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海外旅行先で知り合った人々 (ドイツ ダルムシュタット)


ダルムシュタットのマチルダの丘

2019年の冬、私は当時の勤務先を辞めてドイツで2週間の一人旅を楽しんでいた。旅行中のある日、予定がドタキャンになったので、思い立ってダルムシュタットに行ってみることにした。

ダルムシュタットはドイツ中西部、フランクフルトから南に約30kmほどのところにある。ダルムシュタットの北、マチルダの丘はむかし芸術家コロニーがあったところで、美しいロシア風建物群もあり、2021年にはその一帯が世界遺産に登録された。

私は元々美術館巡りが好きで、この投稿のトップ画面にある「キス」のモザイク画を直接見てみたかったのと、宿泊先のフランクフルトからさほど遠くないので日帰りでダルムシュタットを訪ねるのも良いかなと思ったのだ。

博物館は休館、そして道に迷う

フランクフルト中央駅から電車で約30分、ダルムシュタット駅に到着。マチルダの丘は歩いて行くには遠すぎるのでウーバーを呼ぶことにした。

少し手間取ったが無事にウーバーに乗り、マチルダの丘に着いたものの、目当ての博物館や教会などは全て閉まっていた。まだ午後の早い時間だったが、外観からみてどうやらリノベーション工事中。事前リサーチが足りなかった。

「キス」のモザイク画もあるにはあったが、教会の入り口には鉄格子がはまっていて、格子の隙間からのぞいても一部しか見ることが出来なかった。

残念だったが仕方ないので、建物の写真を撮りながら近くを歩き回ってみた。興味深い建物がいくつもあり、知らず知らずのうちに丘のはずれまで歩いていたようだった。

真昼間なのに空はどんよりと暗く、とにかく寒い。冬のドイツの寒さをなめていた。ダウンコートを着込んでいても寒い。お腹も空いてきたので、まだ14時過ぎごろだったが早めにフランクフルトに戻ることにした。

そこで初めて道に迷ったことに気がついた。ネットも繋がらず、ウーバーも呼べない。
通りすがりのご婦人に駅までの道を聞いてみたが、英語が通じない。2019年当時、私はドイツ語は全く話せなかった。

とにかく大通りまで行けばどうにかなるかなと思ったが、住宅街のど真ん中で方向もわからない。方向音痴の私は自分がどちらに向いているかも分からなかった。
焦る気持ちをなだめながら歩いていると、バス停発見。バスで何とか街の中心部に行ければ、駅まで戻れると思ってバス停の前で待ってみたが、バスが来る気配は全くない。

チュニジア人留学生のSさんと出会う

ドイツの冬は日が暮れるのが早い。心細くなっていたとき、偶然通りかかったヒジャブ姿の女性が英語で「何してるの?」と声をかけてきてくれた。

私「駅に行きたいので、バスを待ってるんです」
女性「え!?今日はバスはストライキだから来ないわよ!」

ストライキって、そんなん知らんがな…(T_T)

私「え、そしたら駅まではどのように行けば…」
女性「ここから10分ほど歩いたところにトラム(路面電車)の停留所があるの。そこからなら、ちょっと時間がかかるけど駅まで行ける。私も今から行くところ。」
私「ありがとう。ついて行っていいですか?」
女性「もちろん。私はこの後仕事があるけど、そのトラムに乗るから、駅まで送ってあげる!」

暗くなる前に親切な彼女に会えて良かった。(T_T)
頼もしくて嬉しい言葉のおかげで少し気持ちが落ち着いた。トラムの駅まで歩きながらお礼と自己紹介をする。

私「ご親切にありがとう。日本から来ましたきいこです。」
女性(以下Sさん)「私はSです。ダルムシュタット工科大学の学生です。チュニジアのチュニスから来ました。」
私「専攻は何ですか?聞いてよければ。」
Sさん「殺虫剤を使わないで害虫駆除する方法を研究しているの。ドイツはその分野が進んでいるから。」

ダルムシュタット工科大は町全体にキャンパスの建物が点在している。Sさんは2019年当時は修士課程で、博士号をとるまではドイツにいると言っていた。トラムの駅に着くまでの道中、そしてトラムの車中で駅に着くまでの間、彼女の故郷チュニジアの話をいろいろ聞いた。大変な努力家の彼女は4カ国語を操り、英語とドイツ語で論文を書く。Sさんは日本人と話をしたのが初めてらしく、日本の話もいろいろ聞いてきた。初対面なのになぜか話が弾むのが嬉しかった。

Sさん「ドイツでどこか行きたいところはある?」
私「お風呂か温水プールに入りたいかな。今日は冷えたから。」
Sさん「温水プールならこの近くにもあるよ。明日時間ある?

一瞬「えっ?明日?」と思ったが、これまでの話で悪い人ではなさそうだし、何よりドイツでお風呂に入れそうなのは惹かれる。

私「え!時間ある!行ってみたい!
Sさん「私は明日午後から予定があるから、朝からでもいい?」
私「大丈夫!またダルムシュタットの駅に来たらいい?」
Sさん「OK、じゃあ明日、駅前で軽く朝ごはん食べてから行こう。」
駅前で連絡先を交換してSさんと別れ、夜にはフランクフルトに無事戻ることができた。

51歳、ドイツで子供用のビキニを着る

その翌日、朝9時前にダルムシュタット駅に再び集合。駅前のカフェで朝食をとる。Sさんは私のためにフルーツまで買ってくれた。

Sさんは宗教上の理由で肌を全て覆うタイプの水着を持参しており、水着無かったら良かったら貸すよ、と言ってくれたが、それはいくら何でも申し訳ないので、プールに向かう途中で安い水着を買うことにした。

ショッピングモールには冬でも水着売り場があった。ところが「Frauen(成人女性)」の表示のある水着はどれもサイズが大きすぎた。店員さんに聞くと、「Kinder (子供)」のコーナーならサイズがあるのではとのこと。

店員さんの言う通り、確かにあった。が、小学生の女児が着そうなフリフリの花柄ピンクのビキニだった。51歳のおばちゃんが着るには厳しいデザインだがここはドイツ。誰も気にしない。その水着を購入していざ温水プールへ。

水中で音楽が流れる温水プール

ダルムシュタットの温水プールは私の想像の斜め上を行く楽しさだった。
通常の室内温水プールの他に、冷水プール、屋外打たせ湯、ジャグジー、サウナと種類も豊富で、時間があれば一日中でも遊んでいたかった。

温度は日本の温泉よりはぬるめで、水着を着て入るのだが、それでも久しぶりにシャワーではなく湯に全身を浸かってリラックスできたのは有り難い。
Sさんは何度かここにきたことがあるのだろう、使い方や楽しみ方を適宜説明してくれた。

打たせ湯は屋外にあり、ダルムシュタットの景色が見渡せるので気持ちが良かった。まさかドイツで露天風呂のような経験ができるとは。

私が一番気に入ったのは、水中で音楽が流れる温水プール。どういう仕組みか、水の中に入らない限り音楽は聞こえない。
大きめの浮き輪につかまって、ぼんやりと水中で音楽を聞いているとなんとも言えない癒し効果を感じることができた。

客観的に見たら、子供用のビキニを着たアジア人の中年女が大きなプールにうつ伏せで浮かんでいて微動だにしないというのはかなりホラーな光景だが、そんな格好の私に最後まで付き合ってくれたSさんには感謝しかない。

↑こちらがその時行った温水プール。(ドイツ語サイト)
お値段もリーズナブル。機会があればまた行きたい。

4年後の再会

Sさんとはその日ダルムシュタットの駅前でFacebook の友達申請をして別れ、その後はたまに「いいね」や投稿にコメントする程度のゆるい付き合いが続いていた。

出会ってから4年後の2023年、私のドイツ短期留学が決まったので、彼女に連絡をとってみた。
Sさんは無事に修士課程を終えて、予定通り博士課程に進んでおり、今は妹さんといっしょにダルムシュタットの近郊に住んでいるという。また会いたいと言うと、なんとお家に招待してくれた

待ち合わせは再びダルムシュタットの駅。
前回閉館していた博物館にもリベンジ。今度はドイツ語が話せるようになったのでちゃんと見学できた。4年前に格子の隙間からしか見られなかった「キス」のモザイク画も、今回はしっかり見ることができた。
(この投稿のトップ画像がその時撮った写真。)

Sさんは妹さんと2人でチュニジア料理を作って振る舞ってくれた。

姉妹で作ってくれたクスクスのお料理。美味しかった。

食事の後は妹さんとご近所さんも交えて夜更けまでお茶飲みながらおしゃべり。ご近所さんはドイツ語のみ、Sさんの妹さんはフランス語しか話さないので、ドイツ語、フランス語、英語が入り混じって夜更けまで楽しい時間を過ごした。

思いつきでやって来たダルムシュタット。言葉が通じなくて道に迷った町で、4年後にこんな楽しい時間が待っていることを、あの日寒くて心細かった私に教えてあげたい。

私の友人知人の中で、旅先での何らかの困り事をきっかけにして知り合えた人は意外と多い。幸運なことに、その時だけでなく、日本に帰国した後も細く長くお付き合いが続いている。

もしSさん達が日本に来ることがあれば、その時は全力でおもてなししたいと思っている。


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きいこ
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