見出し画像

ウチの社長とやけに親しいナゾの人。

いつだったか、だれの番組だったか忘れたが、
あるお笑い芸人のラジオを聴いていた。

そこでの会話にこんな話題があった。

芸人A
「なんかさ、うちの事務所の社長とやけに親しいあの人って、いったいナニモノなんだろうね?」
芸人B
「あ~、あの人でしょ。たまに事務所に来るちょっと色黒の人。社長にやけに馴れ馴れしいんだよねぇ」
芸人A
「そうそう、アロハシャツでな。何をやっている人なのか、まったくわからないんだよな」
芸人B
「きっと、どこの会社にもああいうナゾの人っているんだろうなぁ」


これを聴いていた当時の私は20代前半だったと思う。へぇ、そういうものなのかな、と思って聴いていた。

社長がどうとか、みたいな世界は全く分からないから、どこか遠いお話、だけど分かる気もする。

社長とやけに親しいナゾの人。

一体あの人はだれなんだろう?
と疑問に思う従業員との構図がそこにある。





札幌市内に多店舗展開している喫茶店がある。

そのうちの、ある店舗に私は出没する。この記事だって、初投稿の記事だってそこで書いた。私の記事にたまに登場する「喫茶店」は、このお店であることがほとんどである。


今から4年ほど前、まもなく私が保険業界に転職するかしないか、というタイミングで、この会社の社長を紹介された。多店舗展開しているものの、従業員の数が足りないというのだ。

私の前職は、企業の採用活動をコンサルティングする、みたいな流行りのものだったから、この社長に会いに行った。


ある喫茶店の奥にオフィスがあり、社長と役員が待っていた。社長は白髪頭で、少し背は小さく、ニコニコしている。こんな私にもこだわりのコーヒーを出してくれた。


「いやぁ、イトーさんね、コーヒーは儲からないんですよ」


という社長の一言から始まった商談は、
私がひたすら質問し倒して状況や課題を聞く。


「今度、新店をオープンするんですけどね、きっとそこも微妙なんじゃないかなぁ」


というような話を聞きながら、
最後に私から最適と思われる解決策を提案した。


社長は、

「うん! とってもいいじゃないですか!」


と言ってくれたが、寸前のところで役員からの反対があり、結局、お取引をすることはなかった。役員を説得することを忘れていた。この辺が2流である。


「イトーさん、せっかく熱心に教えてくれたのに、すいませんね」


そんなメールをくれる社長に、いえいえ、なんて答えつつ、ふと気になることがあった。

「新店をオープンするんですよ」


気になるなぁ。どんなお店になるんだろう。
そこで私は、社長が言っていた新店に行ってみた。

会ってから、1か月後くらいだった気がする。


お店に行くと、


「祝開店」のお花がたくさん置いてある。

新しい香りがする。

そこにコーヒーの香りも混ざる。

従業員さんがいる。

お客さんは?

あまり入っていない。


厨房を覗いてみると、だれよりもセカセカ働くおじいさんがいた。社長だ。お取引はできなかったけど、この社長のことは人間的に好きだなと思える社長。がんばってる。

自分から声をかけるのは野暮だなと思って、社長が気づいてくれるのを少し待った。するとすぐに目が合った。


社長
「あ! あのときの!」
イトーダーキ
「ふふ、その節はどうもでした」
社長
「いやいや、わざわざどうもどうも! ささっ! そこにお座りください! おーい! コーヒーを一杯!」
イトーダーキ
「な、なんか、すいません」
社長
「やっぱりコーヒーは儲からないですよ。なんせ何時間いたって、ワンコインなんですから」

社長は私の目の前にわざわざ座ってくれて、どうぞごゆっくり、と言いながら、会話を終えてまた厨房に戻っていった。


それからも定期的にこの喫茶店に行く。

たまに社長がお店にいる日がある。

いついるのかはわからない。

何かを売りつけてやろうという下心もない。


半年に1回くらいでタイミングが合い、挨拶を交わす。きっと社長は私のことを詳細には覚えていなさそうだ。


でも、顔は分かってるから、会うといつもニコニコして「いつもありがとうございます。ごゆっくり」と言ってくれる。



何回か喫茶店で社長に偶然会って、
雑談をしながら「あっ」と思った。



社長とやけに親しげに話すナゾの人。


私がそれになってるじゃん。




思えば、たしかにこの喫茶店の店長さんや従業員さんは、やけに私に丁寧にしてくれる。そんな敬意を払われるような人間ではないから、いつも申し訳なく思う。

こいつは誰なんだろう、
と思われていそうだ。


このお店にくると私は決まって社長がこだわってるコーヒーを飲む。そうして仕事をして、空き時間にエッセイを書く。



読んでくださった方が少しずつ増えてきて、心がほくほくする。このお店のおかげだ。


でもまさか、自分がそういうナゾの人間になるとは思ってもなかったから、恥ずかしい。


どう思われているんだろう。

ちょっと気になる。
けれども名乗りもしない。
ただ挨拶をするだけ。


うん。

これからも、たまに来るナゾの人というキャラクターで、ナゾをナゾのままにしておこう。


この喫茶店は大好きだ。
いつか何かの役に立てたらいいな。

<あとがき>
社長がすばらしい人なので、お店の従業員さんもすばらしいんです。接客は誰に対しても丁寧だし、電源もWi-Fiもあります。かといっておしゃれ~な感じでもなく、私にとっては本当にちょうどいいお店です。このお店からたくさんのエッセイを書いてきました。いつか御礼を言いたいなぁ。今日も最後までありがとうございました。

◾️この記事では、まさに喫茶店が登場する!

【明日夜9時】ギア3さんとの雑談LIVEはここ!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?