ちんぷんかんぷんの顔。
日本語って何万語あるんだろう。数ある日本語の中でも、きょう出張先の福岡に向かう飛行機内でこれを書いている私の頭の中にはずっと同じ単語が反響している。
すなわち、ちんぷんかんぷん。
ちんぷんかんって、かわいくないか?
仮に、日本語の各語に人格を持たせたとする。たとえば「礼儀」という言葉からは、なんだかスーツ姿のキチっとした人の姿が思い浮かぶ。礼儀という言葉が来ている洋服の色はきっと黒。
それから「これ」という言葉。「これ」という言葉に人格を付与することは非常に難しいが、まぁどちらかというと可愛い部類に入りそうだ。「これ」という2文字の響きからは、まだ5歳くらいの子どものような可愛らしさがある。服の色はたぶん、スカイブルーだ。かわいいな、これ。
言葉に人格を与える、という意味の提示は済んだから、このまま話を進めたい。ちんぷんかんぷんだ。
まず、ちんぷんかんぷん。
文字数にして8文字。もうかわいい。「ある状態や事柄がさっぱり理解できない」という意味で使われるちんぷんかんぷん。意味もかわいいじゃないか。
「そうか、ちんぷんかんぷんクン、君は理解ができないんだね。じゃあ教えてあげないとね」というやさしい気持ちにさせてくれる。それがちんぷんかんぷん。
ちょっと「ちんぷんかんぷん」を音にしてみてほしい。これを読みながら「ちんぷんかんぷん」と発音してみるといい。「ぷ」の破裂音を感じると同時に、8文字で構成されたこの音のリズムの良さを感じることと思う。そう、リズムがいいのだ。ちんぷんかん、ちんぷんかん、ちんぷんかんぷん。
誰かになにか難しいことを説明したとして「どう? 理解できたかな?」と聞くと、相手が理解できていない場合、こう言ってくる。
これはちょっとイラッとする。なにが理解できないんだよハゲ、とでも言いたくなる。
これが、「いやぁ、さっぱりわかりません」と言われると、なんだか少しだけ緩和されるような。なんだよ、さっぱりわからんのかいハゲ、となる。
気を取り直して、
「つまりこれが、〇〇という考え方でね。いま説明したことを活かすと、次はこういう考え方ができるんだ。実に論理的だろう? どうかな、ご理解いただけたかな?」
と聞いたとする。
キョトンとした顔でこう言ってくるわけだ。
「いやぁ、ちんぷんかんぷんですね」
ズッコケてしまう。
ぶっ飛ばそうと思って振りあげたこぶしを、思わずしまってしまいそうになる、そういうかわいらしさ。
ちんぷんかんぷんの文字数の多さ、「ぷ」の破裂音、妙なリズム、まるで呪文のような不可思議さ、そしてなにより、なんかほっとけないかわいらしさが「ちんぷんかんぷん」にはただよっている。
ちんぷんかんぷんの顔は、
すっとぼけたかわいい顔をしていると思う。
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