鳥の目、虫の目
僕の弟の名前は、ヒロユキといいます。僕が小学校四年生のときに生まれました。
このようにはじまる『大人になれなかった弟たちに…』は、米倉斉加年さんがつづった随筆で、中学一年生の国語の教材として子らが使用します。
読者の皆さんの中にも、学習した記憶のある方が多いことでしょう。太平洋戦争の最中に生きた「僕」と「母」と弟の「ヒロユキ」のことがつづられます。生まれて間もないヒロユキは、母と僕に見守られて死んでしまいます。栄養失調による死です。
この記事では、随筆(エッセー)をあつかう国語の授業の進め方について、この『大人に…』の教材をもとに記していきます。
まず、この教材での「読むこと」の指導内容(中1)は、次のとおりです。
ただし、これは指導者サイドのことであって、子らにとって学び取りたいことは、随筆(エッセー)の読み進め方です。これから先の人生の中で、随筆をどう楽しみながら読んでいけるかについて学ぶことです。自分の足で歩けるようにする学びです。
そこで、随筆の読み進め方について、学習のはじめに次のように示し、➀から➃の流れで進めていくことを確かめます。
さて、
学習に向けて指導者が必ず準備すべきものは、『大人に…』の文章のすべてを1枚にまとめたプリントです。A3サイズ1枚にまとめます(まとめきります)。青色インクの印刷なら最高です。このプリントは、次の点でとても有効です。
このプリントの準備は、この『大人に…』の随筆を「鳥の目」になってながめることとなります。鳥の目とは、高いところから俯瞰(ふかん)して全体像を見る目のことです。この1枚に子らが上空から目を落とすのです。タブレットPCに示したものでは、こうはいきません。
この「鳥の目」で見れば、
この『大人に…』の随筆は、次に示す最後の一文に「僕」の経験したことが端的に示されていることがわかるはずです。そして、指導者として、次のような構造をとらえます。
これによって、学習活動の方針が見えてきますね。「ひもじかったこと」がどのように描写されているか。「弟の死」がどのように描写されているか。そして、「一生忘れません」とする筆者の思いはどんなか。
とりわけ、次の「問い」は重要です。
大切な表現へ目を向けさせて、「比較する」活動によってそれを勢いづかせる「問い」です。
読者の皆さんは、どう考えますか?
「忘れません」と「忘れられません」。その違いは?
シンキングタイムです!
「忘れられません」の方は、忘れようとしても忘れることができないというニュアンスがあります。それに対して、「忘れません」の方は、忘れてはならないものなのだという意思・決意のようなものを含みます。実は、この確かめが、学習の終盤であつかう次の「問い」につながります。
子らの中には、「大人になれなかった弟たちに、今はあのころと違って平和になったのだよと伝えたい」という回答があるかもしれませんが、これでは、先ほどの「一生忘れません」という強い思いをきちんととらえられていません。「きみたちの死のことを僕は絶対に忘れはしない。忘れてはならない。二度と戦争によって大切な命を落とすことのない世の中にするよ。」というところまで読み取らせたいものです。
さて、
「鳥の目」によってどういう学習活動を展開していくかの方針がたちましたね。ここからの学習で必要なのが、「虫の目」です。虫の目とは、細部にこだわってよく見る目のことです。描写の細部に目を向け、忘れてはならない2つのことについての読み深めがスタートしていきます。
次に示す学習活動には、ぜひチャレンジさせたいですね。
読み深めるときの「鳥の目」と「虫の目」。
子らにぜひ意識させたいと思います。
なお、この2つの「目」のほかにも、
ものごとを逆の視点で見たり、発想の転換を図ったりする「コウモリの目」や、時代や社会の流れ、未来への潮流を見てとる「魚の目」というのもありますね。これもまた、持っていたい「目」です。