美童ぬ旅路
首里の城下町、松川にある小さな診療所。
卒業式を終えた私は、今日、ここから旅立つ。
医師である父はタマキのおばぁのゆんたく相手に忙しい。
看護婦の母の算盤を弾く音がパチパチと響く。
「じゃぁ、行ってこようね。」
いつも通り、家を出た。
屋上のシーサーが私に微笑んでくれる。
庭先のデイゴは蕾が膨らんで、もうすぐ花が咲きそうだ。
安里駅の手前にある栄町市場に、おばぁの惣菜店がある。
「おばぁ、身体に気をつけてよ。」
「ちゃーがんじゅうよー。心配いらんさー。」
もっと強くなりたい。優しくなりたい。あなたのように。
東へ向かう飛行機の窓から、夕陽に染まる山原の森が小さくなっていくのが見える。
おばぁがくれた紅型の包みを開くと、じゅうしぃのおにぎりとコロッと丸いサーターアンダギーが顔を出した。私の大好物だ。
その片隅には1万円札が小さく畳まれていた。
まだほんのり温かいじゅうしぃを頬張る。
外を眺めるフリをして、溢れる涙をごまかした。
♪美童ぬ旅路 作詞:ビセカツ 作曲:與那覇徹
華ぬあるうちに 旅立ちやさしが 行ち先や知らん 闇ぬ小道
(若く美しい時に夢を求め旅へ出たが どう生きたらいいか目的が定まらない)
華ぬ真盛いぬ 美童ぬ旅路 道輝らす太陽ぬ いちんあらば
(美しく咲き誇る若い娘の旅路を いつまでも太陽が照らしてください)
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