見出し画像

THE GAZETTEを読む(6) 2013年 7月号 破綻の瀬戸際から立ち直る

 本記事は、ラスムセン・コンサルティングが発行しているメールマガジンTHE GAZETTEのバックナンバーを、日本語訳をしながら、コメントを加えながら読んでいくシリーズの一つである。レゴ®︎シリアスプレイ®︎のファシリテーター・トレーニング修了者向けに書いている。
 この記事の引用元原文はこちらのPDFから読むことができる。

この号では、レゴ社の歴史についてレビューする記事が中心となっている。

 1990年代後半、レゴ社は野心的な成長戦略をとりました。しかし、2003年になると、レゴは苦境に立たされます。未開拓のブルーオーシャン市場を開拓し、破壊的なイノベーションを生み出し、開発プロセスを「群衆の知恵」に開放するという従来のイノベーションへのアプローチが、同社を経営破綻の瀬戸際に追いやったのです。
 まもなく発売される『Brick by Brick』(David Robertson著)は、家族経営の企業が失敗の危機から立ち直り、世界で最も成功した革新的な企業のひとつとなったレゴ社の物語を描いています。レゴ社のストーリーは、継続的なイノベーションの文化を創造することに関心のあるすべての人にとって、重要な示唆を与えてくれるでしょう。

THE GAZETTE 2013年7月号をDeepLで翻訳・筆者が修正。

 ここで出てくる『Brick by Brick』は『レゴはなぜ世界で愛され続けているのか』という題名で日本語訳にもなっている。本書で「7つの真理」としてあげられている事項は、それぞれは取り立てて目新しいものではない(上記にある「従来のイノベーションへのアプローチ」と変わらない)。大変なのは、それをそれまでそれを重要視してこなかった組織に馴染ませ、機能するように仕組み化したり、組織の文化とすることである。したがって、どのようにして7つものポイントをレゴ社が組織に組み込んでいったかという点で読むのがよいだろう。

 なお、著者のDavid Robertsonについては、今号の横のコラムに、本の写真とともに次のように紹介されている。

David Robertsonはウォートン・スクールのProfessor of Practiceで、イノベーションと製品開発について教えている。LEGO SERIOUS PLAYのファシリテーターとしてトレーニングを受け、学生たちにこの手法を活用している。

THE GAZETTE 2013年7月号をDeepLで翻訳・筆者が修正。

 ウォートン・スクールは、アメリカのペンシルヴァニア大学の名門ビジネス・スクールである。Professor of Practiceは直訳すれば「実践教員」であるが、意味合いとしては「実務に役立つことを主眼に教授する役割」ということだろう。「実務家教員」という訳語もあるようだ。文科省も日本の大学に「実務家教員」を置くことを推奨しているが、同じような狙いといえよう。

レゴの基本に立ち返る

 2004年初頭、前社長のKjeld Kirk Kristiansenが、再び会社の経営を指揮するようになりました。重複を減らし、不採算の製品ラインを閉鎖し、管理職に目標に対する責任を持たせることで、クリスチャンセンとそのリーダーシップチームは2年間で6億ドルの営業コストを削減しました。
 レゴのコアバリューに立ち返り、クリスチャンセンと彼のリーダーシップチームは、ブロックを積み上げるように会社を再建し、持続可能なリーダーシップのツールと実践のシステムを進化させ、組織を徐々に軌道に戻しました。 

THE GAZETTE 2013年7月号をDeepLで翻訳・筆者が修正。

 イノベーションの手法よりも、その会社のプロダクトもしくはサービスのコア・バリューに立ち戻り、それを見失わないことが重要という指摘は、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドのワークショップを展開するとき、ワークショップを設計するときも参考になるだろう。
 また、「ブロックを積み上げるように」というメタファーにも注目したい。一つ一つが相互に「カチッ」とハマる気持ちよさがブロックの特徴で、そのつながりが創造的な結果につながる。会社経営も同じように、一つ一つの取り組みがしっかりと噛み合っていることを確認しながら会社全体を作り上げていく丁寧さが重要である。これはレゴ®︎シリアスプレイ®︎のワークショップ設計と実践でも全く同じだといえよう。「ブロックを積み上げるように」は、短いけれど身の引き締まる表現である。

 このセクションには、次の画像とともに「コミック版でLEGOの復活を読もう!」とある。リンクが切れていてその先が読めないのが残念だ。

コミック版の一コマと思われる画像

イノベーションのプロセスを管理する

 レゴ社は、多様なデザイナー集団の創造性を、彼らを束縛することなく活用する方法を模索し、イノベーション活動を戦略的に調整する新しい仕組みを開発しました。これを主導したのが、部門横断的なチームであるエグゼクティブ・イノベーション・ガバナンス・グループです。レゴ社の経営陣は、新製品だけでなく、価格設定計画、コミュニティーの構築、ビジネスプロセス、市場投入チャネルなど、強力なビジネスドライバーとなり得るイノベーションを幅広く捉えています。
 同社は、あらゆる分野のイノベーションに対する責任を4つのグループに分散させ、それぞれに異なる革新性を期待しています。
 レゴ・グループは、イノベーションを管理する方法を改革することで、世界で最も成功した企業のひとつになりました。過去5年間で、売上は年平均24%、利益は年平均40%成長しています。

THE GAZETTE 2013年7月号をDeepLで翻訳・筆者が修正。

 レゴという事業の特性として、レゴのキットのデザイナーが力をもちやすいという特徴がある。実際に2003年頃の経営危機までは、デザイナーは自分達が良いと思うものだけを企画し提案しており、顧客の視点や、ビジネスという観点を欠いていたと言われる。その部分をまさに「ブロックを積み上げるように」整えたことによってレゴ社の商品は劇的に生き返ったということである。
 そこではデザイナーの活動をビジネスの要素で制限することではなく、組織横断的に別の部署のメンバーと合同でのミーティングを定期的に行うことにより、デザイナーの仕事がより優れたものになるような、彼らを導く情報が入る関係性を作ったということである。

 この記事の横のコラムには以下のような画像とハーバード・ビジネスレビューの論文へのリンクがつけられている。そのリンクはこの記事執筆時点では切れているのが残念だ。

囲みの中の文章に書かれていること「経営陣のイノベーション統括グループ レゴ社のイノベーションの目標と戦略を決定し、新商品のポートフォリオ(製品ラインアップの配分)を定義し、力の注ぎ方を調整する。そうすることで、社員が相互に力を高めあい、権限を委譲し、資源を分かち合い、結果を適正に評価するようになり、全ての活動が会社全体の戦略を実現するようにする」

 この改革の中で作り出されたレゴ社の持続的イノベーションと成長の物語は今でも続いている。その様子を知るために以下の本を読むことを強くお勧めしたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?