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「かまどベンチ」の絆

災害が起こると、学校が避難所になることがあります。
近年、テレビの画面越しにその避難所でのようすを目の当たりにすることが、たびたびありました。
そんな時、被災されたみなさんが力を合わせておられる映像の中に、小学生や中学生が「人の役に立とう」と力を発揮する姿をとらえることができると、とてもとてもうれしくなります。物資の運搬や避難所のそうじ、「かべ新聞」の発行など、できることに自ら取り組もうとする子らの姿です。「よし、がんばれ!」の声援をテレビ画面にかけてしまいます。

私が校長を務めていた中学校では、『地域とともに前進し、「ふるさと」を愛する心を育てる学校づくり』を学校の経営方針のひとつとして掲げ、子らによるボランティア活動を推進していました。地域や人の役に立つことにすすんで取り組める中学生を育てる活動です。

その取り組みのひとつとして12月に取り組んだのが、「かまどベンチによる炊き出しボランティア」です。災害時を想定し、校庭にある「かまどベンチ」2基を使って、子らが「すいとん」の炊き出しをし、近隣にお住まいの方などに実際に食べていただく。子らにとっては、いざという時に備えた「災害ボランティア」のプチ体験と言えます。

この活動の「キモ」は、次の3つです。

・地域からボランティアの依頼・要請が学校にあって参加を募るものではなく、子らが自らアクションを起こす活動であること
・校庭に設置されている「かまどベンチ」を実際に使用する実践的な活動であること
・近隣の方との災害時の「協働」「支えあい」の訓練、リハーサルなる活動であること

「災害時にこそ、なおさら人の役に立ちたい、地域を支えたい」という強い思いから自らこの取り組みに参加する中学生が、20名。「自由意志」による参加です。

実は、この取り組みは、開催日の10日前から始まりました。
近隣にお住まいの方のご自宅を子らが訪問し、玄関先で案内のちらしとともに言葉かけをしました。50軒近い訪問です。初対面の相手に戸惑いながらも、すすんでコミュニケーションをとります。これもまたかけがえのない経験です。
このちらしくばりの後、地域からうれしいリアクションがありました。近隣の7軒の方より、すいとんの具材として、大根・白菜・人参・里芋・キャベツ・さつまいも・手づくり味噌をいただくことができたのです。どっさりと集まった「すいとん」の具材。子らは大喜びです。がぜん勢いづきます。災害時にも、きっとこうした形で地域の方が力添えをしてくださるのだということを思い描くことができました。
「地域を支えたい」という中学生を、地域の方が下支えしてくださるありがたさ。学校と地域との「信頼」「絆」を実感する瞬間でもありました。

当日(土曜日)の朝から、子らは届いた具材を調理室で下ごしらえし、すいとんのタネも練り上げ、家庭科等での学びを活かします。かまどへの火付けも、ここまでの経験を総動員して取り組みます。けむりに咳き込むことも必然の経験です。「わたしにできることは何だろう。」「おいしいすいとんをつくりたい。」と、みなが探りました。
「すいとん」ができあがるまでのあいだに、ご来校いただいた地域の方に、子らによる簡単なインタビューもさせていただきました。
インタビュー項目は、次の3つ。

①おうちでは、日頃から地震や水害などに備えて、何か取り組んでおられることや意識しておられることなどはありますか?
②災害が発生した時、中学生がお役に立てることは何だと思いますか?
③私たち中学生が地域でできるボランティアについて、どんなことができるといいと思いますか?

このインタビューを通じて、地域の方とお話しする機会が持てたことも、貴重でした。そして、この3つの項目は、自らに向けた「問い」でもあることがミソです。問うことによって、自分をかえりみさせたのです。

とても具だくさんの豪華な「すいとん」。具材を提供してくださったみなさんへの「感謝の思い」と「絆」を隠し味にしてできあがった「すいとん」。おいしくないわけがありません。会場のみんなでいただきました。

こうした取り組みによってその「経験値」を確実にアップさせた子ら。
この経験をいかして、災害時には、誰よりも先に動き出すことができるでしょう。困難な時にあっても、きっとまわりの人を支えていくことでしょう。

「よし、がんばれ!」

ともに汗して、ともに人のため地域のために活動することのできる子らこそが、「未来」なのです。


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