今回取り上げるのは「シフト&シェア」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。
リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はまず、こちらのNoteを読んでいただければと思います。
この方法で何ができるか?
革新的なアイデアを多くの人に伝えたい。そのとき、大人数を一堂に集めて話を聞かせるのか、それとも小グループに分けて少しずつ話を聞かせるのかでは全く効果が異なるとこのLSは主張している。もちろんこのLSが支持するのは後者である。
しかも後者の場合には、「創造的なアイデアのマッシュアップ」の機会までもたらされるという。「マッシュアップ」とは異なる2つのものを編集や加工をして新たなものを作り出すような行為のことである。
5つの構造要素
同じアイデア共有の方法としての「オープン・スペース・テクノロジー(OST)」や「ワールドカフェ」に似ているようにも感じるが、この「シフト&シェア」が異なるのは、プレゼンターのいる「ステーション」をめぐるグループメンバーは固定させて動くということである。
これによって、プレゼンター全員のアイデアを全て確実に聞いて回ることができる。また、ステーションによって人が集まり過ぎたり少なすぎることを避けることができる利点もある。
実施にあたっての追記事項
ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。
このLSにおいては、単なるアイデアの普及という点の先に「実践共同体(community of practice)」を育むということを狙いとして秘めていることが上記の項目から見え隠れする。
つまり、誰か一握りの人たちがイノベーションを起こすのではなく、一人一人が革新の一端を担い、現実を変えていくという考え方がある。
この「実践共同体」というコンセプトに基づいて社会の諸活動を見ていくと、いわゆる先進的な会社以外にも多くの場所でイノベーションや絶え間ない改善が起こっていることがわかる。それは、学術的にもまとめられ認められている。
以下の本の著者であるエティエンヌ・ウェンガーがその権威のひとりである。
少人数に聴衆を分けたとしても、退屈なプレゼンテーションはやはり退屈になってしまう可能性がある。プレゼンターには、短い時間でいかに聴衆を引き込むかについて十分な準備をしてもらう必要がある。
そのために、プレセンターに対して具体的にどのような準備(事前指導とか資料とか)をすればよいのかについて、これ以上の言及はない。このLSを使う側としては、その点についても知識や経験が求められそうである。
冒頭に出てくる「3つのW〜何があった?、それが何なの?、今からどうする?」については以下の記事で扱っている。これを使うことでプレゼンを全て聞いた後の振り返りが、マッシュアップ的に行われ、結果としてより生産性と創造性の高いものになりそうだ。
中段に紹介されるPechaKucha Nightは、2003年に東京で始まった、若いクリエイターたちが相互にネットワーキングをしていくための取り組みということである。日本では20秒で20枚の画像によるプレゼンテーションということで、7分弱というテンポの良い内容になっている。
この取り組みは、今では世界中に広がっているということでその様子は以下のページから見ることができる。
「即興劇プロトタイピング」については以下の記事で紹介している。
「オープン・スペース・テクノロジー」は数あるLSのひとつであるが、またの機会に紹介したい。
事例紹介を見ると、これまであまり交流がなかった人たちが今後一緒に活動していくにあたって導入的に実施するというのが良さそうだ。
レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係
より強力なアイデアを持つ人々を「プレゼンター」として先にプレゼンテーションの準備をさせるという考え方は、特定の人々のアイデアをより多めに話し合いに持ち込むという点において、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドには相容れない部分がある。
ただし、プレゼンを聞いたのちに参加者から何を考えたか、これからどうしたらいいかについて取りまとめるには、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを使ったワークショップは有効であろう。実際に、何らかの話を聞いた後や、体験型ゲームなどをした後に行われる事例は多い。
もう一つ、プレゼンテーションの中で自分のアイデアをより短い時間で効果的に知ってもらうために、事前にアイデアをブロックで表現しておき、それを使ってプレゼンテーションすることが考えられる。これは海外のミーティングで事例紹介された方法である。
この方法が通常のプレゼンテーションよりも優れているか(何を上手く伝えられて何を上手く伝えられないか)については、私自身も仮説はある(発表者の感情や中心的な価値の伝達は優位性があるが、具体的な計画や諸事への対応は苦手)が、検証をしていないので今後、そのような点について検証を行いながら深めていくことが必要だと考えている。