆」では1グループは4〜5人である。上述した「トロイカ・コンサルティング」では2人なので、それよりわずかに人数が増えたLSである。進め方は「トロイカ・コンサルティング」とほぼ変わらない(ように私には思われる)。

 ちなみに、この「賢い群衆」の「5つの構造要素」について、後の追記事項の中の「繰り返し方とバリエーション」の中に大人数バージョンが紹介されている。対比しやすくなるように、先に紹介しておきたい。

大人数のための「賢い群衆」

1.始め方
・「クライアント」となる参加者には、自分の課題、進行中の仕事の状況、求めているアドバイスやヘルプについて説明してもらうよう頼む。
・「クライアント」にならない他の参加者には、「クライアント」の課題を明確にし、アドバイスや提案を行う「コンサルティング・チーム」のグループとして活動してもらう。

2.空間の作り方と必要な道具
・部屋の前方にクライアント用の椅子1脚。
・どうしても必要な場合のみ、スクリーンとプロジェクター。
・部屋の前方にあるプライマリー・コンサルタント用の椅子を3脚。
・サテライト・コンサルティングチーム(訳者註:クライアントとプライマリー・コンサルティングチーム以外の参加者は全てサテライト・コンサルティングチームに回る)のために、小さなテーブルの周りに5~8脚の椅子を並べるか、テーブルのない円形に並べる。
・参加者がメモを取るための紙。
・各テーブルには、推奨事項を書き込むためのインデックスカード。
・クライアントと主要コンサルタント・チーム用のマイク。

3.参加の仕方
・クライアントには、発表と支援を求めるための一定の時間が設けられます。
・プライマリー・コンサルティングチームは、支援を提供するための一定の時間が設けられます。
・サテライト・コンサルティングチームのメンバーは、残りの時間、平等にヘルプを提供する機会が設けられます。

4.グループ編成の方法
・クライアントは個人。
・2~3人のプライマリー・コンサルタントからなる1つのグループ。
・5~7人のサテライト・グループ(コンサルティング・チーム)。
・役割、階層、行動原則、が混在したグループが理想的です。

5.ステップと時間配分
・コンサルティングを依頼する人(クライアント)には、1人あたり1時間の時間が与えられます。時間の内訳は次のとおりです。
 ー クライアントがコンサルティングの質問を提示し、プライマリー・コンサルティングチームを形成する2〜4人の人物を選ぶ。プライマリー・コンサルタントは移動し、部屋の前方にある椅子に座る。2分
 ー クライアントが課題を提示し、支援を要請する。10分
 ー プライマリー・コンサルタントが、参加者全員に聞こえるようにマイクを使い、クライアントに明確な質問を投げかける。10分
 ー クライアントは、プライマリーコンサルタントに背を向け、メモを取る準備をする。
 ー クライアントが背を向けている間に、プライマリーコンサルタントが共同でアドバイスや提案を行い、チームとして活動する。マイクを使用し、その場にいる全員が議論に参加できるようにする。7分
 ー 各サテライト・コンサルティングチームは、プライマリー・コンサルティングチームの仕事を批評し、クライアントに対する独自の提言を作成する。10分
 ー サテライト・チームが作業している間、クライアントはこの10分間でプライマリー・コンサルティングチームと議論する。
 ー まず、サテライト・チームからの批評を集めるために1ラウンド行い、次に彼らの提言を集めるために2ラウンド行う。コメントや提言は1チームにつき1つだけ集め、繰り返しはしない。サテライト・チームには、クライアントへの推奨事項を7.5X12.5センチほどの大きさのカードに書いてもらうと便利です。10分
 ー クライアントがコンサルタントにフィードバックする。2分
 ー グループ全体で、ここまでのプロセスと「それが意味するものは何か」と「今からどうするか」について話し合う。5分

 注:各ステップのタイミングは、問題の複雑さやグループの規模によって調整することができますが、スケジュールを厳守し、設定した時間以上に1回の議論を長引かせないことが重要です。その代わりに、2回目のラウンドを行うことが常に望ましい。 

”LS Menu 13. Wise Cloud”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 人数が多い場合には、プライマリー・コンサルティングチームとサテライト・コンサルティング・チームに分け、クライアントとプライマリー・コンサルティングチームのやり取りを見ながら、それ以外の人々が批評するようにして「知恵」を集めるという方式が紹介されている。

 なお、最後の「ここまでのプロセスと「それが意味するものは何か」と「今からどうするか」を話し合う」段においては、「3つのW」というLSを当てはめることができる。そのLSについては以下の記事で扱っている。

実施にあたっての追記事項

 ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。

なぜ その目的なのか?
・外部の専門家に頼らず、個人と集団で作り上げたからこそ、永続的な成果を生み出すことができる。
・与える、受ける、頼むのスキルが磨かれる。
・時間のかかる遠回しなプレゼンテーションをすることなく、グループ全体の知性を引き出すことができる。
・専門分野や職能の壁を越えて、知恵と創造性を発揮することができる。
・退屈な打ち合わせや情報共有を、効果的で有用なものに置き換えることができる。
・相互支援と仲間とのつながりによって、積極的に信頼を築く。
・防御ではなく聞く練習をする。

”LS Menu 13. Wise Cloud”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 外部に頼らず自分たちで解決する可能性を大事にするというのは、このLSに限らず、多くのLSに共通する考え方である。それは自分たちの考える能力を高めると共に、自らが関わることへのコミットメントも高める効果がある。

 コツとワナ
・非常に多様な人々を招待する(専門家やリーダーだけでなく)。
・参加者に、罠にはまったときの自己批評をさせる (例:目的や問題を明確にする前に行動に移してしまう)。手助けをするときや助けを求めるときに望ましくないパターンの完全なリストは、「援助のヒューリスティックス」を参照してください。
・「いま何が起こっているのですか? あなたは起こっていることをどのように経験しているのですか?」と尋ねることによって、参加者がクライアントの直接的な経験にフォーカスし続けられるようにする。
・コンサルタントに、共感を保ちながらリスクを取るように助言する。
・クライアントにならないことを選択する参加者が出ないようにする: 誰でも少なくとも1つは課題を持っている!
・ 一回目のラウンドが弱かったら、二回目のラウンドをやってみる。
・簡単な答えのない複雑な課題を提示することをためらわないように、参加者に呼びかける。

”LS Menu 13. Wise Cloud”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 参加者の多様性があった方が考えることを刺激するということもあり、参加者の構成のところからこの「賢い群衆」の成果は左右される。

 二番目の項目に出てくる「援助のヒューリスティックス」はLSのひとつである。機会を改めて紹介したい。

 また、コンサルタントの役割を担う時の重要なポイントは、よい質問ができるということである。それをうまく担うコツの一つとして「問い」がある。ここでも、この「賢い群衆」で役立つと考えられる問いが以下のように紹介されている。

効果の高い質問
・なぜ...なぜ...なぜ...この活動はあなたにとって、また組織にとって重要なのですか?
・あなたの課題を要約するようなストーリーや重要な出来事が思い浮かびますか?
・この問題を部分的もしくは全体的に解決しているにもかかわらず、気づかれていないとことはありませんか?
・参加させる必要があるのは誰ですか?その人たちは、どのようにこの課題を見て、どのように体験するのでしょうか?
・もし、この課題に関するすべての作業が一晩で灰燼に帰したとしたら、どの部分を作り直しますか?
・これまで、どのような方法で、どのような試行的な解決手段を開発しましたか?
・すでに行った行動で、元に戻したい、やり直したいと思っていることはありますか?
・どのようなリベレーティング・ストラクチャーのメソッドが適していますか?
・次のステップに進むために、今できることは何でしょうか?

”LS Menu 13. Wise Cloud”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 上記に見られるのは、主にこれまでの取り組み(分析〜解決策)を把握することと、そのプロセスにおいて見落とされてきたかもしれない情報をうまく掘り起こすための質問である。こうした質問は、他のワークショップやコーチング等でも役に立つと思われる。

繰り返し方とバリエーション
・コンサルティングは、正直でオープンな質問だけに制限し、クライアントが個人的な明晰さを得るのを助けることに焦点を当てる。言い換えれば、推奨やアドバイス(質問として薄く覆われている)、またはいかなるスピーチも禁止する。これはQ-Stormingとも呼ばれ、クエーカー教徒の「Clearness Committee」という手法に類似している。
・7人までのグループで使用できますが、それ以上にはしない。
・「賢い群衆」の大規模バージョンは、一人が部屋全体に助けを求めることを可能にする。
・チャット機能を使って少人数の相談者の回答を共有し、その後チャットラインとホワイトボードをグループ全体に開いて追加のフィードバックを得るなど、バーチャルグループで「賢い群衆」を利用する。
・「援助のヒューリスティックス」、「HSR(Heard, Seen, Respected)」、「9つのなぜ」、「トロイカ・コンサルティング」、「私の要望(What I Need From You)」、「真価を見出すインタビュー」とつなげ、連動させる。これらのリベレーティング・ストラクチャーは助けるために効果的である様々な選択肢を提供する。

”LS Menu 13. Wise Cloud”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 第一の項目に挙げられている、Q-stormingについては、本記事の「この方法で何ができるか」のところで紹介した「トロイカ・コンサルティング」に関する記事の中でも言及したが、アイデア出しでよく使われるブレイン・ストーミングの質問に絞った手法ということまではわかっているものの、手法の体系化まで十分になされていないようである。

 その直後に出てくる「Clearness Committee」はキリスト教のプロテスタントの一派であるクエーカー教の教徒たちの間で確立された手法である。検索してみると英語ではあるが紹介PDFが見つかった(下線部にリンクが貼ってある)。これによれば、教徒同士が相手の悩みを祈りながら傾聴して解決するための取り組みであり、ここでも書かれている通り「賢い群衆」によく似ている。

 最後の項目にある「トロイカ・コンサルティング」については、すでに冒頭の「この方法で何ができるか」で記事を紹介している。

 また、「9つのなぜ」、「真価を見出すインタビュー」については以下の記事で扱っている。

 なお、「援助のヒューリスティックス」、「HSR(Heard, Seen, Respected)」、「私の要望(What I Need From You)」の3つのLSについては改めて紹介したい。

事例
・複数の施設にまたがる研究・学習グループが互いに支え合い、学び合うために。
・全国規模のフェローシップ・プログラムに参加する専門家が、アクション・ラーニング・プロジェクトの進捗状況を共有し、支援を受ける場合に。
・進捗状況の発表やレビューの代わりにする。
・合併に伴う問題を解決しようとする管理職のために。
・社会技術革新の規模を拡大しようとしている財団の助成金受領者のために。
・一人の相手との関係を改善するためのアドバイスを得たい場合に。
・営業担当者(広い地域に分散している)が、新規顧客の開拓と維持について支援を受けたい場合に。

”LS Menu 13. Wise Cloud”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 個人的な問題から、社会的で複雑な問題まで広範な問題を扱うことができるということが改めてわかる事例のリストである。
 進捗状況の発表やレビューに合わせて行うと、推進力が出るというのはなるほどと感じさせられる部分である。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係

 「トロイカ・コンサルティング」の紹介記事でも述べたが、このLSでも「背中を向ける」ということが手法として示されている。それだけ、何かを相談したり考えたりするときには、お互いの視線が強く作用するということであろう。レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの、モデルを媒介にして対話をするようにやんわりと示すことで、この視線によるプレッシャーを自然に軽減することができることの利点を改めて感じさせる。

 このLSに関する説明の中で特徴的なのが、大規模なグループでの進行バージョンの紹介である。
 そこでは、あえてプライマリーなグループとサテライトなグループに分け、プライマリーに指名されたグループが出した案をサテライトの役割にあるグループが聞いて、批判的にそこに意見を加えるという手法が紹介されていた。

 レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでは、全員ができるだけ等しく関わり考えていることをしっかりと出すという「100-100の原則」が重要視される。そのため、プライマリーやサテライトというグループを分ける考え方とは相反する部分があるように感じられる。

 しかし、ワークショップの流れをよく見ていくと、プライマリー・グループはアドバイスや提案をするものの、このプライマリーの最大の役割はサテライト・グループのためにクライアントから「考えるための良質な情報」を導き出すことにある。それはサテライト・グループにとっても全体にとってもより良い結果をもたらす「インプット」になる。

 改めて言えば、参加者の「考えの表明」の段階で「100-100の原則」が大事となる。その前の「より良いインプット」をどう参加者に与えるかという観点からみれば、このようなプライマリー・グループを置くという考え方を、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドのワークショップにも組み入れることを検討することは悪くない。

 むしろ、ワークショップのデザイナーとしては参加者の経験やそれを補うインプット不足で、ワークで作られるモデルが物足りないものに留まることのリスクがあるかどうかを考えることを忘れないようにしておきたい。

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