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カウントダウン。

4歳下の弟はカウントダウンすると言うことを聞いてくれた。たとえば実家の2階にある寝室から布団を取ってきてほしいとき。「弟よ、俺は寒い。上から毛布を取ってきてくれ」と頼んでも、弟は「いやだ」と言って私の頼みを聞いてくれない。おそらく小学生とか中学生くらいのときだったかと思うのだけど、言うことを聞いてくれない弟に言うことを聞かせるためにはどうすればいいか? を考えた結果、そうだ、カウントダウンをすればいい、ということに気づいた。頼みを断る弟にかまわず「10、9、8、7、6、5……」と大きな声でカウントダウンをする。あいつはいつも「くそっ!」と言いながらダッシュで上に行き、ふかふかの毛布を取りにいってくれた。毛布を手にもった弟が息を切らして私のもとに戻ってくると、こう言うのである。「間に合った?」と。かわいい野郎だ。だからいつもカウントダウンをした。オレンジジュースが飲みたいとき。クッキーを食べたいとき。リモコンを取ってほしいとき。いつでもカウントダウンをすれば、弟は「いやだいやだ」と言いながらも体が勝手に動いてしまうようだった。そういうことを何度もやっているとさすがに弟も慣れてきたようで「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1」と言っても動こうとしない。動かない弟をみて「おい!」と言っても動かない。私も私で、テコでもショベルでも動きたくなかったので、カウントダウンが終了してもまた新たにカウントダウンを始める。「10、9、8……」とまた言うと弟は「だからいやだって!」と言うのだが私は聞かない。「これ、取りにいかないと終わらないよ」とニヤニヤしながら言うと、残り「3、2……」のところでダッシュをしてくれる。時が経っていつのころからか、私は自分のことは自分できちんとやるようになったから、カウントダウンをすることはなくなった。でもまたあいつに会ったら。なにかしらムリな、いやがるお願いをしてやろうと思っている。弟は私に頭が上がらないから、もうカウントダウンなんてしなくたって私の言うことは最敬礼で聞くだろうと思う。なのだけど、いやがるあいつをニヤニヤしながら見つめてまた数をかぞえてやりたい。

<あとがき>
大人になるとだいたいの頼みごとはいやな顔をしないで受け入れてくれていたような気がします。カウントダウンをしなくたって「お前の言うことは聞く」みたいなことを言う野郎です。もちろん私も私で大人になりましたから、彼から何も頼まれなくたって、助けてあげるべきときは助けるようにしています。なぜなら私は彼のお兄ちゃんだからです。今日も最後までありがとうございました。

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