
短短編:aとbは交わるようで交わらなかった
その日、aとbが道路ですれ違った。
しかし、その動線が交わることはなく、何事も起こらなかった。
《a side》
朝早く目が覚めたので、昨日買ったばかりのコーヒーをドリップして煎れてみた。量がよく分からず濃いめに出来てしまった…けど牛乳を足したらものすごく美味しかった。初めてお店でコーヒー豆を粉にしてもらって、帰り道YouTubeでドリップの方法をおさらいした。こんな朝にちょうどいい優雅な作業、絶対に相性のいいクッキーも買ってある。先月買ったインテリアの雑誌をやっと読める。
あれ、時計が止まってる…。
出発まであと10分しか無いし、まだ顔も洗っていない。とにかく急いで顔と歯だけはキレイにしよう。スーツは決まってるから着るだけだ、まだ余裕がある。
あー、耳に水が入った…こんな時に。
今日は余裕があると思ったけど、全然そんな事はなかった。今日は午後から打ち合わせだ、まとめた資料を確認しなきゃ。
《b side》
いつも通りギリギリに起きて、とりあえずパンを焼いて何もつけずに食べた。昨日お風呂に入ったからもうこのままでいいや。服だけは昨日用意しておいた、早く着て駅に向かおう。
毎日同じ道、見飽きない街並み、今日は空気が澄んでいて光がきれい。古いアパートに植物や何かの影がくっきり落ちる、時間が無いから写真を撮りたくなるのをグッと堪える。コーヒー屋さんの焙煎の香り、良い香りの度を通り越して、いつも火事かと思う。もくもくと、窓から煙も出てきていた。
交差点の角にいるスーツの人、微妙なところに立ってる、車が来たら危ないんじゃないかな。
あれ、あの人耳になんかついてる。
わざとじゃないよね、言ってあげた方が良いのかな…
「耳に綿棒ささってますよ」って。
fin
あとがき
このお話しは、半分ノンフィクションです。
実在のおじさんを元にお話しをつくりました(表紙は昔々描いた覚書の絵です)。あの日のおじさんの一日は不明ですが、見かけた日を再現してみました。未だに前回と今回のおじさん以上に面白いおじさんに出会えていないです。面白過ぎたので、noteで共有出来たら楽しいなと思いました。ここまで読んでくださり、ありがとうございます!とっても嬉しいです!
▲ショートショートという言葉が長いので、“短短編”と言っています。
▼前回のおじさんの話し▼
▼他のおはなし▼
▪️良かったらこちらも▪️