『なぜ人と組織は変われないのか』をレゴシリアスプレイの文脈で読む(3) 第2章 問題をあぶり出す免疫マップ
ハーバード大学教育学大学院のロバート・キーガン教授とリサ・ラスコウ・レイヒー女史との共著による『なぜ人と組織は買われないのか』(英治出版 2013年)を読み、レゴシリアスプレイメソッドとの関係を考えていく。
第2章では、人々の知性の発達段階を上げていくためのツールである「免疫マップ」が紹介される。
免疫マップの構成要素
「免疫マップ」は私たちの思考に潜む問題をX線のように浮かび上がらせる。特に問題を構成する要素の中で浮かび上がらせるのは以下の4つである。
(1)改善目標
(2)阻害行動
(3)裏の目標
(4)強力な固定観念
この4項目の基本的な関係として、まず、「改善目標」の達成を妨げているのが「阻害行動」であるということがある。そして、阻害行動を生み出す目標が「裏の目標」となっている。このとき、阻害行動は改善目標を妨げるように本人が意図的に行動しているというよりも、裏の目標を達成するために阻害行動は起こっている。
改善目標がなかなか達成できず、その達成のための行動も不安定であるのに対して、裏の目標とそれを達成する阻害行動の組み合わせは非常に安定している。それはその基盤に「強力な固定観念」があるからだということである。
この固定観念は、自分と世界を見るときのレンズのような存在でもあるので、周りで起こっていること(何に注目するのか)も固定観念にしたがって理解される。
また、著者たちが「免疫」という言葉を使っているのは、その仕組みが決して悪いものではなく、むしろ細菌やウィルスなどから人体を守ることから、健康を保つために必要な仕組みである、という意味合いを込めるためである。
この「免疫マップ」の免疫が人々から何を守っているのかというと、著者たちによれば、それは心の中の「不安」に対してであるという。この「不安」は改善目標を達成するための行動に伴って、意図せず生まれてくる(と想像してしまう)のである。
ここで、免疫マップには感情の要素も深く関わっていることも重要なポイントである。
言い換えれば、行動の側面(裏の目標を追求する)、感情の側面(不安に対処する)、認識の側面(固定観念を通して)の3つの側面から、免疫は機能するため、(改善目標を含む)変化に対して非常に強い抵抗を見せるのである。
また、免疫マップがどのような内容になるかについては、大きく知性の発達段階によって異なり、さらに個人の置かれている状況によって異なるという。まずは、知性の発達段階を意識して、その人がどのあたりの位置にいるかを理解できるようになることが重要そうだ。
改善の基本方針〜適度な葛藤
このような強力な免疫をどう乗り越え、より高い知性の発達段階に上がっていくかについて、この第2章では、漠然としたキーワードのみが示される。それは「適度な葛藤」というものである。
すでに改善したい目標があるので、その重要性やそれを求める気持ちを確かめて高めつつ、「阻害行動」「裏の目標」「強力な固定概念」からなる免疫の仕組みをはっきりと見せて、そのジレンマを参加者に感じさせることが基本ということになる。
レゴシリアスプレイメソッドとの関連性
知性の発達を促進する免疫マップは、X線のようなもので、人々の思考の骨格を浮かび上がらせるというものであった。
レゴシリアスプレイメソッドも私たちの考えを適度な複雑さで可視化することに特徴がある(ファシリテーションが失敗すると単純すぎるものがでてくるが)。
さらに不安や脅威の感覚のような感情にまつわる部分も表現してもらいやすい。
加えて複数の要因が絡む「システム」も表現してもらうことができる。
こうした条件を考えても、レゴシリアスプレイメソッドを活用することとの親和性は低くはない。
そうなると、ワークショップを行うとなると、免疫マップを炙り出すためにファシリテーターが参加者にどのような問いを投げていくかということになる。それについては、第3章以降の読み進めのポイントになるだろう。
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