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『日本の医療の不都合な真実』コロナ禍で見えた「世界レベルの医療」の裏側 (森田洋之著)

在宅介護にかかわり、病院、複数の介護施設や訪問看護などにお世話になった経験がある。そしてかつて調剤薬局に勤務していた経験も私は持っている。

利用者のため、患者のための介護や医療に、妙な事象があることは気が付いていた。検査をすればするほど儲かる病院、薬を出庫すればするほど、つまり処方箋を多くさばけば儲かる薬局。
介護度も高いほどサービスを利用しやすい。施設側も点数が入る。そして介護度がよくなるとお金がかかる(社会保障費は抑えられるけど)。

アンサングシンデレラでの名文句「手を動かす!」が出来高報酬に結び付くこと。対人に時間をかけることが非効率だと非難される現状。
誰のための何なのでしょうか。

『日本の医療の不都合な真実』コロナ禍で見えた「世界最高レベルの医療」の裏側 森田洋之著

を読了した。
今年の3月ころからのマスコミ発信、ワイドショーのコメントはいちはやく何かの情報を得ることだと思っていた人は多くいただろうと思う。しかし「ほんとうにそうなのか」という目で見ていた人はそんなにいなかったのではないかと思う。

森田氏は各種データを引用して事実を明文化され、一部しか見ないのではなくバランスよく全体を見ることに重点をおいている。
そして我々が分析することのできない事実も書かれていて、それらはすべてデータと根拠に基づいているので説得性がある。根拠のないワイドショーのコメンテーターよりずっと信憑性がある。

そして「ほぼ間違いなく人はみな死ぬ」という当たり前の事実を意識した思考を導いてくれる。
コロナで命を落とすことは悪なのか、ということを私たちも考えてみるといいのかもしれない。

現在の医療介護の在り方の一部の疑義を明確にしていて、今後はプライマリケアを重視していくべきだ、と言い、近隣の開業医がかかりつけになって訪問診療をするシステムにしていくことを推進する。患者に寄り添う医療のことだ。

私たちは現状がかわらないのであれば、自分がより賢い選択をして、何をしてほしいのかを提案できるようにならないといい医療介護を受けられない気がする。

また、ひとつだけすっきりしない点があり、これについては森田氏にお聞きして心温まる返信を頂戴したところだ。

私自身、4年半にわたって酸素療法の介護度5の義父を在宅介護で家族で支えてきて、これは森田氏の言われるプライマリケアを実行した格好だ。
これが確かに理想の形であることは私もよくわかる。だから家族で支えた。
しかし終わってからの脱力感、と大きな疲弊は二度と味わいたくないと正直思った。なにが足りなかったのだろう。

森田氏は「ご家族が負担に感じられていたということを、多分在宅医療も介護も聞き出せていなかったのでしょうね。本来はそこにこそ寄り添うべきところです(後略)」と書いてくださった。今のレベルではなかなかそこまで行かないと。

つまり理想の医療介護を実践することは家族に大きな負担がのしかかる。だから敬遠されるのだろう。

多分、自分を含め多くの人に「人に寄り添う介護、医療」という意識がないのだろうと思う。そして介護医療は「生活を支えるものだ」という意識改革を我々はしないといけないように思える。

『不都合な事実』はなるほどと思いましたが、この不都合なところを知って医療を受けるのと知らないで受けるのとでは、自分が幸せになれるかなれないかの岐路になることは間違いないと思います。

さっそくに重版が決まったとのこと、おめでとうございます。より多くの人に読んでほしいと私も思いました。

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