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♪こうも比べたがる

♪ それなのに僕ら人間は
       どうしてこうも比べたがる

SMAPが『世界に一つだけの花』で歌ったように、子らにとって、2つのものを「比べる」活動は、子らにとって取り組みやすく、また、学習を勢いづかせる、とても有効な学習活動のひとつです。

2つのものを、どういった観点から比べるか、そして、共通点や相違点は何かを探ることは、小学校であろうと中学校であろうと、また、国語科であろうと理科であろうと、多くの学習場面で活用でき、子らの理解や認識を深める優れた手法であると言え、教材研究ならびに教材開発の際には、常に意識したいものです。
よい「教材」、よい「発問」を準備したいと思ったら、このことを忘れないことです。

この記事では、
中学校の国語科での私の実践から、「比べる」ことを活かした事例を3つ紹介します。

事例➀ 『少年の日の思い出』(ヘルマン・ヘッセ)を教材とした授業

国語科の定番教材である『少年の日の思い出』には、次の太字で示すような似た意味を持つ言葉が登場します。そして、その言葉のそれぞれが、「僕(主人公)」と「エーミール」とを対比するものであり、作品の読み深めに欠かせないキーワードになっているのです。その言葉を比べ、その違いを皆できちんと確かめ合うことが大切になります。

(僕は、)こうした箱のつぶれた壁の間に自分の宝物をしまっていた。

彼(エーミール)の収集は小さく貧弱だったが、こぎれいなのとむ、手入れの正確な点で一つの宝石のようなものになっていた。

まずは、「宝物」と「宝石」。
同じチョウの収集であっても、「僕」の場合は「宝物」、「エーミール」の場合は「宝石」というのです。きちんと対比されています。
読者のみなさんは、この2つの言葉の共通点と相違点は何だと考えますか?言葉を比べてみましょう。

次の2つの言葉は、どうですか?

(僕は、)この少年(エーミール)に、コムラサキを見せた。彼は、専門家らしくそれを鑑定し、その珍しいことを認め、二十ペニヒぐらいの現金の値打ちはある、と値踏みした。しかし、それから、彼は難癖をつけ始め、展翅のしかたが悪いとか、右の触角が曲がっているとか、左の触角が伸びているとか言い、そのうえ、足が二本欠けているという、もっともな欠陥を発見した。僕は、その欠点をたいしたものとは考えなかったが、このこっぴどい批評家のため、自分の獲物に対する喜びはかなり傷つけられた。

「欠陥」と「欠点」。
コムラサキの傷みを、「欠点」とする「僕」、「欠陥」とする「エーミール」。この比較は、それぞれの人物像、ちょう集めへの姿勢の違いにまで迫れる課題となります。
言葉を比べてみましょう。

このほかにも、
作品中に登場する「ねたむ」と「にくむ」と「うらむ」、「ののしる」と「あなどる」なども、「僕」の「エーミール」に対する思いをとらえるのによい素材となるでしょう。


事例➁ 俳句を味わう授業

教科書に取り上げられている俳句を、それ単独でそれぞれに鑑賞するよりも、指導者が意図的に取り上げた2句を子らの前に示し、それらを比べて味わう活動のほうが有効です。

たとえば、

白牡丹といふといへども紅ほのか   
           高浜虚子
斧入れて香におどろくや冬木立
           与謝蕪村

子らには、この2句の共通点と違いについて分析し、鑑賞文を書こうという課題を与えます。鑑賞文を書くための比較による分析活動にするのです。
読者のみなさんは、この2句をどう味わいますか?
共通点は、「発見」「気づき」をテーマとしている点ですね。
では、違いは何ですか。
2句を比べてみましょう。比べることでそれぞれが持つ味わいどころが鮮明に浮かび上がります。

事例➂ 『走れメロス』を読み深める授業

この授業で比べたのは、太宰治の『走れメロス』と、太宰治が着想を得たとされるシラーの『人質』の2つの作品です。

次の課題を子らに与えて、比べ読みをさせます。

➀主人公「メロス」の描かれ方は、どのように違い、その意図は何か。
➁王「ディオニス」の描かれ方は、どのように違い、その意図は何か。
➂太宰治の表現の「うまさ」がうかがえるところは、どこか。
➃太宰治の作品にだけ見られる「書き出し」と「結び」の意図とその効果は何か。

➀~➃の課題に挑む際には、比較のための「観点」をみずから設定しながら読むことになり、この『走れメロス』をより深く読み味わうことへとつながります。太宰治が何を意図して作品づくりをしたのかを探るのです。課題が4つもありますから、小グループを作って分担しながら比べる活動に取り組ませ、互いに交流し合うようにしましょう。(ジグソー法を用いるとよいでしょう。)

次に示すPDFは、読み比べの際に実際に使った教材です。上下2段にして比べやすくしています。実は、これがとても大切なこと。
読者のみなさんもチャレンジしてみませんか。
読者の方が国語科の先生なら、ぜひ授業で使ってみてください



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