今回取り上げるのは「3つのW〜何があった?、それが何なの?、今からどうする?」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。
リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はこちらのNoteを読んでいただければと思います。
この方法で何ができるか?
このLSは3つの段階を踏んで情報を処理していくことを全員で行うことで、無駄な意見の相違や混乱を避けるためのものである。
5つの構造要素
ここでオプションとされる「トーキング・オブジェクト」は、グループ内での発言を円滑にするための道具で、クッションボールや毛糸玉など手渡せるものを使うことが多い。
この「トーキング・オブジェクト」を手に持っている人のみがグループの中で発言できるというルールが添えられる。これを使うと特定の人たち同士だけでパスはしにくいので、全員の発言量が等しくなるようになる。
このLSについては、以下のような追加の解説が書かれている。
推論の梯子(はしご)
もうひとつ、「推論の梯子(はしご)」という言葉が出てくる。これは、このLSの理論的な背景を与えるものである。簡単にいえば、人々ははしごを登るように、最も下の段の「事実」から「意味付け」、それが「仮説」となりそれに基づいた「結論」がでて、「信念」が生まれ最上段の「行動」へと移るということである。
「はしご」というメタファーを使っているのは、登ってしまった段は足元の下に位置付けられ、意識下に沈んで省みることをなかなかしなくなるということだろう。もうひとつは、足元に十分で広い土台をつくって積み上げるのではなく、はしごのような細く狭い足場だけで効率よく駆け上がるような危うい思考を取りやすいということである。
この「推論のはしご」の失敗を避けるために、全員で「これでいいのか」と確認しながら広い土台を積み上げていこうというのが、このLSの核となる狙いと言えるだろう。
また、これに関して以下のような追加の解説がページに書かれている。
クリス・アージリスは、組織心理学とくに組織における学習の研究で名高い。ここで紹介されている本は未邦訳である。
それを受け継ぎ広く「推論の梯子」を広めたのはピーター・センゲらの『フィールドブック 学習する組織「5つの能力」』である。それは以下から手に入る。
こちらは現在、絶版の上、かなりページ数がある。しかも本編の『学習する組織』(こちらもかなりのボリューム。もちろんそれだけの価値がある書籍だ)を知っていることがある程度前提となっているので、なかなか敷居は高いだろう。
そこで、「推論のはしご」について興味のある方は、その入門解説書である以下の本の方から入るのがよいだろう(本編よりもわかりやすく解説が書かれている)。
なお、本編の『学習する組織』の邦訳では「推論のはしご」という言葉は1回しか出てこない。その代わり「抽象化の飛躍」という名称で、学習する組織の5つのディシプリンのひとつである「メンタル・モデル」との関連で書かれている。
実施にあたっての追記事項
ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。
新たな経験から学習しないということは、適応できないということである。しかし、誤った推論による学習で逆に失敗する可能性がある。それを避けるには全員で一歩一歩確認して積み上げるしかない、ということである。
とにかく、急いで結論を出そうとする人間の習性をどう抑え込むのかを常に考えながら、気を払いながら進めることが重要であるということだ。
「先を急ぐ」ことを防ぐために、トーキング・オブジェクトを活用するという点は他の場面でも使える考え方だ。
また、人数が多い場合には「推論の梯子」を全員でどう登るかについてのモデルケースを示すことも有効だと思われる。特に感情や推論が交錯する性格の強いワークであれば、他の場面でも持っておきたい考え方である。
偏った推測が飛び交いやすい衝撃的な出来事が起こった場において、もしくは強い意見をもつ人が場を支配しやすい組織において、というのは異なりつつも同じような問題を抱えるという点が非常に興味深い。強い意見を持つことは、諸刃の剣であるということをよくよく分かっておくことが重要である(ただ、弱い意見しかなければそれはそれで行動力が弱まり失敗するリスクがある)。
なお、最後に名前の出てくるBarish Gollandという人物については、この事例を寄せた教育関係者ではないかと推測する。
レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係
まず、組織の中の強い意見を持った人や全員の意見がなかなか反映されない組織に向けて使われる、そして先行きが見通せず困っている組織を支援するという点において、このLSとレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドはほぼ同じ問題意識を共有しているといえる。
レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでは、問いの出し方にもよるが、事実と感情、推論や信念や抱えている意図が全て混ぜ込まれて表現される(基本的に分類せよとはしない)。そのこと自体は欠点ではなくむしろ利点である。ただし、自分自身の考えにそれらが混ざり込み、それこそブロックのように組み合わさっていることに気づくことができているということが前提だ。
モデルが作られ一通り語られた後に、改めて、ここの3Wにしたがって、事実としての「何があった」、意味づけとしての「それで何なのか」、そこから先の「今からどうする」で整理しなおしたり、ストーリーをまとめなおしたりすることは意味のあることになりそうだ。
また、このLSでは、それを一人で行うのでは偏りがでるということなので、集団や組織全体でまとめることを推奨している。レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドに即して言えば、集団や組織の方向性をしっかりと定めるには共有モデルを作ることに重なる。そのときにも、3つのWに沿って整理し、共有モデルを作るという方法はありそうだ。
加えてこのLSでは、「それで何なのか」と「今からどうする」の間に「もし〜なら」を入れて検討するというバリエーションが紹介されていたが、これはレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドにおける「プレイ」の考え方に沿っている。
レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドのワークにおいても、これからのアクションを考えるときに「事実」や「意味」から生まれた「仮説」を意識し、その仮説が変わったらということを少しでもいいので考えさせた上で、取るべきアクションを検討するという「プレイ」の要素を強めることで、よりワークが充実したものできることを意識しておきたい。