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リライトを活かす

向田邦子さんがつづった随筆『字のない葉書』が、令和7年度から使用されるすべての中学校国語科の教科書に採用されています。中1の教科書に1社、中2の教科書に3社です。

この『字のない葉書』は、定番教材のひとつですから、中学校の国語科の先生なら一度は授業であつかったことがあるでしょう。
読者の皆さんも、「死んだ父は筆まめな人であった。」という書き出しに、中学生の頃の国語の授業を思い出されるのではないでしょうか。父が小さな妹の疎開の際に持たせたおびただしい葉書。「元気なときは○を書くように…」と。しかし、大きな○がついた葉書は、すぐに小さな○になり、やがて×になり…。そんな随筆でした。

▲ 向田邦子さん

この教材は随筆ですから、私の記事『鳥の目、虫の目』で取り上げた「大人になれなかった弟たちに…」と同様の読み進め方で学習していきます。(この記事の最後に『鳥の目、虫の目』をガイドしておきます。)

この随筆における、向田さんの「父」にまつわる体験は、次のとおりです。


▲ 「葉書」のエピソードのほうにウエイト

この随筆では、「私(向田邦子)」の目から「父」の姿が描かれることから、「父」が何をどう考えていたか、どういう気持ちでいたかがなかなか書かれていません。しかし、「私」が最も心に残っているものは、父の涙、大人の男が声を立ててなくのを初めて見たことであり、「父」の涙のわけ、その心中をどう読み取るかがポイントにります。

そこで、リライト!
リライトとは、書き換える活動のことです。
書き換えることをとおして、「父」の心中に迫らせます。

リライトさせるシーンは、次のシーンです。

夜遅く、出窓で見張っていたが、
「帰ってきたよ!」
と叫んだ。
茶の間に座っていた父は、はだしで表へ飛び出した。防火用水桶の前で、やせた妹の肩を抱き、声を上げて泣いた。

まず、「」の部分を「息子」にします。そうすることで、この部分を「父」を書き手にして書き換えさせることに子らを誘導します。そして、「父」になりきらせて( ★ )の部分をリライトさせます。もちろんこのリライトには、ここまでの学習で読み取ってきた「父」像を確かに反映させなければなりませんね。

夜遅く、出窓で見張っていた息子が、
「帰ってきたよ!」
と叫んだ。
(    ★    )

リライト後は、できあがったものを皆で交流できるといいですね。

作例
夜遅く、出窓で見張っていた息子が、
「帰ってきたよ!」と叫んだ。
わたしは茶の間を飛び出し、はだしで表へ出た。そこにたたずんでいたのは、やせて元気をなくした末の娘だった。娘の肩を抱くと、涙があふれ出た。安堵と懺悔。「ああ、生きていてくれた。つらい思いをさせてすまない。ゆるしておくれ。もう何があってもどこへもやらない。」そんな思いで娘を強く強く抱きしめていた。

※父の行動や様子の描写でしか表現されていない部分。前半のエピソードで読み取ったことをもとに、父の心中(心配、後悔、待ちわび、安心、安堵、懺悔、決意など)がリライトされるといいですね。

当時のあの「葉書」は残っていなくとも、向田さんの心の中には、家族への深い愛情を持つ父が今も残っているのです。リライトによってここへつなげたいですね。

こうしたリライトは、登場する人物の心情をとらえるための活動としてさまざまに活かすことができます。

次に示す『大人になれなかった弟たちに…』(米倉斉加年)をあつかう授業においては、母の「強い顔」「悲しい悲しい顔」にある心情をさぐらせることをねらいとしてリライトに取り組むことができます。

取り上げる場面
あまりに空襲がひどくなってきたので、母は疎開しようと言いだしました。それてある日、祖母と四歳の妹に留守番をたのんで、母が弟をおんぶして僕と三人で、親戚のいる田舎へ出かけました。ところが、親戚の人は、ほるばる出かけてきた母と弟と僕を見るなり、うちに食べ物はないと言いました。僕たちは食べ物をもらいに行ったのではないのです。引っ越しの相談に行ったのに。母はそれを聞くなり、僕に帰ろうと言って、くるりと後ろを向いて帰りました。
その時の顔を、僕は今でも忘れません。強い顔でした。でも悲しい悲しい顔でした。 

 (『大人になれなかった弟たちに…』米倉斉加年による)

課題 この部分について、「母」を書き手にして、次の書き出しでリライトしなさい。

私たち三人を見るなり、親戚の人は言いました。
「うちに食べ物はない。」
 (  ★  )

( ★ )の部分を自身の読みをいかして創作

みなさんなら、どうリライトしますか?

紹介した2つの教材に限らず、リライトが活きる学習について、さらにその可能性を探っていけるといいですね。
(行動や様子の描写でしか表現されていない部分への採用が効果的です!)


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