ひとつを分け合う生き方
ひとつのものを、分け合って食べること。
NHK連続テレビ小説『虎に翼』には、とても心に響くシーンがふたつありました。
ひとつは、河原での思わぬピクニックとなる寅子(伊藤沙莉)と優三(仲野太賀)とのシーン。「嫌なことがあったら、またこうして二人で隠れて美味しいもの食べましょ。」と優三。その手にあるのは、家族みんなで食べるには数が足りない手羽元(!?)です。正しくあろうとする寅子にとっては、それを家族に隠れて食することに抵抗があったかもしれません。それでも優三は、「ずーっと正しい人のまんまだと、疲れちゃうから…。せめて僕の前では 肩の荷を下ろしてさ。」とうながします。笑顔でこっそりと食し合うふたりに大切な大切な時間が流れ、心が結び合っていきます。
もうひとつは、食卓での寅子と優未(寅子と優三の娘)とのシーン。二人で生きていくことを決意した寅子でしたが、立て込む仕事のため、夕食の準備が間に合いません。そこで、「今日の夕飯、このまえいただいたお菓子にしちゃおうか?」と提案します。大喜びする優未。ちゃぶ台には、クッキーやカステラ、そしてなぜか漬物がならびます。あってはいけない(!?)メニューを笑顔で食し合うふたり。大切な大切な時間が流れます。このシーンは、前述の優三とのシーンと重なり合います。
実は、よく似たシーンが、私自身にもあります。回転寿司店でのシーンです。息子や娘がまだ幼かった頃には、回転寿司店での食事となれば、それはそれはにぎやかな食事タイムでした。好きなお皿をそれぞれに取って食します。ところが、子らの手が離れ、私と妻とで訪れるとなると、少しようすが違います。二貫がのった皿を一皿とって、二貫を一つずつ分け合って食べるのがお決まりとなるのです。「んっ!これはおいしいね。」、子らなしのおだやかな時間が流れる「分けっこタイム」となるのです。
さて、未来のためにできること。そのひとつは、こんな何気ないシーンの中にある「分け合うこと」「分かち合うこと」ではないかと考えます。私には、分け合うときの心の中には、人としてとてもうつくしいものが息づいているように思えます。そして、それは、未来を豊かなものにする根っこなのだと考えます。
ちなみに、冷蔵庫に残っていたいただきものの巨峰を、妻が二つの皿につぶを分けてお風呂上りに出してくれました。妻のお皿の方が一粒多かったことを、私は見逃しませんでした。
(本文999字)
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