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それって、ホント?

批評をすること。
中学校の国語科の学習指導要領には、授業で行う言語活動の例として、文章を読んで批評する活動や、関心のある事柄について批評文を書く活動が示されています。

批評の際に必要な思考が、いわゆる「批判的思考(クリティカルシンキング)」です。対象を鵜吞みにせず、多様な視点から分析し、公平かつ合理的な判断をしていくという思考です。子らの立場から言えば、教科書に示されていることや先生の言うことなどについて、「それって、ホント?」「それって、正しいの?」と立ち止まって吟味し、判断していくことです。
子らには、なかなかできない思考ですね。なぜなら、教科書を疑うこと、先生の言うことを疑うことになるからです。「おりこうさん」はそんなことをしてはいけない、なんて思っている子らもいることでしょう。
しかし、学ぶことの主体は子ら自身であることから言えば、当然の思考、とても健全な思考であると言えます。
生涯学び続けていくためには、「大人」になっていくためには、この「批判的思考(クリティカルシンキング)」の育成が欠かせません。

この記事では、この「批判的思考(クリティカルシンキング)」をターゲットにした国語科の授業実践を紹介します。
教材は、『モアイは語る~地球の未来』(安田喜憲)です。対象とするのは、次に示す13段落~16段落です。

読者の皆さんも、「批判的思考(クリティカルシンキング)」にチャレンジしてみましょう。
では、読んでみましょう。

13段落
 では、モアイを作った文明は、いったいどうなったのだろうか。
14段落
 かつて島が豊かなヤシの森に覆われていた時代には、土地も肥え、バナナやタロイモなどの食料も豊富だった。しかし、森が消滅するとともに、豊かな表層土壌が雨によって浸食され、流失してしまった。火山島はただでさえ岩だらけだ。その島において、表層土壌が流失してしまうと、もう主食のバナナやタロイモを栽培することは困難となる。おまけに木がなくなったため船を造ることもままならなくなり、たんぱく源の魚を捕ることもできなくなった。
15段落
 こうして、イースター島はしだいに食糧危機に直面していくことになった。その過程で、イースター島の部族間の抗争も頻発した。そのときに倒され破壊されたモアイ像も多くあったと考えられている。そのような経過をたどり、イースター島の文明は崩壊してしまった。モアイも作られることはなくなった。文明を崩壊させた根本的原因は、森の消滅にあったのだ。千体以上のモアイの巨像を作り続けた文明は、十七世紀後半から十八世紀前半に崩壊したと推定される。
16段落
 イースター島のこのような運命は、私たちにも無縁なことではない。

『モアイは語る~地峡の未来』による

さて、授業です。
指導者が「では、この本文について批判的な見方をしてみなさい」と指示をしても、子らにはなかなかできません。きょとんとするばかりでしょう。
そこで、次に示す学習プリントのように、「少し無理がある」と考えるAさんの立場をあえて示し、Aさんになりきって思考させることがこの実践のミソです。批判的思考をサポートし、本文に述べられていることをきちんと精査させていく指導です。思考のプチトレーニングですね。

▲学習プリントの実際
解答例…・地球は島ではなく、表層土壌が流出してしまうことはない。
・現代では、船は木でなくても造ることができ、食料となる魚も捕ることができる。

この『モアイは語る~地球の未来』を使った学習では、こうした批判的思考を経て、地球温暖化防止機能の低下、土砂災害の増加、生態系の変化などに子らが目を向け、自分事として意見や主張を持つようにさせることが大切です。「それって、ホント?」「それって、正しいの?」に続けて「じゃあ、私は、どう考えたらいい?」なのです。
ここまでさせることによって、学ぶことの主体が自分自身であることをさらに確かめさせます。


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