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リベレーティング・ストラクチャーとレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッド(11)3つのW〜何があった?、それが何なの?、今からどうする?

 今回取り上げるのは「3つのW〜何があった?、それが何なの?、今からどうする?」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。

 リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はこちらのNoteを読んでいただければと思います。

この方法で何ができるか?

 非生産的な対立を避けながら、理解を深め、協調的な行動を促すような方法で、グループが共有する経験について考察するのを支援することができます。すべての人の声に耳を傾けると同時に、洞察に至るためのふるい落としを行い、新しい方向性を形作ることができるのです。段階的に進めることで、「何が起こったか」という事実の収集から、「それが何なの」でその事実の意味を理解し、「今からどうする」でその後に続く行動を論理的に考えるということが可能になるのです。このように段階を踏んでいくことで、何をすべきかについての意見の相違を助長する誤解のほとんどを取り除くことができます。ほらね!

”LS Menu 9. What, So What, Now What? W³”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 このLSは3つの段階を踏んで情報を処理していくことを全員で行うことで、無駄な意見の相違や混乱を避けるためのものである。

5つの構造要素

1.始め方
・何らかの体験を共有した後に、「何が起こったのですか。どんなことに気づきましたか。どんな事実や観察結果が際立っていましたか。」 と尋ねる。そして、目立った観察事実がすべて収集された後、「それは何を意味しているのでしょうか」と尋ねる。「なぜそれが重要なのですか。どんなパターンや結論が出てきましたか。どんな仮説が立てられますか」そして、意味付けが終わった後、「どのような行動が意味あるものになるのか」 と問いかけます。
2.空間の作り方と必要な道具
・グループ数には制限はありません。
・5~7人の小グループが座れる椅子。小テーブルの有無はご判断で。
・リストを作成するための紙。
・大人数の場合、答えを集めるためにフリップチャートが必要な場合があります。
・トーキング・オブジェクトの有無はご判断で。
3.参加の仕方
・全員が参加します。
・各テーブルで、全員が平等に貢献する機会を持つ。
・小グループでは、一人が進行役を務め、全員が一度に一つの質問に取り組むようにすると、全員の意見が反映されやすくなります。
4.グループ編成の方法
・個人
・5〜7人のグループ
・全体グループ
・グループには、チームまたは混合グループを設定することができます。
5.ステップと時間配分
・必要に応じて、ステップの順序を説明し、「推論のはしご」を示す。グループが10〜12人以下の場合は、全体をグループとして報告会を行う。そうでない場合は、グループを小グループに分ける。
・第1段階として「何が起こったか」について、参加者は一人で1分間考える。その後、小グループで2〜7分、意見交換する。合計3〜8分。
・小グループから出た重要な事実を全体で共有し、収集しておく。2〜3分。
・必要に応じて、参加者に事実が「それに何の意味があるのか」の質問に含まれるかどうかを考え直させる。
・第2段階として「なぜそれが重要なのか」について、参加者は一人で1分間考える。どのようなパターンや結論が出てきたか、について、その後、小グループで2~7分、意見交換する。合計3〜8分。
・小グループの中で出た顕著なパターン、仮説、結論をグループ全体で共有し、収集しておく。2〜5分
・第3段階として 「今からどうする」について、参加者は一人で1分間考える。「さあ、どうする?」について、その後、小グループで2〜7分、意見交換する。合計3〜8分。
・アクションをグループ全体で共有し、議論し、収集する。さらなる気づきを得る。2〜10分。

”LS Menu 9. What, So What, Now What? W³”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 ここでオプションとされる「トーキング・オブジェクト」は、グループ内での発言を円滑にするための道具で、クッションボールや毛糸玉など手渡せるものを使うことが多い。
 この「トーキング・オブジェクト」を手に持っている人のみがグループの中で発言できるというルールが添えられる。これを使うと特定の人たち同士だけでパスはしにくいので、全員の発言量が等しくなるようになる。
 このLSについては、以下のような追加の解説が書かれている。

 トーキング・オブジェクトは、あなたがある人から別の人に渡すことができるものであれば、何でもかまいません。あなたがそれを持っているとき、あなたは話すように誘われます。持っていないときは、聞くように誘われます。 自然物なら手に取ると楽しいものがいいです。遊び心のあるオブジェは、とてもシリアスなトピックの雰囲気を明るくしてくれることもあります。いざというときは、本やペンが使えます。

”LS Menu 9. What, So What, Now What? W³”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

推論の梯子(はしご)

 もうひとつ、「推論の梯子(はしご)」という言葉が出てくる。これは、このLSの理論的な背景を与えるものである。簡単にいえば、人々ははしごを登るように、最も下の段の「事実」から「意味付け」、それが「仮説」となりそれに基づいた「結論」がでて、「信念」が生まれ最上段の「行動」へと移るということである。
 「はしご」というメタファーを使っているのは、登ってしまった段は足元の下に位置付けられ、意識下に沈んで省みることをなかなかしなくなるということだろう。もうひとつは、足元に十分で広い土台をつくって積み上げるのではなく、はしごのような細く狭い足場だけで効率よく駆け上がるような危うい思考を取りやすいということである。

 この「推論のはしご」の失敗を避けるために、全員で「これでいいのか」と確認しながら広い土台を積み上げていこうというのが、このLSの核となる狙いと言えるだろう。

 また、これに関して以下のような追加の解説がページに書かれている。

 クリス・アージリスは『Reasoning, Learning and Action: Individual and Organizational』 (San Francisco: Jossey-Bass, 1982)の中で「推論の階梯」を紹介している。ピーター・センゲは、『The Fifth Discipline(邦訳名:学習する組織)』 (New York: Doubleday, 1990)でそれを普及させた。

”LS Menu 9. What, So What, Now What? W³”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 クリス・アージリスは、組織心理学とくに組織における学習の研究で名高い。ここで紹介されている本は未邦訳である。

 それを受け継ぎ広く「推論の梯子」を広めたのはピーター・センゲらの『フィールドブック 学習する組織「5つの能力」』である。それは以下から手に入る。

 こちらは現在、絶版の上、かなりページ数がある。しかも本編の『学習する組織』(こちらもかなりのボリューム。もちろんそれだけの価値がある書籍だ)を知っていることがある程度前提となっているので、なかなか敷居は高いだろう。

 そこで、「推論のはしご」について興味のある方は、その入門解説書である以下の本の方から入るのがよいだろう(本編よりもわかりやすく解説が書かれている)。

 なお、本編の『学習する組織』の邦訳では「推論のはしご」という言葉は1回しか出てこない。その代わり「抽象化の飛躍」という名称で、学習する組織の5つのディシプリンのひとつである「メンタル・モデル」との関連で書かれている。

実施にあたっての追記事項

 ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。

なぜ その目的なのか?
・人々がどのように異なる視点、アイデア、行動や決断の根拠を生み出すかについて、共通の理解を得る。
・共有された経験から学習が生み出されることを確認する:フィードバックがないということは学習が起こっていないということである。
・同じ間違いや機能不全を何度も繰り返さないようにする。
・事実やその解釈の不明確さに基づく行動についての議論を避ける。
・早まって行動に移し、人を置き去りにする傾向をなくす。
・すべてのデータと観察結果を最初にテーブルの上に出し、全員が同じ場所からスタートできるようにする。
・展開されていることの歴史と新しさを尊重する。
・共有する経験の各ステップにおいて、共に学ぶことで信頼を築き、恐怖心を軽減する。
・複雑な課題を理解し、行動を起こす。
・積極的な探求を促すため、質問が答えよりも強力であることを体験する。

”LS Menu 9. What, So What, Now What? W³”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 新たな経験から学習しないということは、適応できないということである。しかし、誤った推論による学習で逆に失敗する可能性がある。それを避けるには全員で一歩一歩確認して積み上げるしかない、ということである。

コツとワナ
・練習、練習、練習...をしていくと、 「何があった?」「それが何なの?」「今からどうする?」が呼吸するように感じられるようになる。
・各質問に対する適切な答えを小グループで確認し(何が各カテゴリーに当てはまるか混乱するグループもある)、必要であればグループ全体で答えの例を共有する。
・感情の表現は「何」として観察できることに留意する(例:人々が「幸せ」であることを示すのではなく、「多くの人々が笑顔で笑っていた」という事実)。
・全体で共有する場合は、重要な答えを一度に一つずつ集める。 各グループそれぞれから同時に答えを集めようとしたり、一つのグループから長い繰り返しのリストを招いたりしないこと。 意味のあるユニークな答えを探し出す。
・誰かが「推論の梯子」を駆け上ったとき、素早く明確に介入する。
・「それが何なの?」の段階をあまりに早く飛び越えてしまわないようにする。 観察結果を直接パターンに結びつけることは、人々にとって難しいことです。 これは、3つの「何」の中で最も難しいものです。 「推論の梯子」を使って、観察から行動までの論理的なステップを「梯子を上る」ように思い出してください。
・率直なフィードバックに感謝し、それを認識する。
・報告会のための時間を確保するようにする。
・どんなに手短にしようとしても、すべての終わりに3つのWに沿って報告することを当たり前にする。

”LS Menu 9. What, So What, Now What? W³”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 とにかく、急いで結論を出そうとする人間の習性をどう抑え込むのかを常に考えながら、気を払いながら進めることが重要であるということだ。

繰り返し方とバリエーション
・各ラウンドでトーキングオブジェクトを使用する。 W3の生産性を緩やかにし、深化させる。
・「何があった?」の質問では、発生した項目をカテゴリー別にふるいにかけることに時間をかける。 例えば、根拠ある事実(例:グループの全員が話した)、感情(例:喜びを感じた、グループの人々が笑顔で笑っていた、絶望を乗り越えて希望に満ちた気持ちになった)。
・「それが何なの?」「今からどうする?」の間に「もし〜だったら?」の質問を追加する。
・「それが何なの?」 という質問に対して、出てきた項目をパターン、仮説・仮説からの結論・信念に分類する。
・少人数の有志を募り、部屋全体の前で報告会を行う。 強い反応を示す人、多様な役割を持つ人に参加してもらうとよい。

”LS Menu 9. What, So What, Now What? W³”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 「先を急ぐ」ことを防ぐために、トーキング・オブジェクトを活用するという点は他の場面でも使える考え方だ。

 また、人数が多い場合には「推論の梯子」を全員でどう登るかについてのモデルケースを示すことも有効だと思われる。特に感情や推論が交錯する性格の強いワークであれば、他の場面でも持っておきたい考え方である。

 事例
・集会の前の出来事の歴史と意味を引き出すために、3つのWで会議を始める。
・複雑な問題や議論を呼ぶようなトピックを扱うあらゆる会議の報告をまとめるために。
・強い意見を持つ人や、会話を支配してしまう人がいるグループに。
・異なる背景を持つ人の意見に耳を傾けることが苦手な人がいるグループに。
・リーダーが人々に何を考え、どんな結論を出し、どんな行動を取るべきか(しばしば無意識に)「指示」する代わりに使用する。
・すべての会議の最後に行う標準的な訓練として。
・衝撃的な出来事の直後。
・学問に関わる場でのフィードバックに(例:生徒から教師へのフィードバック)。Barish Gollandに大いに感謝しています。

”LS Menu 9. What, So What, Now What? W³”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 偏った推測が飛び交いやすい衝撃的な出来事が起こった場において、もしくは強い意見をもつ人が場を支配しやすい組織において、というのは異なりつつも同じような問題を抱えるという点が非常に興味深い。強い意見を持つことは、諸刃の剣であるということをよくよく分かっておくことが重要である(ただ、弱い意見しかなければそれはそれで行動力が弱まり失敗するリスクがある)。

 なお、最後に名前の出てくるBarish Gollandという人物については、この事例を寄せた教育関係者ではないかと推測する。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係

 まず、組織の中の強い意見を持った人や全員の意見がなかなか反映されない組織に向けて使われる、そして先行きが見通せず困っている組織を支援するという点において、このLSとレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドはほぼ同じ問題意識を共有しているといえる。

 レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでは、問いの出し方にもよるが、事実と感情、推論や信念や抱えている意図が全て混ぜ込まれて表現される(基本的に分類せよとはしない)。そのこと自体は欠点ではなくむしろ利点である。ただし、自分自身の考えにそれらが混ざり込み、それこそブロックのように組み合わさっていることに気づくことができているということが前提だ。

 モデルが作られ一通り語られた後に、改めて、ここの3Wにしたがって、事実としての「何があった」、意味づけとしての「それで何なのか」、そこから先の「今からどうする」で整理しなおしたり、ストーリーをまとめなおしたりすることは意味のあることになりそうだ。

 また、このLSでは、それを一人で行うのでは偏りがでるということなので、集団や組織全体でまとめることを推奨している。レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドに即して言えば、集団や組織の方向性をしっかりと定めるには共有モデルを作ることに重なる。そのときにも、3つのWに沿って整理し、共有モデルを作るという方法はありそうだ。

 加えてこのLSでは、「それで何なのか」と「今からどうする」の間に「もし〜なら」を入れて検討するというバリエーションが紹介されていたが、これはレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドにおける「プレイ」の考え方に沿っている。
 レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドのワークにおいても、これからのアクションを考えるときに「事実」や「意味」から生まれた「仮説」を意識し、その仮説が変わったらということを少しでもいいので考えさせた上で、取るべきアクションを検討するという「プレイ」の要素を強めることで、よりワークが充実したものできることを意識しておきたい。

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