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リベレーティング・ストラクチャーとレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッド(13)シフト&シェア

 今回取り上げるのは「シフト&シェア」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。

 リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はまず、こちらのNoteを読んでいただければと思います。

この方法で何ができるか?

 グループ、組織、コミュニティの中に隠されているかもしれないいくつかの技術革新や便利なプログラムを迅速かつ効果的に共有することができます。シフト& シェアは、大人数での長いプレゼンテーションを廃止し、複数の小グループに同時に行われるいくつかの簡潔な説明に置き換えます。数人の個人が「ステーション」を設置し、そこで他の人に価値があるかもしれない自分のイノベーションのエッセンスを10分間で共有します。小グループは、あるイノベーターのステーションから別のステーションへと移動するため、そのサイズによって、人々はイノベーターと簡単につながることができます。新しいアイデアがどこでどのように使われているのか、また自分たちの状況にどのように適応できるのか、すぐに知ることができるのです。イノベーターはその繰り返しから学び、グループは創造的なアイデアのマッシュアップの機会を容易に発見することができます。

”LS Menu 11. Shift & Share”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 革新的なアイデアを多くの人に伝えたい。そのとき、大人数を一堂に集めて話を聞かせるのか、それとも小グループに分けて少しずつ話を聞かせるのかでは全く効果が異なるとこのLSは主張している。もちろんこのLSが支持するのは後者である。
 しかも後者の場合には、「創造的なアイデアのマッシュアップ」の機会までもたらされるという。「マッシュアップ」とは異なる2つのものを編集や加工をして新たなものを作り出すような行為のことである。

5つの構造要素

1.始め方
・参加者に複数のイノベーターを紹介し、彼らが行っている何か新しいことや革新的なことを発表してもらい、それが参加者にとって価値あるものになるようにする。

2.空間の作り方と必要な道具
・5~8つの「ステーション」が互いに干渉し合わないよう十分に離れて設置できる広いスペース。
・各ステーションの小グループに対応できる適切な数の椅子。
・発表者が必要とするディスプレイのためのスペース。

3.参加の仕方
・発表者であるグループの数名が作品を発表する。
・小グループの他の全員に、参加と貢献の機会が均等に与えられる。

4.グループ編成の方法
・発表者は各自のステーションを設置する。
・グループ全体が発表者の数と同じ数の小グループに分かれる。例えば、発表者が7人なら小グループは7つ。
・グループは、すべてのイノベーション・ステーションを回る間、一緒にいる。

5.ステップと時間配分
・プロセスを説明する:小グループがステーションからステーションへ移動し、10分間のプレゼンテーションと簡単な質疑応答の時間があることを説明する。事前に説明されていない場合は、イノベーション・ステーションの3~7人のプレゼンターを決める(その場で志願する人も可)。発表者の人数と同じ数の小グループを編成する。5分
・各小グループは異なるステーションに移動し、プレゼンターがセッションを行う(最大7回まで繰り返す)。各ステーションでセッションを行う。 10分
・参加者からの質問、各ステーションでフィードバック 2分
・小グループは次のステーションへ移動する。移動1回につき1分
・グループがすべてのステーションを訪問するまで繰り返す。
・6つのステーションを訪問した場合の合計時間は、約90分です。

”LS Menu 11. Shift & Share”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 同じアイデア共有の方法としての「オープン・スペース・テクノロジー(OST)」や「ワールドカフェ」に似ているようにも感じるが、この「シフト&シェア」が異なるのは、プレゼンターのいる「ステーション」をめぐるグループメンバーは固定させて動くということである。
 これによって、プレゼンター全員のアイデアを全て確実に聞いて回ることができる。また、ステーションによって人が集まり過ぎたり少なすぎることを避けることができる利点もある。

実施にあたっての追記事項

 ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。

なぜ その目的なのか?
・アイデアやイノベーションを迅速に共有する。
・自分がイノベーションを起こしている、あるいは起こす可能性があることを認識できるようになる。
・メンバー間の信頼と実践共同体(community of practice)を構築する。
・正式な技術的ヒエラルキーが、いかに最前線のイノベーターの隠れた貢献を見えなくしているかを明らかにする。
・参加者にイノベーションの展望を素早く伝える。
・ボトムアップやフリンジインのイノベーションを探求し、明らかにする。
・切磋琢磨、マッシュアップ、コラボレーションを活性化する。

”LS Menu 11. Shift & Share”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 このLSにおいては、単なるアイデアの普及という点の先に「実践共同体(community of practice)」を育むということを狙いとして秘めていることが上記の項目から見え隠れする。
 つまり、誰か一握りの人たちがイノベーションを起こすのではなく、一人一人が革新の一端を担い、現実を変えていくという考え方がある。
 この「実践共同体」というコンセプトに基づいて社会の諸活動を見ていくと、いわゆる先進的な会社以外にも多くの場所でイノベーションや絶え間ない改善が起こっていることがわかる。それは、学術的にもまとめられ認められている。
 以下の本の著者であるエティエンヌ・ウェンガーがその権威のひとりである。

 コツとワナ
・インフォーマルなソーシャルネットワークを深く掘り下げることでプレゼンターを選ぶ(このアプローチではプレゼンテーションスキルやカリスマ性はコンテンツよりも重要視されない)。
・スケジュールを厳守する:大きな音やハンドベルで次の放送局へのシフトを知らせる。
・可能であれば、プレゼンターを準備する。10分という時間は、彼らが普段使っている時間よりもずっと短い。
・発表者には、行動変容の小さな例の理解から、価値観の幅広い変化や資源配分の変化、あるいはその両方へと聴衆を誘うようなストーリーを語ってもらう。
・発表者には、参加者が見たり触れたりできるような例や物でプレゼンテーションを補足するよう求める。
・プレゼンターには、聴衆の想像力を刺激するようなエンターテイメント性を持たせる。
・参加者が興味を持てば、より深く理解するためにフォローアップすると信じる。

”LS Menu 11. Shift & Share”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 少人数に聴衆を分けたとしても、退屈なプレゼンテーションはやはり退屈になってしまう可能性がある。プレゼンターには、短い時間でいかに聴衆を引き込むかについて十分な準備をしてもらう必要がある。

 そのために、プレセンターに対して具体的にどのような準備(事前指導とか資料とか)をすればよいのかについて、これ以上の言及はない。このLSを使う側としては、その点についても知識や経験が求められそうである。

繰り返し方とバリエーション
・グループごとに「3つのW〜何があった?、それが何なの?、今からどうする?」を使い、体験したことを報告させる。
・PechaKucha Nightでのプレゼンテーションのように、各ステーションにスナックと飲み物を追加する。
・プレゼンテーションの時間を8分に短縮する。
・グループを決めず、「オープン・スペース・テクノロジー(個人が自分の足で、一番気になるところ、学びたいところへ行く)」でマッシュアップする。
・第2ラウンドを行う場合、いくつかのステーションを即興のプレゼンターのために空けておく。
・一連のチャットルームを作成し、バーチャル・グループで使用する。グループは、参加したいセッションをいくつか選ぶ。
・「即興プロトタイピング」と組み合わせて、発表されたアイデアのバリエーションを生成する。

”LS Menu 11. Shift & Share”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 冒頭に出てくる「3つのW〜何があった?、それが何なの?、今からどうする?」については以下の記事で扱っている。これを使うことでプレゼンを全て聞いた後の振り返りが、マッシュアップ的に行われ、結果としてより生産性と創造性の高いものになりそうだ。

 中段に紹介されるPechaKucha Nightは、2003年に東京で始まった、若いクリエイターたちが相互にネットワーキングをしていくための取り組みということである。日本では20秒で20枚の画像によるプレゼンテーションということで、7分弱というテンポの良い内容になっている。
 この取り組みは、今では世界中に広がっているということでその様子は以下のページから見ることができる。

 「即興劇プロトタイピング」については以下の記事で紹介している。

 「オープン・スペース・テクノロジー」は数あるLSのひとつであるが、またの機会に紹介したい。

事例
・研究コンソーシアムの新メンバーに、コミュニティ全体のイノベーションの深さと幅を紹介する。
・カンファレンスで、分野内のプレゼンターと商業ベンダーを混ぜて、技術の応用を紹介する。
・新しく統合された組織の2つの「側面」のプログラムや人々を紹介する。

”LS Menu 11. Shift & Share”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 事例紹介を見ると、これまであまり交流がなかった人たちが今後一緒に活動していくにあたって導入的に実施するというのが良さそうだ。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係

 より強力なアイデアを持つ人々を「プレゼンター」として先にプレゼンテーションの準備をさせるという考え方は、特定の人々のアイデアをより多めに話し合いに持ち込むという点において、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドには相容れない部分がある。

 ただし、プレゼンを聞いたのちに参加者から何を考えたか、これからどうしたらいいかについて取りまとめるには、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを使ったワークショップは有効であろう。実際に、何らかの話を聞いた後や、体験型ゲームなどをした後に行われる事例は多い。

 もう一つ、プレゼンテーションの中で自分のアイデアをより短い時間で効果的に知ってもらうために、事前にアイデアをブロックで表現しておき、それを使ってプレゼンテーションすることが考えられる。これは海外のミーティングで事例紹介された方法である。
 この方法が通常のプレゼンテーションよりも優れているか(何を上手く伝えられて何を上手く伝えられないか)については、私自身も仮説はある(発表者の感情や中心的な価値の伝達は優位性があるが、具体的な計画や諸事への対応は苦手)が、検証をしていないので今後、そのような点について検証を行いながら深めていくことが必要だと考えている。

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