今回取り上げるのは「最小スペック(Min Spec)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。
リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はまず、こちらのNoteを読んでいただければと思います。
この方法で何ができるか?
「スペック(Spec)」はPCなどの機械類の規格や性能仕様を指す用語として使われることが多い。転じてこのLSでは「組織や個人が目的を達成するためにしなければならないこと・してはならないことを定めたもの」ということになる。そのような制約が多過ぎれば人は自由に動きにくくなる(何かを確実に行うために考えられうる、あらゆる制約を詰め込んだものが「最大スペック」である)が、そのようなもの全くがないとどう行動を決めていいかわからなくなる。その中間のどこかに人々が自由にかつ足並みを揃えて行動する「最小スペック」が存在する。
5つの構造要素
最初に考えられる範囲でルールを出していく「最大スペック」を作り、そこから「本当にこれがないと目的を達成できないか」を吟味してルールの数を削っていく。まず視野を広く「拡張」して、その後「縮小」するという組み合わせで覚えていけば進行も難しくなさそうだ。
実施にあたっての追記事項
ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。
「無駄をなくす」ことや「新たな挑戦を繰り返す」とはよく言われることだが、管理が厳しくなってコスト削減で何もできなくなったり、既存の業務に新たなことが重なって忙しくなりすぎて倒れてしまったりと落とし穴も多い。それらを回避するという意義もあるということである。
上記の文章の中に含まれる「シンプルなエスノグラフィー」はLSの一つである。詳しくは以下の記事で紹介している。
この「最小スペック」はKathy Eisenhardt教授の「シンプル・ルールズ」をヒントに作られたとのことである。その観点から、最後の項目で紹介されているビデオは見ておきたい。英語のビデオではあるが、Youtubeの自動翻訳機能を使えばある程度の意味はつかめると思う。
より時間や興味を持つ方は、Kathy Eisenhardt教授の研究については日本語訳されている以下の書籍を読んでおきたい。
本書では、この「最小スペック」よりもさらに踏み込み丁寧なルールの作り方についての解説がある。
将来の行動を形作るための「最小スペック」を考えるというバリエーションは興味深い。これが成立するならば、逆に、過去の習慣(成功体験につながるものでも、現在の問題へとつながるものでもいいだろう)を形作ってきた「最小スペック」を掘り起こすというバリエーションも考えられるだろう。
LSのひとつである「9つのなぜ」については以下の記事で解説している。
第3部(リベレーティング・ストラクチャーに関するページの「現場の声」という事例集)から2つのものが紹介されている。いずれも、最後のワークの締めくくりとして「最小スペック」が使われている。
このことからも、一連の取り組みの締めくくりとして「最小スペック」を活用する場合が多いことが推察される。
先程のKathy Eisenhardt教授とともに『シンプル・ルールズ』を著したのがロンドンビジネススクールのDonald Sull教授である。上記で指摘されている彼のビデオは以下から見ることができる(いくつかの配信のうちのひとつで「シンプル・ルールズ」と戦略についての概略に触れる内容になっている)。
レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係
レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドに限らず、ワークの成果をどのようにまとめていくかは、全体の効果や満足感に大きな影響を与える。
その点において、できるだけ数が少なく、覚えやすく、必須であるとわかるルールのみに絞ってまとめようという、この「最小スペック」は大いに参考になる。特にクライアントが終わった後の参加者の行動変容を強く意識している場合には、何らかの形で組み入れたいところだ。
この「最小スペック」の方法を単純にレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドに載せていくと、(1)ルールの候補を各人がブロックを使ってモデルとして考えられるだけ作ってみる(2)「本当に必要か?」を検証しつつ絞り込む、となる。
このとき(2)の絞り込みをどのように行うかが鍵になる。モデルを作るということはその人の思いがそこに込められるので、簡単に「不要」として絞り込みによって外してしまうと参加者の心が離れてしまう。
具体的にどのような方法が良いかについては検証をしていないが、一つには、各人でモデルを修正する機会をしっかり設け、「これがないと目的を達成できないか?」という問いに向かい合わせ、持ち込む前に完成度を高める方法が考えられる。
その後、それらの各人のルールを突き合わせて、3〜5個になるまで統合を行う。そのときにはルール間の関係性をテーブル上のモデルの配置を考えながら考察するランドスケープ・テクニックが役に立つだろう。
ルール間の関係性を考察することで同じ絞り込みをする場合でも参加者の納得性を高めることができるかもしれない。このとき、ファシリテーターとして議論をうまくまとめていく技量を高めておく必要があるだろう。
もうひとつは、各自のルール1つをつくり、それらを共有して一覧表をつくるところまででとどめ、実際にそのルールに従って動いてもらって検証をしてもらう期間を設けることが考えられる。実際に役に立つルールを皆で作り上げていく過程を時間をかけて共有することで、他の人のルールにもコミットできる気持ちを作り上げるという方法である。
この「最小スペック」の活用に限らず、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの効果を、これまで以上に明確に普段の生活に結びつけていくための工夫は今後もつづlていきたい。