シンプル・ガイド・プリンシプル(SGP)に関して改めて考える
レゴシリアスプレイメソッドの体系の中に「シンプル・ガイド・プリンシプル」(SGP)というものがある。
実はこのコンセプトについて、何がコンセプトの元になっているのかわからず、メソッド開発者のロバート・ラスムセン氏にも聞いてみたことがあるのだが、明確に何らかの研究文献をもとにして生まれたものでもないらしい。
そのため、私自身はこのSGPを考えることから最近、距離を置くようにしていた。最近、たまたまハーバード・ビジネス・レビューの2024年6月号を見ていた時に「困難な決断を下す時こそプリンシプルに従いなさい」という論文が目に飛び込んできた。著者はジャック・フックス(ブラックホーン・ベンチャーズ・運営パートナー)、スコット・サンデル(NEA 会長兼CEO)、ビクラム・シャンカー(スタンフォード大学経営大学院生)である。
この論文で語られる「プリンシプル」はロバート・ラスムセンがレゴシリアスプレイメソッドの体系の中に位置付けたSGPそのものではないが、重なる部分もあるのではないかと感じている。
まず、この論文におけるプリンシプルは「企業が難しい判断を迫られた時、より良い判断を下す助けになるもの」とされている。また、戦略遂行をどのようにすべきかの「案内板」であり「覚えやすいルール」でもあるとも説明されている。またプリンシプルは、組織で複数抱えることもできるという。
ここからわかるのは、プリンシプルには、
・前提として何らかの戦略が存在している
・戦略に沿った判断と行動を促す
という特徴があることがわかる。
伝統的に、戦略と行動の間にあるのは「計画」や「目的」である。
「計画」や「目的」は、行動の内容まで示されることもあれば、成果指標という形で「行動の結果」のみが示される場合もある(売上10%アップなど)。
「計画」や「目的」は行動の内容を示していれば、受け取った側は従いやすいが、計画や目的(およびその大元にある戦略)には何らかの「状況の想定」があり、その状況の想定と現実の状況との食い違いが大きくなった時に困ることになる。
そこで、状況が変化しても戦略を遂行できるものとして「目的」や「計画」ではなく、「プリンシプル」が必要だという話になってくる。
ファイル共有サービスBOXの「ユーザーがどこにいようと仕事をするのに必要なすべてのファイルと情報にアクセスできる」や、タブローソフトウェアの「新製品は、自分たちで使いたくなるまで発売しません」や、フェイスブックの「素早く動き、破壊せよ」は、想定する状況が変化しても行動に移せるプリンシプルの例として挙げられている。
そして、論文では「良いプリンシプルが持つ条件」が挙げられている。それは、以下のようなものである。
1.独自性
2.議論の余地がある
3.他部署にも転用可能である
4.会社と不可分
5.会社の姿勢を示している
こうした良いプリンシプルをどうすれば策定できるのであろうか。それについて、論文では以下のようなことを挙げている。
A.自社の差別化要因を出発点にする
B.過去の大きな転換点を振り返る
C.社員を巻き込んで策定する
ここで見えてくるのは、その会社や組織の「独自性」が基軸になるということである。「独自性」は内在的なものと外在的なものがあるだろう。そのため、内部の強みや特徴と外部の環境要因の両方を総合的に考える必要がある。
また、この独自性がどのような状況においても発揮されるとしたら、それはどのような仕組みが裏にあって可能であるかを考えることがポイントになりそうだ。強みや特徴の柔軟性や頑強性をシステム的な観点から検証することになるだろう。
社員を巻き込んで策定するというのは、いろいろな視点からプリンシパルを考え、吟味するために多様な人々がいた方が良いという部分と、次に述べるプリンシプルの浸透のために都合が良いということの両面がありそうだ。
プリンシプルを浸透させるには以下のことが必要だと論文でも後半に指摘している。
①自社のバリューとプリンシプルを書き出し社員に配る
②目標、主要指標、予算はバリューとプリンシプルに沿うようにする
③意思決定の際にプリンシプルを使う
④意思決定の理由の説明のときにプリンシプルを使う
レゴシリアスプレイメソッドを使ったプリンシプルの探求ワークとは
ここまで考えてみて、レゴシリアスプレイメソッドでプリンシプルを策定するためにポイントとなるのは以下の3つではないかと考えている。。
・自社の強みや特徴を明確にする
・環境要因による変化の可能性を明確にする
・強みや特徴が環境変化の下でも対応できることを検証する
とくに、自社の強みや特徴を固定的なものとして表現するのではなく、環境変化に対応できる柔軟なシステム(機構)として表現することが重要ではないかと考える。
そのため、強みや特徴を複数表現することだけでなく、それらの発揮のさせ方という「バリュー」として表現して組み込み、それらをコネクションで連動性も表現することがワークショップ・プログラムにするときの軸になりそうである。
そうなると、そのシステムモデルがどう作用するのかを言語化したものが「プリンシプル」としてふさわしい表現になるとなるだろう。