普遍
特になにがあったわけでもなくて、本当になんとなく、ただそれだけのこと。
それでもあの人は答えを欲しがったし、わたしも欲しがった。
朝起きて服に袖を通すのとおなじくらいに、考えることなくした行動に意味が欲しいのだ。
くだらない心理戦に、わたしの心は底知れぬ闇に、ふかく、深く落ちていく。行方の分からない深淵に沈んでも、光を探そうとも、息の仕方さえもあやふやで、それすらも考えるのが億劫でならない。
諦観していた。何にも、誰にも、あまつさえ自分にすら、おなじように視ていた。そんな生活にも、精神にも、慣れてしまっていることに、感情の揺さぶりさえ起きない。
それが結果で、結論だったのだろう。変えたいだとか、変わりたいだとか、そんな理想もなく満足してしまったのだ。安定して、不安定な自分自身に、愛着すらあって、光を拒絶した。
死にかけの精神で生きること。それがわたしには光だった。カリスマ性と似たような。それが好きだった。
わたしにしか分からない感性、わたしにしか視えない世界、わたしにか聞こえない音、くすぐられるような冒険心。
失われてから気がつく。それらの尊さに、稀有さに、羨望に、期待に。
「普通になりたい」
それが、わたしの願いで希望のようなもの。
悩んでも、答えは見つからず、ただ陰鬱な感情ばかりの中に、ひとり突っ伏し、辛うじて息をしている。
わたしは苦しいのだと嘆くことはあれど、変化を求めることはしなかったのは、その現状に満足していたからかもしれない。
救われたいわけでもなかったわたしは、わたしという人生の一端を捻じ曲げられることを嫌って、必要以上に踏み込む人間とは距離を置いた。
結局わたしは、ないものねだりをしているのだろう。漂い流れる水の中を、流れに逆らい泳ぐこともせず、ただ流されていく。それが、わたしだろう。