今回取り上げるのは「シンプルなエスノグラフィー(Simple Ethnography)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。
リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はまず、こちらのNoteを読んでいただければと思います。
エスノグラフィーは「民族誌」「民族誌学」などと訳される。基本的には、対象となる集団や社会に属する人々の生活の中に入り込んで観察をして、その詳細を記述する。そこから、その集団・社会のもつ独自の文化や思考の癖や行動様式を理解しようと試みる。
この方法で何ができるか?
相手の見ている世界を理解することは存外難しい。皆、自分の視点をもって世界を見ているからだ。そのことに自覚的になり、相手の見ている世界を理解しようと努める中で、それまで気づかなかったことに気づけるようになり、それが問題解決の突破口になることがある。それをもたらす機会をつくるLSである。
5つの構造要素
各ステップの時間に大きな幅がある。対象によって最低限必要な時間が変わるということである。さらに、中核グループのメンバーが満足するまで繰り返すともあるので、根気強さが求められるLSともいえる。
文中に出てくる「1-2-4-All」はLSの一つである。それについては以下のNoteにまとめている。
実施にあたっての追記事項
ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。
三つめの項目はこのLSの本質に迫る記述である。観察する外部の人が対象について簡単に理解できないのはもちろんのこと、観察される対象者本人も(習慣化されすぎてしまって)気づいていないことがある。したがって、「シンプルなインタビュー」ではなく「シンプルなエスノグラフィー」なのである。インタビューは観察の中で気づいたことがでた後に深掘りのために行うというのがポイントだ。
ちなみにここで出てくる「フォーカスグループ」は市場調査などをするときに、1人ではなく複数名の想定顧客を呼び出し、司会のもとでプロトタイプの商品などを見せながら顧客視点の理解を深めていく手法である。想定顧客の反応を観察し、その観察に基づいて必要に応じて話を聞いていくというように進められる。
「見落としがちなこと」から洞察を得るので、目立たないものや逆に例外として対象外にしてしまいそうなものにも注意を払うということが言葉を変えて繰り返し強調されている。
このLSの紹介ページには、可能性がありそうなことをさらに掘り下げるためのインタビューに使えそうな問いの一覧がある。以下にそれについても紹介する。
これらの質問を手札に持った状態でインタビューできると確かに効率性が高まりそうだ。
「ヒーローズ・ジャーニー」は他のLSの記事でも何度か紹介したが、ジョセフ・キャンベル氏が世界中の神話を調査する中で浮かび上がってきた成長や問題を克服する物語の雛形である。興味のある方は以下の書籍をお勧めする。
病院での事例が多く並んでいるが、医療に関わらずあらゆる場所で使うことができるLSであるといえる。特に「エスノグラフィー」で検索をかけるとビジネスへの応用を示唆するページが数多くヒットする。
レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係
「繰り返し方とバリエーション」の項目に、「参加者に課題の模型を描いたり作ったりしてもらう(非言語的手法が生み出す深い洞察に驚かされる準備をしておくこと)。」という記述がある。ここが、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの直接的な接点となる。
加えて、「なぜ その目的なのか?」のなかで、「観察する外部の人が対象について簡単に理解できないのはもちろんのこと、観察される対象者本人も(習慣化されすぎてしまって)気づいていないことがある。」ということも書いた。本人が気づかない考え方についても、ファシリテーターがうまくリードすることによって、レゴ®︎ブロックのモデルによってそれを顕在化できる。
「ファシリテーターがうまくリードする」と軽く書いたが、それを実現させるのは決して簡単ではない。調査の対象者は自ら調査されることは望んでいない。むしろ警戒さえするかもしれない。そのような参加者の気持ちをうまく整え、フローに入れてワークへと夢中にさせること、作った作品に対して適切な問いを投げることなどができて初めて効果的なワークが展開できる。
そうした普段からの研鑽があってこその「エスノグラフィー」とレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの連結なのである。