だれも知らない私の顔。
エレベーターに乗る。乗客は私を含めて3人。
エレベーター内の最後尾に立つ。
他の2人は私の前に立っている。
こういう構図ってあるでしょう。
要するに、背後をとっている場面。
エレベーター内には完全なる他人同士、よっぽどのことがない限り、こちらを振り返ってくることはない。
こういうとき、みんなどんな顔してる?
スマホを真顔で見る?
エレベーターの階数表示を見つめる?
それとも前にいる人の背中をまじまじ見る?
エレベーターの最後尾。
こういうときの私の顔は、こうだ。
そう。
つまり、変な顔をする。
エレベーターの中で。最後尾で。
絶対に振り返ってこない赤の他人の後ろで。
変な顔。
こっそり。ゲーム感覚。
「あぁ、この人たちはいま、真後ろで俺がこんな顔をしてるだなんて、想像もしてないんだろうなぁ」なんて、んなことすら考えず無の境地でやる。
エレベーターを降りるときには、顔を元に戻す。表情筋がきちんと動くから、顔を戻すまでに1秒もかからない。筋肉ってすごい。
あ、降ります、みたいなスマシ顔で、
スマートに降りる。
軽やかに颯爽と降りる。
…
最近はマスクをしてるから、口元があらわになることが、ほぼない。たとえ目の前にお客さんがいたとしても、マスクは外さない。
ムズムズ。
ここ数年は目元で感情を表現するから、口元はどうでもいい。だって隠れてる。マスクは外さないんだから。だーれも見てない。見てるけど見えてない。
目の前にはお客さん。
ああでもない、こうでもないと話す。
少し雑談をする。お互いに笑う。
あはは〜、なんて言いながら話す。
ムズムズ。
たとえ目の前に人がいて、視線が私の顔に向けられていたとしても、この口元は見えない。だってマスクをしてるから。
てことは……いけるんじゃね。
よし。
やるか。
タイミングを伺う。
いけるか?
いや、まだまだ。話に集中しろ。
どうだ? いける?
落ち着け。指摘されたらおしまいだ。
ムズムズしながら、チャンスを伺う。
敵が見ていない隙に何かをやる、
って、そんなゲームあったな。
あ〜、ゼルダの伝説だ、そうだそうだ、
『時のオカリナだ』と思いながら。
とうとう我慢できなくなる。
マスクの下は、こうだ。
毎回やってるわけじゃない。
2ヶ月に1回くらいの頻度でやる。
思い出したようにやる。
絶対に私だけではないはずだ。
え、そんなことをしてるんですか、とガチで指摘してくるような方はこの中にはいないはず。仕事はガチのマジで本気でやる。
けれども、同じような変顔をされる方は……
きっといる。
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