今回取り上げるのは「援助のヒューリスティクス(Helping Heuristics)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。
リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はまず、こちらのNoteを読んでいただければと思います。
この方法で何ができるか?
上記の文章のキーワードである「ヒューリスティックス」は心理学やそれを取り込んだ行動経済学でよく使われている用語である。複雑な計算や熟考を経ずに、手短に答えを得ることができる経験則や判断方法のことである。
手短に答えを得る分、短絡的になり合理的でない行動につながってしまうときがある。そのネガティブな面に注目して語られることが多いが、実際に私たちはかなりの程度ヒューリスティックスを経験から構築し、それを使うことによって、一つ一つ判断に思い悩むこと少なく快適に生きることができている。この傾向を「人間は認知的倹約家である」といったように表現することもある。
ヒューリスティックスの負の側面や、その研究から何を心に留めておかねばならないかを解説しているものとしては、以下の本の評価が高い(著者のダニエル・カーネマンは2002年のノーベル経済学賞の受賞者である)。
このLSでは、こうしたヒューリスティックスのネガティブな面ではなく、かなりの場面で役にたつヒューリスティクスもあるのだとポジティブな面に焦点を当て、効果を上げやすい4つの応答パターンの修得を狙いとするものである。
5つの構造要素
4つの応答パターンのうち3つは他のLSとも密接に関わっているものである。このうち2つ目の「真価を見出すインタビュー」と3つ目の「トロイカ・コンサルティング」については別のNoteで詳しく紹介している。
1つめの「聞く・ 見る・尊ぶ (HSR)」もLSであるが、またの機会に紹介したい。
4つ目の「マインドフルネス」については、本当はトレーニングを経ないとなかなか掴みにくいといえる。基本は「今、起こっていること(話されていること)」に全ての注意を向け、それを受け入れることから見えてくることを知ることである。そのような精神状態に持っていくために、呼吸の方法とか、その先の瞑想などの技術があるが、そもそも「マインドフルネス」というものがどういうものかイメージを持つことから入るのが良いと思う。
そのために以下の本が参考になる。
実施にあたっての追記事項
ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。
援助をする側と援助を求める側の双方に失敗を導く態度があるという指摘は興味深い。「コーチ」だけではなく「クライアント」にもトレーニングが必要だということだ。
信頼関係を気づくための、基本エチケットは参加者に最初にしっかりと伝えることがスムーズに進めるためのポイントになりそうだ。
また、4つのパターンを全てを学ぶことは大事であるが、参加者本位の場にするために参加者が焦点を当てたい応答パターンを選ばせるという工夫も参考になる。
自分が普段どうであるかということを最初に認識させるというのは、他のワークでもワークの効果を上げる一つの手法である(その認識で気持ちが暗くなりすぎると逆効果になることもあるが)。
「トロイカ・コンサルティング」については「5つの構造要素」のセクションでNote記事を紹介した。
同じようにここに出てくる「賢い群衆」「即興劇プロトタイピング」も以下のNoteで解説している。
「私があなたに望むもの」と「シンプル・エスノグラフィー」もLSの一つであるが、機会を改めて紹介したい。
最後の項目の「楽しい」パターンとして「中立(ゼロ反応)、無視や割り込みによるブロッキング」が入っている。通常のやり取りの中だとこのような反応は気分を害するが、「わざと」これを参加者同士でさせるとなぜか面白い。加えて、援助のヒューリスティックスの良さも対比で理解しやすくなる。
改めて事例でもわかるように、この「援助のヒューリスティックス」というLSは身近な問題を題材にするが、そこで持ち込まれる問題の解決は焦点ではない。参加者が良い結果になる応答パターンを理解し習得することに焦点を当てている。
レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係
レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの中にも「エチケット」というものがあり、参加者がモデルや他の参加者にどのような態度で接しなければいけないかについての基本ルールがある。
ただし、コミュニケーションの取り方の練習というものは存在していないので、このようなワークの生産性を上げる応答パターンを意識させることはもっと積極的に取り組む価値がある。
改めて4つのパターンを見てみよう。
これらはレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを使ったワークの時のどの場面に最もよく重なるだろうか。
(1)は、参加者からモデル説明のときに求められる態度である。
(2)は、他の参加者やファシリテーターがモデルに対する追加の問いを発するときに求められる態度である。
(3)は、他の参加者が自分のモデルを見て感じたこと、考えたことについて発言したとき、それを自分がどう受け止めるかに関する態度である。
(4)は、ワークが進む中でお互いのやりとりが重ねられるなかで「前のめり」になっていくときに求められる態度である。自分と他者とのモデルを持ち寄ってつくる統合モデルやお互いのモデルの相互配置を考えるランドスケープ(風景)作りのときにこのような応答パターンに持っていきたい。
(1)〜(3)については、ファシリテーター次第で、基礎演習の中で参加者にコミュニケーションのあり方に意識を向けさせ、習得・強化することができそうだ。
(4)については、ワークの開始序盤の部分で参加者同士の応答を観察することを通じて、参加者が「お互いに意見を受け入れる」態度を保てるようにファシリテーターが支援するべきであろう。その後、ワーク内でのコミュニケーションのあり方について少し話し合う時間をとることで、日常生活や仕事の中でも応用できるように経験からの学習へと導けるかと思われる。
こうした応答パターンは、ブロックで作ったモデルへと参加者が視線と気持ちを集中してもらうことでさらにやりやすくなるだろう。
レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドに関わらず、何らかのワークを担うファシリテーターとして応答パターンについての参加者の学習も意識することで、ワークの効果をさらに積み上げて素晴らしい場を提供していきたいものである。